ラッキースケベって、代償ありきだよね?

 「ふぉんとぉに、ふいまふぇんでいた(本当に、すみませんでした)。」


 テント内に俺の情けない声が響く。

 俺は今、テントの中で深々と土下座をしていた。まあさせられていたのが正しいけど…。

 原因は勿論、俺が大牙の忠告を最後まで聞かず、無作法にもテントへ乗り込んでしまいそこで運悪く着替えていた2人の少女たちと鉢合わせしてしまったことだ。


 因みに彼女たちが着替えていたのは、この避難所に来る前酷く汚れてしまったらしく、従業員の人に相談した所この会社の指定ジャージを貸してもらったそうだ。


 何と見事なラッキースケベだろうか…と、一瞬そう思っていた時期も、俺にはありました――


 そこから先は本当に酷く、3人の少女による見事な連携プレイでテントから放り出された俺。

 だがそれでも少女たちの怒りは収まらず、しっかりと着替えてきた2人が、さらに追い打ちをかけるように動けない俺を踏みつけボコボコにしてきたのだ。

 そして現在に至り、俺の顔は見事に腫れ上がり、見るも無惨な姿となってしまったわけだ。


 本当に…許して欲しい…。俺泣いちゃう…。


 でも…俺の目の前に立つ、短髪ボイン少女と、金髪ツインテ少女は、全然許してくれる気配がなく、軽蔑けいべつした目で俺を見下ろしている。


 「そろそろ許してあげて2人とも。ほら、龍もすっごく反省してるし、私も後でしっかり言い聞かせておくから。ね?アリサ、花梨かりん。」


 「ダメよ椿。いくら椿の頼みでも、私はコイツを許すつもりは無いわ。しばって外にるして奴らのえさにしましょう。」


 「そうですよお姉様!こんな変態クズ野郎、絶対に許しちゃいけません!それにコイツは、ぼっボクたちの…は、裸を見たッスよ!?お姉様以外に見られたことのないボクたちの裸をッ!!ボクが責任もって始末してくるんで、任せてくださいッス!」


 何だかもの凄く物騒なことを言っている2人を、いつの間にか彼女たちと同じジャージに着替えていた椿が2人を宥めているが、どうやら聞く耳を持たないらしい。

 そして俺は、この2人の少女の事を知っている。

 てかめちゃ知ってる。


 俺から見て左に立つこの短髪ボイン少女の名前は篭旗るばたアリサ。

 俺達と同じ雄偉高校の1年生で、椿と同じテニス部所属のスポーツ少女だ。

 前回も説明したと思うが、篭旗は椿のことをとても慕っており、その表れか椿のことをお姉様と呼んでいる。

 因みに夏休み前、遅刻し椿の胸を触ってしまった事件で、俺に飛び膝蹴りを食らわせてきたのはコイツだ。

 

 そして俺から見て右側に立つ一際ひときわ軽蔑けいべつした目で見下ろしている金髪ツインテ少女は、こちらも俺達と同じ雄偉高校の1年生、植木花梨うえきかりん

 小柄で華奢きゃしゃ可憐かれんな見た目の少女だが、そんな姿とは裏腹にマジで気性の荒い性格の持ち主だ。

 しかしその容姿も相まって今まで何人もの男子達が彼女にアタックしたらしいが、それは尽く打ち砕かれ、ついでにさげすみの言葉も付いて来たという。


 まあ単なる男嫌いってだけなのだが――


 そんな少女の裸を見てしまったからには、しかもそれが男であるならば、この少女は容赦無く俺を外へと放り出すだろう。


 てかマジでやりかねない勢いだ。


 学校では割と仲の良い椿が必死になだめても、彼女たちの怒りは収まりそうにない。


 (ヤバい…。これマジで許してもらえないかも知れない…。どうにか打開策だかいさくを…。ハッ!!)


 土下座をしながら頭をグルグルと回し続けた俺は閃いたと同時に、首だけをゆっくりテントの入口の方に向け、そこで立っている大牙にアイコンタクトを取った。


 (大牙!!頼む!!助けてくれ!!)


 俺の必死のアイコンタクト。

 それを感じ取ったのか、大牙がこちらを見た。そこから俺は必死に助けてと念を大牙へと送る。


 (ヘルプ!SOS!!エマージェーシー!!!)


 すると、俺の念が通じたのか、大牙が片腕を上げて…


 (流石は友よ…。さあ、俺をこの地獄から…。)


 シャキーンと、いびつなウインク(出来てないけど…)をしながらサムズアップし、また元の位置に戻りそれからこっちを見なくなった。


 (いや頑張れじゃねーよ!?おい!コラ!こっち向け!!)


 「何をやっているのかしら?そんなに餌にされたいの?」


 大牙に華麗に見放されたと同時に、丁度真上から冷たい声が聞こえてきた。

 どうやら俺が大牙にアイコンタクトを取ったことが植木にバレたようだ。

 俺は再びピキッと氷のように固まってしまい、冷や汗がダラダラと流れ始める。

 すると、ゲシっと植木が片足で俺の頭を踏みつけてきた。


 「何も反省していないようね?私達の裸を見ておいて?」


 冷たい言葉を浴びせると同時に、どんどん踏む力を強めてくる植木。

 

 「ホント…男ってみにくいわ。私達のことをそんな目でしか見れないんだもの。気持ちが悪い。いっそこの世から男なんて消え去ればいいのよ。」


 次から次へと出てくる男に対しての罵詈雑言ばりぞうごん

 こりゃダメだ。俺多分ここで終わったわ。

 この男嫌いのツインテ少女を止められる存在なんて――


 「カリンちゃんおまたせ!職員の人から物資貰ってきたよ!」


 突然響く聞き覚えのあるハスキーボイス。

 その声が聞こえた時、俺は思い出した。

 たった1人だけ、植木花梨という鉄壁ガチガチ要塞を攻略した猛者が…。

 

 「こっ…コウたん!?」


 何か聞いたことのない甘々ボイスが響いた途端、俺の頭への負荷が唐突に消えた。

 なんとか頭を持ち上げ状況を確認すると、さっきまで冷たい目線を浴びせていた植木が、何だかトロンとした表情で別の方向を見ている。


 俺がゆっくりと後ろを振り向けば、テントの入口に誰か立っていた。

 それは両手いっぱいに必需品を抱える、栗色髪の華奢な身体つきの美少女…ではなく美男子。


 雄偉高校現生徒会長_梅宮耕太うめみやこうたであった――

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