出会い
暴徒化しかけていた
少し大きめのスポーツキャップを被り、半袖の白シャツに赤色の短パンを履いた典型的な短パン小僧風な少年の周りを見るが、この少年の親や家族らしき姿は見えない。
もしかして1人か?とふと気になった俺は、何気なくその少年に声を掛けてみることにした。
「よう。何やってるんだ坊主。こんな所で。」
「…………。」
が、少年は俺の声を無視しそっぽを向いてしまう。
まあそうなるわな。と、想定通りの反応に俺は苦笑いを浮かべたが、一度関わろうとしたなら最後まで関わるのが筋だと思った俺は、その後も声を掛け続けることにした。
「皆の所に行かなくて良いのか?こんな所に1人居ても、寂しいだけだぞ?親父さんとお袋さんは、近くにいねーのか?」
「……。」
「……。腹減ってねーか?さっき配給された菓子パンあんだけど、食うか?」
「…。」
(これでもダメか〜。なかなか難しいお年頃だなこりゃ…。)
待てど暮らせど一向に反応をしてくれない少年に俺は頭を悩ます。
しかし少年からすれば、本当はほっといて欲しいと思っているのに、突然赤い髪をした変な男がしつこく声を掛けているのだ。
警戒するなと言う方が無理な相談である。
(まあこういう場合は、ゆっくり時間を掛けながら対話するってのがセオリーだよな。焦るな龍。頑張るんだ龍!)
今となっちゃ理由の分からない決意だったなと呆れてしまうが、この時の俺は至って真剣だった。
そう!真剣だった!
「……っさい…。」
ボソリと呟く少年の声が…ッ!
俺はようやく反応してくれたと、嬉しさが勝りワクワクと期待の眼差しを向ける。
そして遂に…!少年の口から…!
「うっざいんだよさっきから…!!さっさとどっか行けよ変態!!」
めちゃくちゃ暴言吐かれた。しかもマジでゴミを見るような目で…。
(え、待って。何?今どきの子って皆こんな感じなの?スゲー剣幕なんだけど…。この年頃って結構可愛げあることない?)
「おい聞いてんのか!!早くどっか行けって言ってんだよオッサン!!」
(しかもオッサン言うてますやん。多分君とはあんま歳変わらんと思いますけど…。)
あまりの出来事に俺は思考がショートし、呆けながら脳内言語すらバグった。
そして全く反応しなくなってしまった俺に痺れを切らしたのか、もういい!と吐き捨て、少年は立ち上がり何処かへと立ち去ってしまった。
少年の背中を見た途端、俺はやっちまったなと後悔し口から大きな溜め息を吐きながら、もう少し慎重になるべきだったと自責の念にかられていた。
そんな時、カタンと小さな何かが少年の短パンのポケットから落ちる。
少年は気がついていないのか、そのまま歩いて行ってしまっているので、俺は慌てて立ち上がると少年が落とした物を拾い上げ少年の後を追った。
「おい待てって!」
「何なんだよさっきから!本当にウザい!」
少年に追いついた俺は、男子にしては華奢な手を掴むと少年の足を何とか止める。
それがもの凄く嫌だったのだろう。少年は離せと叫びながら俺の手を振り解こうと必死に抵抗していた。
(端から見たら完全にヤバイ奴だよな…。こんな所椿たちに見られたら絶対にヤバい!早く終わらそ!)
「違うって!これ!お前のだろ!?」
危機を悟った俺は手早く済まそうと、手に持っていた少年の落とし物を見せる。
すると少年は何故か抵抗を止め、俺が差し出した落とし物を凝視した。
俺が拾ったのは、ニチアサで配信されている戦隊ヒーローの小さなフィギュアだった。
全身は赤と白の塗装がされており、腰の部分は黒色のベルトのようなもの、顔はフルフェイスで目の部分はまるで某宇宙刑事と同じ黒色のラインが引かれ、頬の部分に猫髭のような白線が入った独特なデザインをしている。
だがこのシリーズはかなり前、俺がまだ生まれてない時にやっていたはずだ。
まだ小学生くらいの少年が持っているのは意外だなと思った。
「ライヤーレッドか…。懐かしいな。」
「オッサン…知ってるの?」
戦隊ヒーローの名を呟いた時、少年はその名前に反応をみせた。
それに対して俺は、少年にこう返す。
「ん?あぁ、俺もこれ、持ってるからさ。」
「嘘だ。これもう絶版だよ?簡単には手に入らないはずだよ。」
絶版なんて言葉よく知ってんなと俺は驚き、訝しんだ目をする少年に笑いかけた。
「そっちこそ、お前みたいな小学生が持ってるなんて驚きだ。……ヒーロー、好きなのか?」
「……嫌いだ。」
「そっか…。」
俺の質問にボソリとその一言だけを口にした少年に、俺はただ…そっと呟く。
しばらくの沈黙。
だがその沈黙を破ったのは、エレベーターホールから響く、大きな歓声だった。
この歓声の中心にいるのは恐らく…。
(何だ?エラく向こうが盛り上がってるな。耕太のヤツ、何やってんだ?)
一瞬少年から意識が逸れ、エレベーターホールに顔を向けた時、気がつけば少年は静かに駆け出していた。
「ありゃ?」
「もうオレに構うな!変態野郎!!」
変態って…。俺にはショタコン気質は無いのだが…。
そんなどうでもいい事を考えている間に、少年の姿は避難所の奥へと消えてしまった。
まあこの避難所に入れば、また話す機会もあるかも知れない。その時に、あのフィギュアについて語り合ってみようと、俺は心の中で呟きながらもと来た道を引き返した。
○◆○◆○◆○◆○◆○◆○
俺がボッチ少年と話ていたその頃、避難所の外では…。
「お!おい、ここに良い隠れ場所があったぞ!」
「地下駐車場か…。隠れるには丁度良さそうだな。うっし、ヤツらに見つかる前になるべく奥に逃げるぞ。」
東京に突如現れた謎の生物たちから逃れてきたであろう男性2人が、俺達がいる避難所を見つけ、丁度、非常口の扉を開こうとしている所だった。
恐らく避難所になっていることも知らないだろうと思うが、彼らにとってはヤツらから逃げれるのであれば何処だって良いのだろう。
だから彼らは何の躊躇いも無く、非常口の扉を開いたのだ。
「ヤツらは居ないみたいだ…。俺が先に降りるで、お前後からついて来いよ。」
非常口を入って直ぐの階段に誰も居ないことを確認した男性は、もう1人の仲間にそう伝える。
しかし奇妙なことに、さっきまでと違って背後から反応が無い。
「おいって、聞いてんのか?」
男性は少し呆れ声で後ろを振り向いた。
だがその行為が…男性にとっての、最後の行動となってしまった。
ザシュッ!
「え?」
何が起こったか分からない。何をされたのかも分からない。
ただ、男性が事切れる前に見たのは、人と同じくらいの大きさがある、漆黒の暗殺者の姿だった。
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