第3話 避難所騒動
圏外
「皆さん、只今より食料の配布を行います。配布する食料については皆さん全員分ありますのでご安心ください。ただし混乱を避けるため、各エリア、グループごとにお呼び出しさせて頂きます。呼ばれたグループの方はエレベーターホール前まで来てください。」
避難所内に響く女性の声。
声のする方を見ると、会社支給の青色のジャージに身を包んだ女性がエレベーターホール前に立っている。
そして後ろの方では同じジャージを着込んだ男性社員?たちが、せっせと重そうな段ボールを担いでホール前に並べ始めていた。
「そっか…気にしてなかったけど、もうお昼回ったんだ…。」
隣に座っていた椿がポツリと呟く。
俺はパーカーのポケットに仕舞っていたスマホを取り出すと、画面を付け、ホーム画面に映る時刻表を確認した。
時刻は12時15分過ぎ。暴君の襲撃から約3時間以上経過していた。
「これだけ時間が立っているのに、外からの救援が全く来ないなんて…。やっぱり、外はもう…。」
体育座りをし自分の膝に顔を埋めながら、力無くそう言う椿。
恐らく緊張感やストレスなどで
そしてそれはこの場にいる人たち全員にも言える。
俺に出来ることなんて、ただ椿の背中を擦り大丈夫だと励ますことくらいだ。
「因みに龍君。君のスマホの電波はどんな感じ?」
「変わんねーよ。ずっと圏外のままだ。」
同じくテントの中で椿と同じように疲弊している植木に寄り添っていた耕太が、俺がスマホの画面を確認すると、ついでにと言わんばかりに電波の状況を聞いてきた。
しかし俺は自分のスマホをしかめた表情で睨みつけると、直ぐに止めスマホをポケットに戻しながら状況を伝えた。
この避難所に来て真っ先に行ったのが外の状況確認だ。
SNSで誰かが呟いたり写真を投稿したりしているかも知れないし、ニュース記事で政府がどんな対策を取っているのかも確認出来る。
それに家族が心配をし連絡してきていると思い、それぞれが持っているスマホを確認した。
しかしそこに表示されていたのは、圏外という残酷な2つの文字だけ…。
「どうなってんだ?何で電波が来ない?地下駐車場だから、電波が阻害されてんのか?」
「それはありえないわ。確かに昔は、地下に行けばスマホが圏外になることはあったらしいけど、今の時代、地下にも通信網を張り巡らせてあるの。だから地下駐車場に降りたとしても、ましてや全員のスマホが圏外になるなんてありえないことだわ。多分、原因は他にあるはずよ。」
「……。まあ…何にせよ、俺達は外を知る術を失ったも同然ってことか…。」
解決するどころか余計に疑問が増えてしまったことで、俺達のいるテント内はシーンと静かになってしまった。
「では続いて、赤-8のグループの方、食料を取りに来てください。」
その時、外から女性の高らかとした声が響いてきた。どうやら食料配布の順番が回ってきたらしい。
すると今まで黙っていた大牙が、ヨッコラショと何かオッサンぽい口調で立ち上がると、
「ま、答えが出ん物を考えてもしょうがない。今は何か腹に入れて、頭をスッキリさせよう!腹が減っては戦は出来んってヤツだ!」
いつもの
俺はそんな大牙の言葉に、思わず吹き出してしまった。
「フハハッ!確かに、大牙の言う通りだな!こんなとこでクヨクヨ考えていてもしょうがねぇ。大牙、食料取りに行くぞ。考えるのはメシ食ってからだ!」
「そうだな!」
勢いよく立ち上がった俺は、大牙にニカッと笑顔を向けると、それに大牙も答えるかのように笑いあった。
「アンタたち…本当に単細胞ね。」
「まあまあカリンちゃん。これが龍君と大牙君だよ。本当に…ただ前だけを見続けてる。僕が心の底から尊敬できる理由の1つだよ。」
「それってただ何も考えてないだけッスよね?」
「アリサちゃん…。」
○◆○◆○◆○◆○◆○
「それではこちらが配布分になります。数は間違いありませんか?」
「はい!問題ないです!ありがとうございます!」
俺と大牙は、皆の食料を貰いに行くため、テントから少し離れたこのエレベーターホール前に来ていた。
食料を配布される時、大牙が何かを従業員の女性に見せるとお待ち下さいと言われ、しばらくするとその女性社員がもう1人男性社員と一緒に、大きなビニール袋に入った配布分の食料を持ってきた。
中身を確認すると、驚くことにしっかりと人数分の食料が入っている。
どうやら大牙が従業員に見せていたのは、テントエリアの番号札の様なもので、従業員たちはその番号に書かれたテントに何人避難者が居るのかを予め控えているらしい。
だから人数分の食料を予め用意をしていたらしく、素早く避難者たちに手渡しが出来ていたと言うことだ。
何ともしっかりとしたシステムだ。まるでこういったことが起こるのではないかと想定していたみたいに…。
「そう言えばお姉さん、ちょっと確認したいんですけど…。」
「はい?何でしょうか?」
「実はここに来てから電波の調子が悪くて外の情報とかが全く入ってこないんです。お姉さんたちは、外の状況が今どうなっているのか分かりますか?」
俺は食料を手渡してくれた女性従業員についでにと、ふとそんな質問を投げかける。
本当にただふとした事で聞いたことだ。恐らくここの従業員たちも情報がほぼ入っていない状況のはずだ。
だから聞いたとしても、分かりませんと言われるだけ…。そう思っていたが…。
「あれ?そうなんですか?可怪しいですね…?ここには電波が入ってきてるはずなので、情報端末なども使えるはずですが…。」
「え?」
女性従業員の予想外の言葉に、俺と隣りにいた大牙は目を丸くした。
すると女性従業員は、ほら…と、自分のスマホを見せて来たが、そこにはしっかりと4本の電波が立っていた。
(電波が入ってきてる?どういうことだ?俺たちのスマホはずっと圏外のはずだ。いや…俺達だけ?)
状況が飲み込めず呆然とする俺達に、女性従業員は戸惑った表情であのーっと声を掛けてきたので、俺はすみませんと作り笑いを浮かべ何とか誤魔化す。
その後すぐに、女性従業員から外の現状を聞いた。
「私もこれが正しい情報とは断定出来ませんが、今東京の至る所で変な黒い生物の襲撃を受けているようです。それに伴い自衛隊が動いたとか…私の知る限りはこれくらいです。」
女性従業員から話を聞いた俺達は、女性にお礼を言い食料を持ってその場を後にする。
そしてその道中、俺と大牙は互いの意見を言い合った。
「さっきのお姉さんの話…どうやら耕太たちが襲われたって言ってたヤツ以外にも、別のヤツらがいそうだな。」
「ああ…しかも東京全土ときたもんだ…。多分だけど、このままここに入れば…。……ッ。皆を逃さないと…ッ。」
「まあ待て、結論を急ぎすぎるな。まだ情報が少なすぎる。1度椿たちと話し合おう。これは俺達だけでは決めきれん。」
「……。そうだな…。すまねぇ、焦ってた。ちょっと頭冷やす。だけど、俺達のスマホだけが圏外だったっても伝えないとな。偶然にしては、俺達だけっていうのは流石に可怪しい。もしかしたら誰かが妨害でもしてんのか?これも耕太たちと話し合わないと…。」
「いや、それは椿たちには話さないでおこう。」
「どうしてだ?かなりヤバいことだろ?」
「ただでさえここに長時間押し込まれ、不安と恐怖で疲弊しているんだ。そこに第三者の妨害なんて話してみろ。耕太はともかく、椿たちにはかなりのストレスだ。今は闇雲に情報を増やすべきでは無い。」
「…分かった。黙っとく。」
不服ではあったが、大牙の意見は最もだと思い、圏外の件については皆には言わないことでその話はまとまった。
そして本題は、従業員から聞いたこの情報へ。
「だけど、これはしっかり伝えないとな。自衛隊が動いてるって事は…。」
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