椿たちの待つテントでは…

 「ねえ、龍たち戻って来るの遅くない?さっき外で騒いでたみたいだし、何かあったんじゃ…。」


 地下を揺れと轟音が襲った時、椿たちにテントから出るなよと指示した俺達。

 しかしテントから出ていってから、俺達が一向に戻って来ないことに椿は不安を漏らしていた。

 外から何やら避難者と思われる男の叫び声や、女性の悲鳴などが聞こえ、一体何が起こっているのか分からない状況。不安になるなと言う方が無理な話だろう。


 「確かに遅いわね…。あの不良モドキはともかく、コウたんの戻りが遅いのは異常だわ…。」


 「不良モドキって…。確かに耕太はこういう時は真っ先に知らせに来てくれるけど…。まだ異常ってほどでも…」


 「いいえ異常よ。もう5分も立ってる。コウたんはいつも私から離れる時は、3分と10.12秒には戻って来るもの。」


 「そ…そうなんだ…。ハハハ…。」


 椿と植木がそれぞれの不安を溢していると、1人黙り込んでいた篭旗るばたがボソリと呟いた。


 「もしかして…アイツらが入ってきたんじゃ…。」


 「「………ッ!!」」


 篭旗のその一言で、椿たちに緊張が走る。

 椿たちにとってその可能性は1番考えたくないことであり、もし本当にヤツらが侵入してきたのなら、こんな閉鎖空間では逃げる場所すらない。

 テント内は静寂に包まれた。

 と、その時…。


 ガササッ!


 「「「………ッ!!」」」


 突然、テントの入口の方から物音が響いた。

 椿たちは身体をブルっと震わせ、音のする方向を見る。


 すると外の方で何やら動く影が…。


 それは人に近いような形にも見えるが、今の椿たちにとっては、全てが得体の知れない何かに見えてしまう。

 

 どうすれば…と、3人で息を殺していると、何故か椿が突然テントの入口へと近づいていったのだ。

 驚いた植木たちが、声にならない声で戻りなさいと椿に呼びかけるが、それでも椿は1人入口へと近づく。

 そしてとうとう不気味な影が映る入口前まで到着すると、椿は聞こえない程度で深呼吸をし意を決してゆっくりテントの外を確認する。


 その行為に、後ろにいた植木たちは固唾を呑んで見守るしか無かった。

 額から嫌な汗が滴り落ち、心臓が五月蝿いほど脈動している。

 もし外にいるのが、だったらなどと嫌な想像をしてしまうが、それでも状況を確認しなければ何も行動に移すことが出来ない。

 恐怖と戦いながら、椿はテントの外の光景を目撃した。

 そこには…


 「ん?何をやっているんだ椿?そんな怖い目をして。」


 「はあぁ…。何だ…大牙だったのね…。」


 昔から嫌と言うほど見てきた馴染の剣バカの姿があったのだ。

 大牙の姿を見た椿は緊張から解かれ、深くため息を付いた。

 

 「一体何やってるのよ…。と言うよりか、今まで何してたの?随分騒がしかったけど…。」


 「おう!すまんすまん!ちょっと耕太の奴に頼まれてな、必要な資材をかき集めているんだ!」


 「必要な資材?」


 安心の後に呆れた表情を浮かべた椿は、大牙が何やらテント周辺に置いてある物を抱えていたので、疑問に思い聞いてみれば、大牙は笑顔でそんな返答をしてきた。

 更に疑問が増えた椿が大牙の抱えている物を見ていると、


 「コウたんに頼まれたってどういう事?」


 テントの奥に居た植木が、耕太の名前に反応し外へと出てきたのだ。

 植木は腕を組みながら大牙へと詰め寄る。

 本当にこの女は耕太に過剰に反応するな…なんて思っていると、遠くの方から駆けてくる小柄な人影があった。


 「カリンちゃん皆!遅くなってごめんね!ちょっとお話に時間がかかっちゃって。」


 「お話?」


 「まあ話は後!ごめんだけど、皆も手伝ってくれないかな?ちょっと人手が足りなくて!」


 それはさっき俺達と飛び出していった、生徒会長の梅宮耕太だった。

 耕太は椿たちの所へ来るなり手伝いをお願いしてきたが、椿たちは何が何やらと困惑の表情を浮かべる。

 するとそこへ…


 「梅宮さん、A班が資材の調達完了したみたいだ。こっち確認してもらえるか?」


 「梅宮ちゃん!B班も言われた作業完了したよ!進捗の確認お願い出来る?」


 「C班、時間帯の割り振り完了だ。見てくれ。」


 全く知らない人たちが我先にと耕太の元へとやって来ると、何やら用紙を差し出し確認の要求をしてきたのだ。

 耕太はそれを1枚1枚確認すると、テキパキとアドバイスや指示を飛ばして周りの人々を動かしていく。


 そして椿たちは気がついた。


 耕太の周りにいる人達だけじゃない。避難所全体が、どういう訳か活気よく何かしらの作業をし始めていたのだ。

 

 「一体何が…どうなっているのよ…。」


 椿は呆然と立ち尽くし、両隣に居る植木や篭旗も両目を見開き驚きを隠せないでいた。

 それもそうだ。この避難所に入ってきた時は、皆、希望を失ったような目をしていたのに、今はその目に活力が見て取れる。

 

 「言ったでしょ?お話しただけだって。そしたら皆が、それぞれ自分に出来ることを考えて行動し始めただけ…。僕はその行動を、ちょっぴり後押ししただけだよ。」


 いつの間にか椿の隣に来ていた耕太が、嬉しそうに笑いながら避難所全体に視線を飛ばす。

 そんな耕太に対し椿は、冷や汗を流しながら耕太が見据える場所に視線を合わせ、自然と両手の拳を握りしめ唇をギュッと噛んだ。

 

 (これが…今の耕太の力…。到底…私には…。)


 椿は目の前の光景が見てられないと言った表情で下を向いてしまった。


 「おい椿。何をそんなに深刻そうな顔をしているんだ?まさか、体調不良か!?」


 すると、何やら資材を担いだ大牙が椿の異変に気がついたらしく食い気味に椿の顔を見ながら心配してきた。大声で…。

 大牙の声にビクッと身体を震わせた椿は、急いで顔を叩きいつものキリッとした表情に戻し、何でもないと笑顔で大牙に返した。

 そして何事もなかったかのように、耕太にあることを尋ねる。


 「そう言えば耕太。龍の姿が見えないけど…何処に行ったの?」

 

 「え…龍君?そう言えばさっきから姿見てないね。何処に行っちゃったんだろう?」


 椿と耕太は辺りを見回すが、俺の姿が一向に見つけられないようだった。

 しかし俺は、もしかしたら椿たちに心配をかけるかも知れないと思い、事前に大牙に報告はしていた。


 「む?龍のヤツならこっちとは反対方向に行ったぞ?何やら様子を見てくると言ってな。」


 それを大牙がキッチリ覚えていてくれたので、無事に椿たちの耳に入れることが出来た。


 「そう…。ありがと大牙。私、探してくるね。」


 「分かった。こっちは任せて、龍君を探してきて。彼には頼みたいことが山程あるから♪」


 大牙からの報告を聞いた椿はそう言うと、テントを離れ、俺の後を追うように探しに行ってしまった。


 最後の耕太の言葉はマジで気になるけど…。

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