情報交換
「まさかこんな所で龍君たちに会えるなんて思っても見なかったよ!それにしても無事で良かった…。」
「ふぉ…ふぉうなな。おへもおふぁえがぶしでよがた…。(そ…そうだな。お前も無事でよかった。)」
暴君の襲撃から身を守るため避難所へと訪れた俺達だが、まさかそこで耕太たちとバッタリ会うとは思わなかった。
10人は入れそうなテントの中で円を描くように座る俺達は、ここまで何があったのかを軽く情報交換することとなったのだが…。
俺は全くもって集中出来なかった。
「コウたん、頭撫でて。私を
「頑張ったね。大好きだよカリンちゃん。」
「ムフーー。」
さっきまであんなに男嫌いオーラをフルブーストしていた金髪ツインテ少女の植木花梨が、猫撫で声を出しながら耕太に膝枕してもらっているのだ。
とてもあの冷徹な表情をしていた彼女と同一人物とは思えない
因みにこの2人は、学校でも有名な生徒会カップルだ。
同じ生徒会で耕太が生徒会長、植木が副会長を務めている。
高校では、あの鉄壁城塞少女を
だからこんな甘々な現場を見ていても何ら不思議はない――
不思議は無いんだけどさ…。
俺達、一体何を見せつけてられてるん?
しかし一向に話が進まないのでどうにかしたいが、今耕太に話しかければ植木からどんな恨み言を言われるか分かったもんじゃない…。
「って、龍君!頭怪我してるじゃん!早く治療しないと…!」
「ふぉれふぁ?ふぁーふぁいしたふぉとにゃい。(これか?まー大したことない。)」
すると耕太のヤツが俺の頭の怪我に気がついたらしく、心配そうに見つめてくるので大丈夫だと意思表示をしたのだが、それでは収まらなかったみたいだ。
耕太は膝枕している植木にごめんねと言いながら立ち上がり、近くの物資から救命キットを取り出すと俺の元まで近付いてきた。
まあもっと注目してほしい所はあるんだけども…。
「ほらジッとしてよ龍君。じゃないと治療出来ない。」
「ふぃあふぉんふぉにだいしょうふふぁから!ふぃんふぁいふるはっえ…!(いやホント大丈夫だから!心配すんなって…!)」
耕太は嫌がる俺を制しながら、手際よく俺の額に大きめの絆創膏を貼り付ける。
俺は必死になって治療してくれる耕太を見ながら、コイツホント昔から変わんねーなと心の中で呟いた。
にしても…早く終わってくんねーかな…。
さっきから耕太の後ろで植木がスンゲー睨んできてんだけど!
今にも飛びかかってきそうなんだけど!
お願い!はよ終わってくれ!!
過度の心身的ストレスのせいで胃に穴が空くかと思った…。
「ところでさっきから気になってたんだけど、何でア◯パンマンみたいになってるの?」
「ひひすんにゃ…。(気にすんな…。)」
○◆○◆○◆○◆○◆○
しばらくした後、何とか落ち着きようやくと情報交換を始めることが出来そうだったので、まずは俺達の方から何があったのかを、代表して椿が説明し始めた。
渋谷駅で漆黒の暴君に遭遇したこと。その暴君から攻撃を受けたこと。やっとの思いでこの避難所に辿り着いたこと。それらを全て椿が噛み砕き分かりやすく説明してくれた。
耕太たちは真剣に椿の話に耳を傾け、終始暗い雰囲気にはなってしまったが何とか椿が説明し終える。
すると椿の説明を聞き終えた耕太たちが、何やら3人で話し合い始めた。
「ごめん何か分からない所でもあったかな?」
「いいえお姉様。お姉様の説明はとても分かり易かったッス!ただ…」
不安に思った椿が3人に向かい質問を投げかけると、篭旗があたふたしながら説明に問題はなかったとフォローを入れるが、それから何かを言おうとした篭旗が、言葉が見つからないといった表情で黙り込んでしまう。
一体何だ?と俺達は首を傾げたが、その先を答えたのは他でもない耕太だった。
「椿ちゃんたちは黒いティラノサウルスに襲われたって言ってたけど、僕たちは違うんだよ。」
「違う?どういう事だ耕太?」
俺達の疑問に対して耕太は少し言葉を渋ったが、場の空気を和らげるためか、それとも自分自身を落ち着かせるためか、深く深呼吸をした耕太は真剣な表情で俺達に伝えてくれた。
とても重要で俺達のこの先を左右する、衝撃的な事実を―――
「そのままの意味だよ龍君。僕たちはティラノサウルスじゃなく、まったく別のヤツに襲われてここまで逃げて来たんだ。」
○◆○◆○◆○◆○◆○
同時刻。
陽の光が余り入らず、普段は人通りも少ないこの場所だが、こういった非常時、ましてや未知の化け物が現れたとなれば、身を潜めるにはうってつけの場所だ。
何故なら現れた漆黒の暴君_ティラノサウルスは、こんな細く狭い場所には入っては来れない。
それに入り組んだこの場所なら、隠れていれば見つかることすらない。
だからこそ、ここには多くの避難者が身を寄せ合い、警察や自衛隊などの救助を待っていた。
ここにいれば助かると、そんな希望を胸に抱いて…。
だがそんな淡い希望は、ヤツらには関係なかった…。
「やっ止めろ…。止めてくれ…。頼む…助けてくれ…。俺には、かっ家族がいるんだ…。帰りを待ってる…家族が…。」
スーツ姿のサラリーマンが、地面に尻もちを付きながら、怯えた表情で後退りをしている。
目に涙を浮かべヨダレを垂らし、大の大人が無様な姿をさらしてしまっていた。
しかし…それも仕方のないことだ。
なんせ…彼の目の前には…。
グラララッ
薄暗くて全体までは見えない。
しかし暗くとも分かる、ギラリと光る鋭い
ヤツはそれを見せびらかすようにゆらゆらと揺らす。
人間の平均男性よりも一回り大きいソイツは、後退りするサラリーマンをゆっくり…ゆっくりと追いかける。
まるで逃げているサラリーマンを追いかけることを楽しんでいるようだ。
「やだ…死にたくない…。死にたく…ッ!………あ。」
ザシュッ!
サラリーマンは振り返り、走って逃げようとした。
しかし…そんなものは無意味だと言わんばかりに、後ろに居たもう1体のヤツに鋭い鉤爪で首を裂かれた。
サラリーマンの口から声が漏れると同時に、首元から鮮血が吹き出す。
そうしてサラリーマンはその場に倒れ、2度と起きることはなかった。
暗闇に
するとそれに呼応するように、別の路地裏から同じ様な鳴き声が聞こえ、他の場所からも反響しどんどんその数を増していった。
一通り鳴き終わったヤツらは、次なる獲物を求めて、その場を後にする。
後に残されたのはサラリーマンを含めた、無惨に切り刻まれた数十人の遺体だけだった…。
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