第22話 死神と待ち合わせ

 地図に示されていたのは諏訪神宮よりかなり離れたところにある、雑木林の中にある公園だった。歩きで行くには正直辛い距離だったが、諏訪と登山客風の男はそのことには触れず、ただ目的地へと足を進めた。


「この辺りにはよく来られるんですか?」


「いやあ、全然。この町に昔の会社の同僚が住んでまして、良いところだから遊びに来ないかって誘われたんです」


「そうでしたか。それなのに現地集合とは大変でしたね」


「ええ、地図アプリがあるから大丈夫なんて言うんじゃなかったですよ。こんなに迷うとは思いませんでした。友人に電話しようかと思ったんですが、ちょうど神主さんがいるのが目に入ったものですから」


 何気ない風を装いながらも、諏訪は内心舌を巻いていた。会話も全く違和感なくスムーズだった。どこかでボロを出すのではと思ったが、それは期待できそうになかった。化け物じみていない化け物は、おどろおどろしい化け物より遥かに恐ろしいような気がすると諏訪は思った。不安を鎮めるため、懐の祝詞と御札にそっと手をやった。


 やがて目的地の公園のある雑木林が近づいてきた。二人はいささか疲労気味(男の方はフリかもしれないが)で、無言で土の道を歩いた。公園に辿り着いたとき、諏訪は公園の奥の一角に目をやって、思わず息を呑んだ。


(死神……)


 その一角に、喪服姿の男女がいた。男性が3人、女性が1人。姿形は人間と変わらないが、彼らは人間ではない。普通の人間には彼らを認識することはできないが、諏訪は生まれ持った特殊能力で彼らを度々見ることがあった。彼らは死を司る不吉な神だ。そしてその不吉な神たちが明らかに自分を待っている様子だ。諏訪は俄に緊張した。ここへ来たのは間違いだったかもしれないと、軽率な行動を恨んだ。


「おーっ、お帰り御前」


 諏訪たちに気づいて、一番年嵩と思われる男が声を掛けてきた。それにつられて他の3人も諏訪たちの方に目を向けた。ここは先手を打ってやろうと思い諏訪は言った。


「皆さんは死神ですね。私に何か御用ですか」


 諏訪のセリフに、死神たちは予想を裏切られた様子で目を丸くした。先程の年嵩の男が砕けた口調で諏訪に喋りかけた。


「俺達が見えるんだ。しかも死神だってことも。こいつは話が早くて助かる。じゃあ御前のこともわかってる感じ?」


 ゴゼンとはなんだろう、話の流れから言ってこの隣の男だろうかと諏訪は頷いて返した。


「はい。人ではないことは分かりました。正体までは分かりませんが」


「なあんだ、バレてたのかい」


 見た目は中年男性のままだったが、急に婀娜っぽい女性の声になったので諏訪は思わず隣を見た。すると男性は消え、小さな三毛猫が尻尾を立てて優雅な足取りで女性の元に歩いていった。女性は少しかがんで猫の頭を撫でながら神主に言った。


「お呼びだてしてすみません。実は私達、ある不可解な現象について調査をしに来たんです。あなたに協力して頂きたいのですがよろしいですか?もちろん危険が及ばないよう配慮はします」


 年嵩の男とは違い、ごく丁寧な口調で喪服の女性はそう告げた。死神が4人も集まっていることは充分不可解な現象に思われたが、諏訪はそれには触れないことにした。


「不可解な現象……?」


「ええ、大御山にまつわる現象です。お心あたりはありますか」


 そう言われ、諏訪は下唇を噛んだ。心当たりはあった。今まで誰にも言えず悩んでいたことだった。諏訪はすべてを話す覚悟を決めた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る