第23話 夢のお告げ

 諏訪はポツリポツリと語り出した。


「私の家系は代々、諏訪神宮という神社で夢見咲耶姫ユメミノサクヤヒメという女神を祀ってきました。月に1度、女神に感謝の意を込めて捧げ物と祝詞をあげます。これは神社内で行う儀式で、関係者以外儀式には同席しません。そして半年に1度、村のものや観光客も呼んで大々的な祭をとり行います」


 死神達は黙って諏訪の話に耳を傾けた。諏訪は続けた。


「1ヶ月ほど前のことです。私の夢の中に桜のように美しい女性が現れました。その方は自分は夢見咲耶姫だと名乗りました。そしてこう仰られたのです」


 ここで諏訪は言い淀んだ。死神たちは諏訪の言葉を待った。しばしの間の後、諏訪は恐る恐るといった様子で言葉を口にした。


「女神は─『次の儀式で、贄として人間を捧げよ』と。そう言われました」


 その言葉を聞き、死神たちは驚いて互いに顔を見合わせた。諏訪は続けた。


「夢の中でですが、無論丁重に断りました。女神は返事をされないまま、そこで目が覚めました。それからです。大御山で頻繁に自殺者が出るようになりました。今までそんなことはなかったのに。夢の事が無関係とは思えません。表向きは自殺ですが、本当は女神が人間を生贄として呼び寄せ、そして殺しているのだと私は思います。理由は分かりませんが…」


 諏訪はそこで一旦話を切った。ヤマガミは腕を組み、どこか遠くを見ながらため息を付いた。


「なるほどなあ。長年崇めてきた神が人間を殺めるなんて、神主である諏訪さんは誰にも言えないよな」


 ヤマガミに言われ、諏訪は重々しい仕草で頷いた。


「そうなのです。神主である私が言うのもなんですが、あまりにも非科学的すぎて誰も信じてくれる自信がありません。諏訪神宮の信用にも関わるので他所に相談も憚られます。私だけでなんとか出来ないかと毎日考えているのですが、いくら祝詞をあげようと捧げ物を増やそうと、なんの効果も見られません。こうしている間にも誰かが亡くなっているかもしれないのに」


 諏訪の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。ミカミがそっと諏訪に歩み寄り、励ますように肩に手を置いた。


「大御山で不審な死が相次いでいることは、私達の間でも問題視されています。それを解決するために私達はここに来ました。諏訪さん、調査に協力して頂けますか」


 そう言われ、諏訪は顔を上げてミカミをまっすぐ見据えた。その顔からは揺るぎない決意が現れていた。


「もちろんです。私に出来ることであれば何でも致します」


 無事協力者を確保できたと見て、ヤマガミは喜んで拍手した。


「決まったな。これからどうする?俺としては出来れば御神体に御目にかかりたいんだけど」


「はい。結構ですが」


 ムラカミは先程の会議の内容を思い出し、訝しげにヤマガミを見て言った。


「でも女神に気づかれて、警戒されたらマズいってさっき言ってませんでした?」


「それなんだよなあ」


 痛いところを突かれたとばかりにヤマガミはこめかみを押さえた。

 その会話を聞いた諏訪は、何かを思い出したように懐を探って何かを取り出した。


「皆さんこれをつけて下さい」


 諏訪の手に握られていたのは、文字のようなものがびっしり書いてある紙だった。ヤマガミが近寄り、諏訪の持っている紙をしげしげと眺めた。


「何?これ。御札?」


「諏訪家に代々伝わる魔除けの札です」


 魔除けと聞いて、諏訪の傍にいたミカミとヤマガミが驚いて飛び退った。


「魔除け?俺らが付けて大丈夫なの?」


 少し離れた場所から、ヤマガミは怯えた表情をして尋ねた。ミカミも目を細め警戒心を露にしている。諏訪はよく見えるように札をトランプのように広げて見せた。


「この札は魔物を攻撃するのではなく、魔物から見えないようにすることで魔物を避けるという効果があります。これで気配を消して御神体に近付けると思います」


 諏訪の説明を聞き、ヤマガミは子どものように目を輝かせた。


「えーっ、すごい便利じゃん。その御札もっと頂戴」


「ヤマガミさん、図々しいですよ」


 華麗な掌返しを見せたヤマガミをイケガミは窘めた。だが諏訪はむしろ嬉しそうな顔をしてヤマガミに言った。


「御札は神社に行けばまだ沢山あります。不審死が無くなるなら、お礼として好きなだけ差し上げましょう」


「やった!よし、早く神社に行こう」


 便利な御札の存在を知ったヤマガミが意気揚々と歩き出した。その後ろを、御札を褒められて笑顔の諏訪と、呆れ顔の3人の死神たちが続いた。





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