第1話 熱血ヒーロー!!その名は龍騎!!
始まりは寝坊から…
俺は小さい頃から、ヒーローと言うものに憧れていた。
―――カラフルな戦闘衣装。
―――カッコいい必殺技。
―――幼い心を刺激するヒーローたちの絆。
スクリーンの中の作り物だということは分かっている。
だけどその勇姿や、生き様、弱気を助ける為に力を振るう姿は、幼い自分には眩しかった。
自分もスクリーンの中のヒーローたちと、一緒に戦いたい。
誰かを守れる存在になりたい。
俺も…あの人たちみたいな―――
「龍ちゃん!!いつまで寝てるのっ!!遅刻するわよ!!」
「ふぇあっ!?」
突然、夢心地に浸っていた俺の脳内に侵入してきた恐るべき怒号。
それは俺の身体を反射的に飛び上がらさせるには十分だった。
ドシーンッ!と俺はベッドの上から転がり落ち、その衝撃で机の上に置いてあった某ヒーローの目覚まし時計が頭上へと落ちてきた。
「イッターー…。何なんだよ人が気持ち良く寝てたってーのに…。ん?」
頭を擦り飛び起こされたことに対して愚痴を溢す俺は、落ちて床に転がった目覚まし時計が目に入る。
時刻は7時50分を周り、まもなく8時を差そうとしていた。
それを見た俺は、一瞬思考が止まり、そして直ぐに思考が戻り立ち上がった。
「ヤバ!!遅刻じゃねーか!!」
西暦2029年7月20日
今日は金曜で、世の多くの学生たちは、夏休みに入る前の最後の登校日。
そして俺、炎城龍騎もまた現在高校1年でありそんな学生たちの1人ではあるのだが、どうやら夏休みを1日ばかり早とちりしていたらしい。
時刻は朝8時。
完全に遅刻コースだ。
俺は手早く制服に着替えると、学校指定のバックを乱雑に持ち、自分の部屋から飛び出す。
そして真っ先に階段を降りると、そのまま玄関へと向かった。
「ちょっと龍ちゃん!!」
俺が玄関の扉に手を掛けた瞬間、突然後ろから声が響き、俺は反射的に振り向いた。
そこに居たのは赤毛のロングを後ろで縛った中年の女性。
俺の母親である
「何だよ母さん!俺遅刻しそうで急いでんのっ!」
「…ご飯は?」
「へ…?」
焦りを
しかしそんな俺に対して、母親から飛んできたのは、ご飯という一言。
俺は困惑し、足を止める。
「いや…あの…食ってる暇…ない。遅刻…」
「ご飯は?」
「いや…だから遅刻…」
「ご・は・ん・は?」
「……はい。いただきます…。」
再び俺は遅刻しそうと訴えたが、物凄い圧力で飯を食えと言ってくる母親。
俺は負けじと反論しようとしたが、やはりそれ以上の圧力を飛ばしてこられ、俺は根負けした。
「ほら、ちゃっちゃと食べちゃいなさい。遅刻しそうでも朝はしっかり食べないと、力が付かないんだから。」
「だからって玄関でサンドイッチ食わせるってどうなの?」
何処から出したのか、母親は皿に乗った二切れのサンドイッチを俺に差し出し、俺はそれを
俺は口の中のサンドイッチが全て胃の中に入ったことを確認すると、その場でご馳走様でしたと呟いた。
腹に何か入れたからなのか、ちょっと頭がスッキリした感じがする。
「それに…ヒーローは朝しっかりご飯を食べる!龍ちゃんが小さい頃から言ってた事でしょ?」
不意に母親が俺に向かってそう言ってきた。
確かに小さい頃、俺は母親にそんな事を言った覚えがある。
言われるまで俺は完全に忘れいていたが、よく覚えていたもんだ。
「ほら!頑張って行ってきなさい!」
「痛っ!?急に背中叩くなよ!?」
バシンっ!と、母親は俺の背中に
俺は眉間にシワを寄せながら母親を睨むと、母親はそんな俺に笑顔を向けてきた。
多分俺は、この母親に一生敵わないかも知れない。
「行って来ます!!」
「行ってらっしゃい!」
俺は振り向きざまにそう言うと、玄関の扉を開け、学校へ向けて走り出した。
◆○◆○◆○◆○◆○◆○◆
太陽が7月の暑い日差しをこれでもかと地表に照らし続ける。
そんな太陽に負けない程の真っ赤な髪をした俺は、直射日光が当たる道をひたすら走り続けていた。
(クソッ!今月に入ってもう遅刻5回目だぞ!流石にもう居残りの反省文10枚は勘弁したいし、明日から夏休み!遅刻の反省文から夏休みスタートとか最悪すぎる!何としても間に合わせてやる!)
何を隠そうこの俺、炎城龍騎は入学してからこの約3ヶ月で遅刻19回を叩き出した記録保持者である。
今回も遅刻となれば、何と通算遅刻20回の大台に乗るのだ。
―――実に
しかし俺には、もう1つ避けたいものがあった。
(それにこのままだと…絶対アイツ、嫌味を言ってきやがる!絶対に言わせねぇ…。言わせてなるもんか!)
俺は内なるフツフツとした感情を糧に、走るスピードを更に上げた。
(このスピードなら、最後のバスに間に合うはずだ!よしっ!後もうちょい!)
俺の通う高校へは途中バスに乗らないといけない。
それ程距離が離れているのだ。
最初の頃は自転車通学も考えたが、距離的に学校から許可が降りず、渋々バス通学となってしまった。
しかしバス停まではそんなに距離がないので、走れば10分ほどで着ける。
そんな事を考えていたら、目の前にバス停が見えてきた。
そして丁度バスもやってきた。
(何とか間に合いそうだな。あのバスに乗れれば…。)
「誰かっ!ひったくりよっ!?」
バス停目前の俺の耳に、必死に叫ぶ老婆の声が聞こえた。
俺は反射的にそちらに視線を向けると、バス停とは反対の車線で今まさにか弱い老婆から、スクーターに乗った男がカバンを引ったくる瞬間を目撃した。
しかもそのスクーターがこちらに向かってきている。
「どけやクソガキっ!
スクーターに乗った男が、こちらへ何かを
その瞬間、俺の頭の中で何かが切れた。
「ふざけんなよ…。力の弱いものから奪おうとする外道が…っ!!」
「は…?」
俺は走っていた勢いを殺さず、その場で地面を蹴り飛び上がると、身体を捻り回転させる。
その遠心力を利用し右足を振り抜くと、俺はその右足をスクーター男の顔面に叩きつけた。
「フベボッ!?」
想定外の攻撃を喰らい、スクーター男は後方へと吹き飛ばされ、スクーターだけが先へと進み近くのガードレールに激突する。
周りがシーンと静まり返る。
しかし俺はそんなことは気にせず、地面に転がり伸びて意識を失ってしまったスクーター男に近づくと、男が引ったくったカバンを取り、
「大丈夫かばあちゃん?怪我とかしてないか?」
「あ…あぁ、私は大丈夫だよ…。それよりお前さんの方は大丈夫なのかい?何だか凄い音がしたけど…。」
「俺か?俺はこの通りピンピンしてるさ!まあいつも鍛えてはいるから、これぐらいは平気だよ。」
未だに信じられないといった表情を浮べる老婆に、俺はニッコリと笑顔を見せながら、力こぶを見せつけるようにマッスルポーズを取ってみせた。
「一応警察は呼んだから、直ぐに来ると思う。犯人も縛り上げておいたし大丈夫だろ。それじゃ、俺は急いでるから、ばあちゃんも今後気を付けろよ!」
「ちょっと待ちな!何かお礼を…!」
「そんなもん要らねーよ!ヒーローは見返りなんて求めない!これ鉄則!」
「え?何?ヒーロー?」
俺は一通りことを済ませると、その後のことは戸惑い顔の老婆に任せ、再びバス停に向かい始めた。
しかし…
「あれ…?」
悲しいことに…バスは既に行った後だった…。
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