園田くん(20)
声が聞こえる。
出元は敵側のベンチや向こうの観客席、そして味方側の観客席からも声援が響き、プレーが始まっていないのに、既に声援で牽制し合っているかの様だった。
「園田。」
佐久間先生が話し掛けてくる。
「今日は温存…出番は後半からだ、頼むぞ。」
はい、と答えると佐久間先生は離れ、別の選手へも声を掛けてゆく。
がやがやと皆が思い思い動く中、オレは熱気でじりじり揺らめく空気の中、視線を観客席の方へと戻しじっと見ていると今度は三島が肩を叩いてきた。
「ついに決勝戦、なのに…相手選手じゃなくてどこ見てんのかな~?」
歯が見えるまで緩めた口元を見て、思わず頬を抓りたくなるけれど、ここで騒いでも怒られるのはオレの方なので黙る。
「―招待状は、受け取って貰えたのか?」
「さあ。」
小さな声で問われたけれど、置き手紙の様に渡しただけなので分からないと答えると三島は肩を竦めた。
「まぁ好きなもん同士は変なとこ似るって言うけどさ…変な所不器用だよな、お前ら。」
そういうものなのだろうか、けど。
好きな人と同じものを持てていると言われると―悪い気がしない。
「…話題振ったオレもオレだけどさ、今その表情しねー方がいいぞ。」
顔にも出てしまったらしく、慌てて口を手で押えるとふっと声がした。
「んじゃ、そんなピュアピュアなエース園田くんのアシストをオレは頑張りますかね。」
「お前はいつも一言多いんだよ。」
小突くとイテテとわざとらしく声を上げるも、その顔は変わらずにやにやとしたまま。
緊張するのが当たり前の決勝戦直前でも、いつも通りでいるメンタルの強さは味方にとってとても頼もしい存在だった。
「―始まるぞ、整列しろッ!」
佐久間先生の声でその場にいる部員全員が動き出す。
去年はここで敗れて苦い思いをした、その雪辱を果たす為に。
決勝戦が、始まった。
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