更なる異変
炎城と略奪者が戦闘を始めた丁度その頃、黒髪少女_大鷹椿は梅宮耕太たちが居るエレベーターホールに辿り着こうとしていた。
(まずは耕太に状況説明…。それと大牙に言って龍を救出する作戦も考えないと…。)
椿は急ぎながらでも、頭の中で自分のするべき行動を冷静に整理する。
焦ってないわけでわない。こうしている間にも、炎城が奴に殺されるかもしれない。
だが…。
(焦るな、考えろ…ッ。私に出来ることは、それしかないんだからッ!)
涙を拭い彼女はひたすら走り続けた。そしてホールが近づいた時、
「椿ッ!!」
幼い頃から何百回と聞いた、力強くも頼もしい剣バカの声が響いた。
「大牙ッ!」
視線の先に居たのは、もう1人の幼馴染である長身剣バカ男_神宮大牙だった。
彼の顔を見た瞬間安心を覚えた椿は、思わず大牙の懐に飛び込む。
彼女の行動に眉1つ動かさず、真剣な表情をキープしている大牙はゆっくりと椿に事情を聞いた。
「さっき…向こう側から大きな音がした…。それに龍の叫び声のようなものも…。一体何があった?」
「…。緊急事態よ。奴らが入ってきた。龍が…必死に足止めをしてるわ…。…助けて、大牙…。」
椿は堪えながらに話しそれを聞いた大牙は椿を抱き寄せ、その手に自然と力を入れるとただ一言彼女に伝える。
「任せろ。」
それを聞いた椿は安心したように、大牙の懐から離れた。するとそれと同時に大牙の後ろから誰かが現れ、その人物に大牙は質問を飛ばす。
「耕太、聞いていたな?」
「うん。聞いていたよ。君は龍くんの所に行ってあげて。こっちは僕らが何とかするから。」
「かたじけない。」
小柄な美少年_梅宮耕太に了承を得た大牙は、近くに置いてあった鉄パイプを持ち、椿が来た方角へと駆け出そうとした。
だがその時…
「助けてくれッ!!」
突然、炎城のいる方向とは別の所から助けを求める声が響いた。
大牙たちがそちらに視線を向けると、そこには作業服を着た数人の男たちがこちらに血相を変えて走ってくるではないか。
ただ事ではない事態に、周りに居た避難者たちも動揺を隠すことが出来ない。
するとその最後方から更に2人おぼつかない足取りで走ってくる。どうやら1人が足を怪我をしているようで、もう1人が怪我人の肩を担いでいる状況だ。
そして耕太たちはその担いでいる人物に見覚えがあった。
「あれは下山さんたちだッ。」
「あの人達って確か、バリケードを作りに行ってたはずよね?」
「うん。僕が頼んで作成を依頼してたんだ。あっちで一体…。」
「耕太!まずは怪我人の救助が優先だッ!俺が行くッ!耕太たちは治療の準備をッ!!」
「……ッ!待って大牙君ッ!まだ状況が…ッ!」
耕太と植木が揃って状況把握していた時、それより早く鉄パイプを持つ大牙が怪我人を抱える下山たちの方へ駆け出した。
大牙らしいと言えば大牙らしいのだろう。
炎城同様、目の前で困っている人が入れば助けずにはいられない。自己犠牲タイプの人間なのだから…。
「大丈夫かッ!手を貸すッ!!」
「助かるぜ兄ちゃん…ッ!早く逃げねーと奴等がッ!奴等が来ちまうッ!!」
下山たちまでの距離は50メートルほどあったはずだが、それを感じさせずあっという間に下山たちの元へ駆けつける大牙。
何かに怯え焦り、訴えかけてくる下山を見ながら、下山が肩を担いでいる怪我人の反対の肩を持ち、共にエレベーターホールへ向かい始めた。
だが足取りが幾分遅い。どうやら怪我人が気を失っていることが原因のようだ。
消防士や救命救急の仕事をしている人から、意識を失った人を運ぶ時は、意識がある人を運ぶ時より2倍3倍の重さが掛かるという話をよく耳にすることがある。
これは力の分散が原因と言われているのだが、分かりやすく例えると、人間をおんぶする時、運ばれる人は運んでもらう人の首に手を回したり、足をお腹に回して固定したりと、掛かる力を無意識に分散することで運ぶ人の負担を軽減しているのだ。
しかし逆に意識がない人は、腕や足がダランと動かない状態で力が全て下に行ってしまい、運ぶ人に全ての重さが伸し掛かってしまうと言う事だ。
だから大牙と下山の2人掛かりであっても、重心の問題により速度が低下してしまうのだ。
それに下山自身も身体が緊張してしまい、足運びが悪いのも1つの要因となってしまっている。
どんどん先に逃げる作業員たちとの距離が離れてしまう大牙たち。
下山たちが一体何から逃げているか分からないこの状況で、この遅れは致命的かもしれないと大牙は直感で悟った。
その時…ッ!
「……ッ!?大牙ッ!後ろッ!!」
何かに気がついた椿が叫ぶ。ソイツは、突然現れたのだ。
大牙の背中にゾクリと悪寒が走る。
「あぁ…あ、アイツだッ!来やがった…ッ!?来やがったぁあッ!!」
椿の声に反射的に後ろを振り返ってしまった下山は、ソイツの姿を見てしまい恐怖のあまり声を荒げる。
だが大牙は振り向かず、下山の声を無視しひたすら怪我人を抱え走り続けた。
後ろを振り向けば殺られる。そう直感で判断したそうだ。
「嘘…あれって…。」
ホール側にいる椿たちもソイツの姿をしっかりと眼で確認し、隣にいる篭旗が怯えた表情でそう呟いた。そしてそれは、後ろにいる耕太と植木も同じだった。
「コウたん…アイツはッ!」
「うん…。間違いない…。新宿で僕たちを襲ってきた…。」
クラカカカッ!!
「…ラプトルッ!!」
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