第6話

短時間であったが、あんなこんながありながら、どうにか屋上の屋外スタジオに到着。


「では、初めに皆さんにお聞きします、胎児の格好で全身布巻きする[おとなまき]を知っていますか?」

先生が言った[おとなまき]を俺は知っていた。

たまたま、見ていたテレビで特集していた。

大人が赤ん坊のように体を丸めて、布に包まれるというもの。

見た目にはキツそうに見えるが、体験した人たちは安心感があるや落ち着くという意見が多かった。


先生はそれをやろうとしているようだが、肝心の体を包む布がどこにも見当たらない。

先生の横にあるのは大きな黒いゴム風船だけだった。

「いつも教室で皆さんの姿を見ていて、ラバースーツを着ているので、ドレッシングエイドを使えば巨大風船の中で[おとなまき]ができるのではと考えたんです」


先生は元気に話しているが、すごい事を言っている。

半分呆れながらも、正直[おとなまき]を見た時、俺は衝撃を受けた。

小さく丸まった布の中に女性がいる事に興奮を覚えた俺は今から起ころうとしている事にテレビで見た時以上の期待と興奮をしていた。


先生が送風機で膨らませて、1人目のノリのいい生徒さんが率先して巨大風船の中へ頭から入ろうとするのだが、そうそう上手くはいかない。

そこで唯一の男の俺が呼ばれた。

男性の力でしっかりと巨大風船の口を広げているその間に頭を入れる。

頭が風船の中に入った生徒さんは、初めての巨大風船に子供の様に頭を自分で叩く様にして、はしゃいでいる。

見ている生徒さんからも面白そうの声がチラホラ。


その後、自力で全身が風船の中に収まると、かなりの空気が抜けてしまったので一旦空気を補充する。

先生はホースの付いたロートのようなものを巨大風船の中の生徒さんに渡す。

ロートにはゴムバンドのようなものがついていて、ロートの広がった部分を鼻と口に当てて、ゴムバンドを後頭部に回して固定するように指示した。

ホースは風船の外に出ているので、生徒さんの呼吸は確保されているので、窒息してしまう心配はない。


ここで先生が風船の中の生徒さんに言った。

「胎児のポーズをして下さい」

生徒さんが胎児のポーズをすると、先生はゆっくりと風船の空気抜いていく。

徐々に小さくなる風船。

風船の表面に生徒さんの体の凹凸が分かり始め、最終的に全て空気が抜けると生徒さんの体が彫刻のように浮き彫りになった。

胎児のポーズのまま彫刻物のようになった生徒さんの風船から、伸びる呼吸用のホース。

ホースを通して静かに呼吸している音は聞こえるが、助けを求めたり苦しんでいる様子はない。


先生は風船の口をホースに絡めて縛る。

先生は何か納得したようにウンウンと頷いた後、風船の中の生徒さんにどんな具合か聞いてみる。


生徒さんは風船の外に伸びるホースから、「気持ちいいです、出たくないです」と答えた。


先生は生徒さんに「出たくなくても30分経った人から解放していきますので、それまで存分に堪能して下さい」と言って、生徒さんも返事をしていた。

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