椿の提案

 “自衛隊が動いている。”

 

 この言葉から少なくとも、自衛隊が俺達を助けるために動いていることは確実だ。

 だが暴君の襲撃から既に3時間は経過している。それなのに何故、こちらに救援が来ないのか?

 このビルの人が救難信号を出していない訳がないし、俺達のことを見つけていてもおかしくないのだ。

 つまりは…


 「自衛隊だけでは対処できず、私達の救援に手が回らない。それはつまり、東京を襲ってきた敵の数が多すぎるか、そもそも武器火器の類が効かない?」


 「不死身ってことか?」


 「そこまで言ってないわ。だけど…もし後者なら…。」


 テントに戻った俺達は女性従業員から聞いた情報を椿たちに説明した。そして椿と植木、耕太の3人が話し合い、椿が2つの可能性を導き出した。

 俺は2つの可能性の内、後者に付いて椿に確認を取る。だが椿からは否定の言葉が飛んできたが、それでもあまり強くは否定できない部分もあるらしい。

 しかしその可能性に対し、植木はあまり納得がいかないようだった。


 「不死身なんて代物は有り得ないわ。この星に生まれた全ての生物には、死という概念が必ず存在するの。生命力が異様に強い生物は居るけど、最後には必ず死へと辿り着く。不死身なんてのは、ファンタジーだけの話よ。」


 「もう既にファンタジーの世界だよ…カリンちゃん。」


 「コウたん?」


 「龍君たちの話でもあったでしょ?黒いティラノサウルスは、破壊光線のようなもので攻撃してきたって…。大昔に絶滅したはずの恐竜が現代に居ることも説明がつかないのに、更には破壊光線なんていうゲームやアニメでしか聞いたことがない能力まで持っているんだ。これをファンタジーと呼ばずにどう説明するんだい?」


 「それは…」


 しかし植木の意見を、耕太は優しく否定した。事態は既に、人智を超えた状況となっている。そう耕太は伝えたいのだろう。

 内心俺もそう思っていた。


 何故ならあの漆黒の暴君が現れて、自分の常識なんて意味をなさなくなってしまったのだから__


 それは植木自身も分かってはいたのだろう。耕太からの指摘に、植木はそれ以上何も言えなくなってしまった。

 

 「耕太、花梨。これはあくまでも可能性の話よ。だから後者が正しいとは言わないわ。私だって信じたくないもの…。」


 椿だって信じたくはないのだろう。現に彼女は自信無さげに俯いてしまっている。


 「そんなもの、あやかしの類だ。現実には有り得ん。だが、椿は考え無しにそんな事を言う奴では無いことは昔から知っている。椿、俺に何か出来ることがあれば言ってくれ。」


 「大牙…。ありがとう。」


 「お姉様がそう言ってるんすから!お姉様の意見を尊重するべきッスよ!」


 「アリサ…。」


 椿の意見に肯定する者、否定する者、反応は様々だ。

 しかしどれだけ議論を重ねても、実際の自衛隊と奴らの戦闘シーンを見たことない俺達に明確な答えなど出るはずもなく、最終的には前者の意見で落ち着いた。


 「何にせよ。こうも時間が立ってるのに、状況が変わらないのは異常だ。きっと外で何かがあったんだ。救助する間もない何かが…。」


 「龍の言う通りよ。きっと何かがあったのよ。……。私は、東京を脱出するべきだと思うわ。」


 椿の言葉に全員が固まる。

 それもそうだ。椿が言っているのは、この殺伐とした世界で、奴らから逃げ、そして東京を脱出すると言うことだ。。

 それはかなり無謀な賭けだし、命の保証もない。

 だからこそ、こう言った強い反対意見だって必ず出てくるものだ。


 「椿…。アンタにしては頭の悪い提案ね。どう血迷ったらそんな案が出てくるの?」


 「カリンちゃん…。」


 案の定、椿の意見を冷たく否定する植木。耕太もどうしたものかと少し頭を抱えている。

 だが植木だって、否定したいから否定してる訳ではない。

 残るか出るか、どちらが生存率が高いなんて誰にだって分かる。

 植木はただ生き残る確率が高い方を選択しているに過ぎない。


 2人の睨み合いに、俺が口を挟もうとした時だ。


 「おい花梨!何だよその口は!!お姉様はボク達が助かるための方法を考えてくれてんだぞ!さっきから否定ばっかしやがって!だったらお前は何かいいアイデアあんのかよ!!」


 突如として声を荒げたのは、さっきから椿の意見を肯定していた篭旗るばただった。

 頭に血が登っているようで、顔を赤くしながら乱雑に植木の胸ぐらを掴む。

 篭旗のいきなりの豹変ぶりに俺達は騒然とし、俺は咄嗟に植木から篭旗を引き離しに動いた。

 しかし羽交い締めにしながら落ち着けと篭旗を諭す俺に、引き離し際に篭旗から、“おい離せ変態!!”、“覗き魔!!”、“童貞野郎!!”などとめちゃくちゃ酷い暴言を吐かれる羽目になったが―――


○◆○◆○◆○◆○◆○

 

 騒然とする空気だったが、ただ1人植木だけは澄ました顔で乱れた服を直し、無い胸辺r……(あ、すんません…。)普通の胸のm……(あ、これもダメ?えっと…じゃあ…)豊満な胸の前で腕を組みながら、暴れる篭旗を取り押さえる俺達を冷たい視線で見ていた。


 だがそんな事は無駄だと思ったのか、はぁ…と1つため息を付き、自分を睨みつける篭旗に鋭く言い放つ。


 「ちなみにアリサ…。貴方は椿が何を言っているのか理解はしているの?」


 「理解?ハッ!お姉様の考えていることは、全部正しいんだ!ボクが理解するなんておこがましいことなだ!」


 篭旗の返答に心の中でコイツ何言ってんのと俺はドン引きしながら叫ぶ。それほどまでに篭旗の椿への思いが強すぎるのだ。

 これはまるで…。


 「狂信的きょうしんてきね…。まるでカルトだわ。」


 「何だと…。」


 植木も同じことを思ったのか、ため息を付きながらそう吐き捨てる。


 その言葉に更に怒りを滲ませる篭旗。


 一触即発の事態に、発案者である椿がどうしようと言った表情で困惑してるがそれは俺達も同じで、このままでは分断が起き取り返しのつかないことになるかも知れないと緊張を募らせた。

 その時だ…!


 ドンッ!!


 上から鈍い音が鳴ったかと思えば、まるで地震でも起こったかのように地面が揺れた。

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