園田くん(3)

またこの場所に来る事が出来た、とオレは何度も保健室の札を見てしまう。

オレ自身、基本的に健康優良児で病気に掛かり学校を欠席なんて縁が無く、熱を出す程の病気をする事もありがたい事だけれどあまり経験した事が無い。

だから、この場所は選ばれた者しか入れない様な気がして、勝手に自分はここに入るべきでは無い人種なんだと思っていた。

けれど、ここの主がオレに言ってくれた言葉を思い出し、顔がにやけてしまいそうになる。

「話だけでも良いなんて…ありがたいなぁ。」

他の生徒への対応もあるのに、先生はそれでも来て良いと許してくれた。

授業が早く終わったのも良い事に、オレは昼休憩のチャイムが鳴る前にここに来て、今その扉を開ける。

「則井先生…今、大丈夫ですか?」

他にも人がいるかもしれないと考えて控えめに声を掛けると、弁当のおかずを食べようとしている姿が見えた。

先生はそれをすぐ食べる事はせず、箸を置いてオレに話し掛けてくれる。

「いいぞ、気になるなら鍵をしてくれ。」

許可は得たけれど、オレは先生の昼ご飯が気になりつい聞いてしまう。

「え、でも…先生お弁当は。」

「別にいい。」

自分はいいから椅子に座れと勧められて座ったけれど、本当に良いのかなとついそわそわした動きをしているオレを見かねて先生は言葉をくれた。

「怪我をした訳じゃないんだろ、話をしながらでも弁当は食える。」

そう言ってくれるならと、遠慮なく前回の続きを話そうと話題を考えていると、先生がオレを見て先に聞く。

「お前弁当は持ってきたのか?」

そういえば、とはっとなる。

オレはここに来る事ばかりに気を取られ、時間の事を考えず保健室に弁当を持ってくる事を忘れていた。

話をするだけして、とっとと追い出されてしまうのではという予想ばかりしていたオレは先生の言葉に動揺と…少しの嬉しさを感じる。

(そもそも一時間も先生の時間を取れるなんて、思っていなかったし…。)

そんな事を考えながら、オレは先生への返事の言葉を送った。

「いいえ…意識すれば早食い出来るので。」

これは嘘じゃない、いつも親に作って貰っている二段ある弁当は、女子からすれば多いかもしれないけれど、オレはすぐに食べきる事が出来る。

お腹が空いていれば尚更なので、気遣いは大丈夫ですとこのまま相談をしようとしたけれど、先生は首を振った。

「じゃあ持ってこい。」

その言葉にオレは驚いてすぐに言葉を返せなかった。

「時間はある、待ってやるから遠慮せず取ってこい。」

ひらひらと血管が浮き出たその手を動かして教室に戻るように言ってくれる。

つい、その姿を凝視してしまうけれど、オレは我に返って「ありがとうございます。」と告げ、先生の言葉通りに弁当を取りに教室まで移動し始めた。

(何で、何でこんなに…嬉しいんだろう。)

オレの事を考えてくれた事が嬉しくて、オレの為に時間を貰える事が嬉しくて。

保健室から出て、周りに人もいるのに変な顔をしていないかなと思ったけれど、オレは。

 

口の両端が上がりっ放しになっている顔を、元に戻す事が出来ないでいた。

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