第3話 スラー

「ふんふんふふ~ん♪」


「フルートさん、めっちゃしっぽブンブンしてるね」


「当たり前だよ!こうやってオルガンと腕を組んで歩いてるんだよ!しっぽだってブンブンするよ。えへへ~これからはずっと一緒だね」


「確かに一緒にいる時間は増えるね。てか胸が当たってるけど大丈夫?」


「うん、大丈夫!気持ちい?」


「うーん……気持ちい?かなぁ~?」


「えへへへ、良かった。スラーの村が見えて来たね」


「フルートさん、さっきより胸当たってるけど?」


「そうだよ。当ててるよ!悪い?」


「うーん、フルートさんがイヤじゃなきゃいいけど」


俺達の向かっているスラーはダンジョンでもっとも人里に近い村だ。


「見えてきたね一面黄金色だねぇ~!いいねいいね。オルガンが来てからすっかりお馴染みの景色になったね」


「そういえばそうだね。俺が来るまでは作物を育ててなかったからね」


目の前には黄金色の麦畑が広がっていた。


「おかげでおいしいパンが食べられるようになったよ。ありがとう」


「そうなの?」


「そうだよ。えへへ」

そう言うとフルートがスリスリしてきた。


「今年もベースさん達のお陰で見事に実ったね。今回は麦だけじゃなくてお米もできるよ」


「へぇ~楽しみだね」


「おーい!オルガン」

小麦畑から、ガタイの良いオークの兄ちゃんが出て来た。


「ベースさんどうも」


「おうオルガン!今日はフルート様と一緒なんだな」


「そうなんだよ。さっきまたフルートさんに助けてもらっちゃって」


「むぅ~あんなの助けた内にはいらないよ。それよりベース、今日は僕たちこの村に泊まるからね」


「えっフルートさんも?」


「嫌なの?」


「嫌じゃないけどいいの?」


「うん、いいんだよ!なんたって僕は」


「オルガンのストーカー」


「そう僕はオルガンのストーカー!いつも、オルガンから貰ったアイテムの匂いをクンカクンカ、スーハスーハしながら良い匂いだなぁ~って楽しんでいるんだから!今日だって城でオルガンから貰った小物入れをクンカクンカしてたら、森の方からオルガンの匂いがしたから真っ先に会いに行ったんだよ!そうしたら、クサイ人間の……しかもメスガキの臭いまで……」


「……うわー」

ドン引きする俺。

固まるフルートに、声を出して笑うベース。


「くくくっあははははッ、そうですよねフルート様はオルガンが大好き過ぎてくくくっ」


「うーー!!ベース、僕を怒らせたね。本気で怒ったよ!」

フルートが顔を真っ赤にして、牙を剥き出しにして怒りだした。


「あははははッ、悪かったですよフルート様、お詫びにとっておきのを用意するので怒らないで下さいよ」


「そう言ってまた僕で遊ぶつもりなんでしょ!!」

ベースに体を震わせながら威嚇するフルート……あのー威嚇中に俺に抱きつくのやめてもらっていいっすか?


「大丈夫です」

そう言うとそっとベースはフルートに耳打ちした。


「うん、許す」


「何があったの?えっ何?」


にへーとした顔のフルートに、ニヤニヤ顔のベース。

いやマジで何を言ったの?


「ではお二人は同じ家に」


「それは流石にまずいんじゃないかな?」


「どうして?オルガンは僕のものだよ?それに3日も森に来なかったんだから一緒に寝るのは当然だよね?それとも嫌?」


「嫌ではないよ。でも当然ではないと思うよ……あと俺はフルートさんの所有物じゃないからね」


「えっ?オルガンってフルート様のものじゃないのか?」


「オルガンは僕のものだよ」


「えっ?ベースさんも俺がフルートさんの所有物って認識なの?」


「だってなぁ」


ベースは俺達の事をまじまじと見た


「えへへへ~幸せ♪」


フルートはぎゅっと強く抱きついた。


ベースもニコニコとほほえましそうにこちらを見ている。


「この感じなんだか懐かしいなぁ~」

風に揺れる麦畑を見ながら思わず目が細くなった。


「あっごめん」


「いいんだよ」


フルートの声色はとても優しかった。


「……」


ベースは静かに麦畑を見つめた。


「そ、それじゃあみんなに会いに丘の上に行こうかな」


「僕も行くよ」


「オルガン、いつもありがとな。妹も喜ぶよ。それとオルガン、いつでも歓迎するから、何かあったら帰っておいで!何かなくても帰っておいで」


「ベースさん本当にありがとう。じゃあ行くね」






——————







「みんな来たよ。今年も豊作だね」

俺は村を一望できる丘の上に建つ墓に語り掛けた。


「いや~またフルートさんに助けてもらっちゃってね」


「あんなの助けた内に入らないよ」


「そうは言っても俺は嬉しかったんだ」


隣でほほえむ彼女はとても優しかった。


「本当にここはいい村だよ。のどかで温かくて……優しくて」


俺は拳を強く握った。


「やべぇみんなに会いたくなってきた」


フルートは俺の頭を優しくなでてくれた。


「ありがとうフルートさん、大丈夫!今も幸せだよ」


俺は墓をなでながら


「次は、今年の実りを持ってくるからね!それじゃあまた」


俺がそう言うとフルートは


「また来るね」


そう言って二人で墓を後にした。







——————








「やっぱり僕はオルガンの事が大好きだよ。えへへへ」


フルートは、ニコニコしながら肩をよせ、嬉しそうにしていた。


「フルートさん上機嫌だね」




「うん、今すごく幸せ!」

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