園田くん(19)

『やーいやーい、サボリ。』

人生初めての失恋を経験したオレは、夜通し泣いて泣いて泣きまくって…顔全体が真っ赤、喉はガラガラで気分最悪な状態となっていた。

テストが明けて今日から野球部の活動再開だというのに、こんな状態じゃ外にも出たくなくて、昨日帰ってから必要な時以外自分の部屋から出られない。

家族にはスマホで最低限の連絡を取り、野球部には三島へ嘘ではあるけど体調不良で欠席をしたいと伝えて欲しいと送った所、ムカつく言葉が返ってきた。

(しかも明らかにおちょくるスタンプまで送ってきやがって…。)

三島から送られたものは、俺はよく知らないキャラクターが舌を出してきてイラつく。

本音を言えば、電話で連絡したかったけど、声がガラガラ過ぎて電話越しでまともに会話出来るのかどうかも怪しかったから文字にしたのに。

それでも不満も何も言わず「頼む。」とだけ送ると、今度はスマホ全体が震え出す。

「…もしもし。」

結局三島は電話をしてきたので、仕方なしに出ると最初から「ワハハ!」と笑い声が耳を貫いた。

『おっまえ…ぐ、ふふ体調不良なのは本当みたいだな!』

「三島ぁ…お前電話なんだから声小さくしろ。」

耳から伝って頭にも響きそうなその音量に詫びるどころかこんな返事が来る。

『仕方ねーだろー、家のチビ達がうるせーんだから…おい、それオレのデザート!』

どうやら朝食中に連絡してきたらしい、それは兄弟にデザートを取られるのも納得だと思う。

「…飯食べている時に電話しなくても。」

『だって明らかに緊急事態だろ、ストイックなお前がさ。』

しかも今日は練習試合~と何故かミュージカル調に責められぐうの音も出ない。

『―ま、いつもベンチで悔しそうな顔して出番待つ先輩や、成果を上げたい期待の後輩がいるから…アイツらにとっては朗報だろ。』

気にするなと声は掛けられるけど、何だか申し訳なさより悔しい気持ちが湧いてくる。

でも口にはしたくなくて黙っていると、三島は全く変わらず電話越しでも見えそうなそのにやけ顔から言葉をくれた。

『悔しかったらとっととコンディション戻してマウンドに帰って来いよ、園田。』

「おう。」

ふつりと通話が切れ、ぐりぐりと未だに残る涙の後を拭い、今日はまず自分の調子を戻す事に専念する事に決める。

 

だから、今…この今だけ。

(先生。)

口にしたらまた泣きそうになるから、どうにか止める。

厳しい顔で正論を言う先生、相談を真剣に受けてくれる先生、買った弁当をじっくりと味わう先生、一瞬寝顔を見せてくれた先生、私服を着てアパートへ帰る先生…不器用に笑う、先生。

どれだけ想っても、やっぱり憎しみなんて湧かなくて。

オレはあんなに酷く振られても、まだ。


先生が、好きだった。


考えてみれば先生が断るのも無理も無い…こんなに色んな表情を見せてくれたのに、もっともっとと欲張る、狂気的だと言われるまでの想いを抱えるオレを。

告白したら思いが通じるかもしれないと願い、砕け散った惨めなオレは前を向く為に休む事にした。

 

オレの恋は、確かに終わったかもしれない。

けれど、これから来る夏は始まったばかりだから。

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