生徒会長 梅宮耕太

 「おいオッサン。流石にやり過ぎだ。」


 「アァ!!何だこのガキャ!!イタッ!」


 女性従業員の胸ぐらを掴んでいた強面男に、ドスの聞いた声を静かに発した俺は男の腕を強く掴むと、勢いづいていた男の顔が変に歪み、力が入っていた男の腕がみるみる力を失っていった。


 すると力を失った男の腕から女性は開放され地面に倒れると、ケホケホと咳をしながら何とか息を整えており、周りにいた他の女性などが側に近寄り必死に大丈夫?など声を掛けながらその場を離れさせていた。

 どうやら危機は脱したみたいだ。


 「テメェ…何のつもりだこのガキが!!」


 相当お冠な状態となってしまった強面男。しかし俺は対して恐怖など感じなかった。

 これはただ威勢が良いだけだと分かっていたのもあるが、強面男の後ろから近づいてくる小柄な美少年が後は何とかしてくれるだろうと思ったから。


 しかし当の美少年は、ステイって言ったはずだよとでも言いたげな表情を浮かべ、やれやれと溜め息を吐きかけていた。

 俺は後は頼むとジェスチャーを送り、美少年は任せてと笑顔で返答する。


 「皆さん!ちょっといいでしょうか!」


 緊迫した事件が少し収まり始めた頃を見計らい、騒ぎの中心となった強面男の後ろから透き通るような少女の声が鳴り響く。

 頭に血が上り、俺にガンを飛ばしていた強面男は突然後ろから聞こえた声に驚き、反射的に俺から目を離し後ろを振り向くと、そこには小柄で華奢な、栗色の髪が特徴の美少女が立っていた。

 

 「次から次に何なんだよッ!!ガキはすっ込んでろ!!俺の邪魔をするなッ!!」


 苛立ちを見せ、突然現れた華奢な少女に強気に叫ぶ強面男。

 これで少女は萎縮し立ち去るだろうと思った強面の男だったが、ここで予想外なことが起こる。


 「貴方がリーダーさんですか?たくましそう♪尊敬します!」


 何と華奢な少女は萎縮いしゅくするどころかいつの間にか自分の懐にまで入ってきたではないか。

 一体何なんだコイツはと困惑した表情を見せる強面の男。しかしそんな物は序の口で、さらに困惑する事態が起こった。

 

 「リーダーさん!お名前、教えてくれませんか?」


 「は?え?いや…下山猛しもやまたけるだけど…。」


 「タケルさん!カッコいいお名前!お仕事は何されてるんですか?」


 「建築の仕事だが…。ってさっきから何なんだお前は!!」


 突然名前や職業を聞かれ、流れで答えてしまった下山と言う強面の男。

 しかし途中で自分は何やっているんだと気がついた下山は再び強気で華奢な少女に声を荒げる。

 すると少女はビクッと身体を震わせ、上目遣いで申し訳無さそうな声を出し始めた。


 「あ…。ごめんなさい…。いきなり失礼でしたよね。でも皆さんが勇気ある行動を取ろうとしていたので、ワタシ…居ても立っても居られなくて…つい…。」


 「勇気ある行動?」


 「はい…。皆さんがここに居るワタシ達の為に、家族を守るために果敢に行動を起こそうとしていましたよね?誰にも出来ることでは無いと思います。こんな生き残ることが出来るかも分からない状況なのに、それを打開しようと、周りの皆さんにも声を掛けて、こうやって立ち上がってくれたんですよね?」


 「いや…俺は…その…。」


 少女の言葉に戸惑う下山という男。

 それもそうだ。今少女が言ったことは全て作り話だ。この男にそんな目的がある訳がない。

 しかもこんな理由の分からないことを言われれば、普通の人なら何だコイツと無視されることが関の山だ。

 だけどこの男は、少女の言葉を無視することが出来なかった。


 何故なら―――


 「そうだったんですかタケさん!俺達の為に…。」


 「先輩カッコいいッス!俺、先輩に一生付いて行きます!」


 騒ぎの中、下山の周りにいた取り巻きたち。恐らく同じ職場の後輩か同僚かなんかだろう。

 そんな人達からの期待の目が下山に集中し、こんな状況では少女の言葉を無下にすることも出来ない。

 むしろ無下にすれば、今自分に向かっている期待を裏切ることになり、信頼を失い掛けないのだ。

 まあキレて女性に手を出す輩の信頼が消えようが俺にはどうでもいいことだが、美少女の見事な誘導により男の回答は決まった。


 「そ、そうだ!全てはお前たちのためだ!」


 「やっぱり♪流石、タケルさんですね♪アナタが入れば、こんな状況も打破出来るかもしれません♪そんなタケルさんに、ワタシからお願いがあるんですが〜。」


 「お?そうなのか?何でも言うと良い!俺に出来ないことなどないからな!」


 周りから持ち上げられ、美少女に煽てられ、気分の良くなった下山は流れるように自分の要求をしてきた美少女に対し、あっさり承諾をしてしまっていた。

 ガハハッ!と笑って入るが、下山は気づいていない。


 「恐ろしい男だ。」


 「だな…。あっという間に支配権を自分のモノにしちまった。」


 いつの間にか俺の隣に来ていた大牙が、強面男に憐れみにも似た表情でそんな言葉を呟き、俺もそれに同調する。

 下山は気がついていないが、一気に懐に入られ、煽てられ、周りからの信頼を回復してもらった今の下山には、耕太の意見を無下にするなど出来ない。

 まあ簡単に言えば、実質的な支配権を持つのは耕太と言う事になるのだ。

 

 「アイツが敵じゃなくて良かったって、心底思うわ。」


 「確かにな。あの力は強力だ。真っ当に使えば、周りの誰かを救うことが出来る最高の力となるだろうな。」


 「あぁ…。アイツは最高のヒーローになれる。」


 「……。龍、お前は…」


 俺は少し羨ましそうな表情で、避難者たちの中心にいる耕太を見た。

 そんな俺に、大牙は何かを伝えようとしていたが、


 「皆さん!協力してこの危機を脱しましょう!!」


 美少女の呼びかけに何の疑問も持たず、おおーー!!と一致団結を見せる避難者達の声に遮られてしまった。

 さっきまでアレだけ恐怖に駆られ暴徒化しかけていたというのに、いつの間にか騒ぎは収まり皆が協力関係を築くまでに発展させている。


 本当に凄い力だ。


 俺なんかよりもずっと…。


 「……ん?」


 そんなことを考えていた俺は、ふと駐車場の柱の影に踞っている人影を見つけるのだった。

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