則井先生(3)

噂をすれば何とやらというか…昼休憩が始まる前に、野球部期待のエースはやってきた。

「則井先生…今、大丈夫ですか?」

先日の出来事からそんなに日は経っていない、野球部で朝と夕方、更には学生の身だから昼間は学業に専念する身だから、この時間や放課後くらいしか来訪出来ないだろうと踏んではいたが、タイミングが悪い事に値引きされたので買ったコンビニ弁当を食べようとしていた俺は箸を置く。

「いいぞ、気になるなら鍵をしてくれ。」

「え、でも…先生お弁当は。」

別にいいと告げ、椅子に座るよう促す。

最初は落ち着かない様子だったが、言われるままに園田は俺の前に座る。

「怪我をした訳じゃないんだろ、話をしながらでも弁当は食える。」

保護者や他の教師連中にこんな状況を見られたら「相談中に昼食を摂るとは何事だ!」と怒号を飛ばされそうではあるが、ここで食事を食べなければ園田は俺の食事を気にして相談事を思う存分口に出来ないだろうと判断した結果だ。

「お前は弁当持ってきたのか?」

「いいえ…意識すれば早食い出来るので。」

「じゃあ持ってこい。」

未来有望な野球選手候補に、不健康な行為はさせられないと俺はすぐに返答する。

「時間はある、待ってやるから遠慮せず取ってこい。」

今はいないが、保健室登校をする生徒と何度も弁当を食べながら時間を過ごした事もあったし、今更似たような事に臆する事など無い。

早く行ってこいと手を動かす俺に、また園田はその大きな目を見開いてこちらを見つめる。

「ありがとうございます。」

はにかみながら小さく礼を言うとすぐに立ち上がり出ていく、ばたばたと聞こえる足音を聞きながら、俺は何となくくすぐったい気持ちに駆けられていた。

(…たかが弁当を取りに行くだけで、あんな嬉しそうな顔しやがって。)

最近あんなに素直な生徒と触れ合った事が無かったからだ、と自分に言い聞かせ俺は散らかっている机の上を片付け始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る