第2話 ダンジョンのボス

「うーん、もう指先も動かねぇ~誰か助けてくれないかなぁ~」

俺は動けず困っていた。


「ねぇオルガン、僕はいつまで我慢すればいいのかな?」


漆黒しっこくの軍服を身にまとう、色気たっぷりの犬耳の美女は、流れるような黒髪をかきあげ、にっこりとほほえんだ。


「フ、フルートさん!いつからいたの?てかどこから!?ビビったわ!まじで心臓止まるかと思った」


「ご、ごめん。オルガン達が森に来てからずっとそばにいたよ。まぁ気配は消してたけど。でもオルガンも悪いと思うよ。最近森に来てくれなかったじゃないか!」


「いや3日前に来たけど?」


「3日も来なかったんだよ!これは許せない事だよね。罰として僕を今すぐなでなでしてッ」


「なんでや~!てか体がしびれて動かないんだけど……」


「もうしょうがないなぁ~」

フルートはそう言うと俺の目の前でクルクルと指を回した。


「はい、これでしびれは無くなったでしょ?」


「魔物驚異の魔法術すげぇー!流石フルートさん」


「こ、こんなので褒められてもぜんぜん嬉しくないんだからね、それより早くなでなでしてッ」

俺はムッとふくれっ面になった彼女をなでなでした。


「えへへ気持ちいなぁ」

するとフルートは、嬉しそうにしっぽをパタパタさせ始めた。


「モフモフいいなぁ」

フルートの犬耳をなでなでしながら楽しんだ。


「僕のモフモフ気持ちいでしょ~僕も気持ちいよ~」

いや~いいっすね。モフモフ天国。


「ところでさっきオルガンに薬を盛ったバカ達は何?僕のオルガンを無能呼ばわりした挙句酷い事したよね?もうこれは殺るしかないね!」


「俺はいつからフルートさんの所有物になったの?てかフルートさん、人間の言葉分かるんだね」


「当たり前だよ、流石に1000年も生きていれば人間の言葉くらい、余裕だよ」


「そうなんだ。って1000年!?ってあれか……1000年か?」


1000年って、めっちゃ長いよね?あれだろ1000年って1000年だろ?

だめだ頭がバクった。


「そんな事はいいの!!今ならまだ間に合うから八つ裂きにしてくるね」


「八つ裂き!?いやいいよ。もう終わった事だし、関わりたくないよ。あっ、でもこれからどうしよう」

フルートは目をキラキラさせた


「オルガン~♪それなら僕のダンジョンに住みなよ。この森はとってもいい場所だよ。いっそ魔王軍にも入っちゃう?妹も喜ぶと思うなぁ~」


「そういえばフルートさんって魔王軍の幹部だよね?」


「幹部?僕は魔王軍NO2の最高幹部だよ。しかも魔王のお姉ちゃんでもあるよ」


大きすぎて今にもボタンが弾けそうな胸を張ってえへんとした。


「いやそれ初耳なんだけど!魔王軍NO2で魔王の姉ちゃん!?めっちゃ大物じゃん!なんでこんな場所でダンジョンのボスなんかやってるの?」


「このダンジョンが重要だからだよ」


「この森重要なの?」


「すご~~~~く重要」


「そうなの?まぁ深く聞かないけど。でも本当に人間の俺がここに住んでいいの?」


「もちろんだよオルガン~!嬉しいなぁ~!」


「大恩あるフルート殿ありがとうございます。オルガンこの恩義、決して忘れません」


「いや固いよオルガン!ねぇねぇ魔王軍に入ろ?」


「この森の魔物たちってみんな親切なんだよなぁ~!フルートさんはもちろんだけど、ゴブリンにオークそれに……」


「ねぇスルーしないで!魔王軍に入ろ。それと、もっとなでなでして」


「ごめんごめん、なでるよ!あと魔王軍はちょっと保留で」


「えぇぇ~!あっ、そこもうちょっとなでなでして~うん気持ちいなぁ~!にへ~」


フルートはちょっとがっかりしたように


「あの子もきっとオルガンの事を気に入ると思う……いやでも……」


「うん?」





——————





しばらくなでなでしたら、フルートは気持ちよさそうに背伸びをした。


「う~ん、さてと十分なでなでしてもらった事だし僕の城に行こうか」


「フルートさんの城?」


「ダンジョンのボスの城だよ!興味あるでしょう?」


「確かに興味あるけど、今日はスラーの村に泊まりたいんだけど」


「えー行こうよ。ちょっとだけだから、ほんの少し休むだけでいいから!」


なんだろう。男が女をホテルに誘うみたいな言い方するの辞めてもらって良いですか?

まぁ分からないと思うけど。


俺は空を見上げた


「ありがとう。でもここに住まわせてもらうなら、最初にスラーの村で墓参りをしないと」


フルートはにっこりと笑って抱き着いた。


「僕ねオルガンのそういう所が好き。大好き。そうだね。それがいいね!きっとみんなも喜ぶよ。えへへ」


「……」


フルートは優しく俺をなでてくれた。


「ありがとう、君は本当に義理堅いね、うれしいよ!みんなを想ってくれてありがとう」

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