園田くん(2)

朝の澄んだ空気をブンブンとバッドで切るように振り回す力が、いつもより増している気がする。

「おーい、そーのだ。」

バッテリーを組んでいる同学年のキャッチャーの三島勇吾(みしまゆうご)に呼ばれ、オレは一度練習を止めた。

「そろそろ投球練習しようぜ。」

「おー。」

吹き出ている汗を拭ったオレは三島の近くへ寄ると、まじまじと体を見られ顔を顰める。

「…何?」

「いやー園田選手は本日も体が締まっていますなーと。」

茶化したような言動は、あくまでコミュニケーションのつもりなのだろうけれど、縦には伸びてもなかなか横に伸びず悩んでいるオレにとってはあまり良い様に感じない、体格の良さと肩の強さからキャッチャーに抜擢された三島に言われると尚更に。

「嫌味かよ。」

「ちげーよ、羨ましいなって。」

「オレとしては、お前の体格の方が羨ましいよ。」

溜息交じりに話すと「ははっ。」と笑い声が上がる。

「こっちは油断するとすぐ太るんだけどなー。」

隣の芝生は青く見えるとは言うけれど、なかなか理想の姿にはなれないのは皆同じなのかなと考えていると、話題は変えるけどさ、と三島の口が動く。

「お前あの後ちゃんと実行した?」

いきなり掘り返したくない話題を出され、オレは足がもつれこけそうになる。

「おっ…まえな。」

「あら~分かりやすいね。」

ぷぷぷ、と口を押さえてわざとらしい反応をするコイツを一発殴りたくなるけれど、どうにか自分の衝動を抑えた。

「いやね、順風満帆そうな野球部のエース様直々にお悩み相談を持ち掛けられて、オレも嬉しくて舞い上がってね…経過報告を聞きたくて。」

「嘘吐け、お前楽しんでいるだろ。」

じとりと視線を向けると、にやけた笑いをしていたけれど、その表情が真面目なものに変化した。

「で、どうだった?」

「………他の奴等には言うなよ。」

そりゃあもちろん、と頷く三島を一応信用して小さく答える。

「一応、また会う約束は出来た。」

ほ~!と大袈裟にリアクションをする三島を見ない振りをして、オレは背を向け足早に練習場所まで向かう。

「じゃあこれからが正念場ですね、園田選手!」

「お前今日的扱いされたいのか?」

ボールを握りしめて低い声で脅すと「優しくしてくれなきゃいやー!」と言いながら防具を付けている姿が見れて、ふんと鼻を鳴らす。

(…ま、きっかけをくれた事には感謝してるけどさ。)

そこからは、思考を切り替えて練習に集中する。

 

今の練習…そして授業を頑張った後に、ご褒美が待っているから。

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