園田くん(8)

今日は早く練習を終えて良いと佐久間先生が言ってくれたので、オレはすぐに更衣室から脱し教室へ移動していた。

「そーのだ、待てよ。」

後ろから緊張感の無い声が聞こえたけれど、構わず足は止めない。

その代わり、相手の方がオレに近付いてきた。

「無視かよ~寂しくて死んじゃう…。」

「こんなゴツイうさぎがいるわけ無いだろ。」

わざとらしく目を潤めかせて強引にオレの視界に入ってきたので、思いっきり顰めた面を見せる。

「冷たいねぇ…そんなにイライラしてんの?」

分かっているなら聞くなよ、と思いながらも、三島はオレにとっても、チームにとっても、女房役に相応しい人物なので、今話しかけてきたのもそういう事なのだろうと尖った言葉をどうにか飲み込む。

「………。」

「ま、確かに一年にイラつく気持ちは分かる。」

最近の練習は散々だ。

一年は入部したてなので、経験者だろうが、未経験者だろうが、平等に扱わないといけない。

しかし、スポーツ推薦で入ってきた奴等は、それなりに能力があるけど、一部の先輩に対し舐めた態度を取り、反対に未経験者は努力をするものの、能力に個人差があり、思う様なプレーが出来なくて、それが続いている状態。

更には、休めない事に不満を持ち、その不機嫌な様子を隠す事無くだらけている奴もいる。

始まりは誰しも完璧にいかない事なんて分かっている、分かってはいるけれど…。

「…でも、チームの中心であるお前がそんなにピリついていると、どうなるかぐらい分かっても良いだろ。」

痛い所を突かれた。

知っている、どうにも感情が表に出てしまっているオレが、チームの雰囲気に影を負わせてしまっている事。

三島は真剣な表情で無言になったオレを見ていたが、暫くするといつものひょうきんな顔に戻る。

「ま、お前もストレス溜め込みやすいもんな~、また空いてる時間にゲーセンとかカラオケとか行こうぜ!」

時期的に考えてどうなんだ、とは思うけれど。

こうした毒抜きの仕方をしっかりと三島は知っている、だから自然と持っていた棘もするりと抜けてしまう。

(則井先生も凄いけど、コイツも何気に凄いよな…。)

改めて関心していると、油断したオレの心を察知したのか、ガバっと肩を組まれる。

「さて、ところでぇ…園田くんは今日の授業の課題、終わってる?」

「見せないぞ。」

そこを何とかぁ!と両手を合わせて拝められるけど、これでもう何回目だと思っているんだいい加減にしろとだけ告げて、オレはさっさと逃げた。

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