第20話 作戦会議中

 降り立った所は大きな杉の木と池が特徴的な公園だった。池の水は真っ青に見える程とても澄んでいて、鮮やかな黄緑の水草の合間を錦鯉が優雅に泳いでいた。会議に使うのには勿体ないような印象的な風景だった。その池のそばで、死神4人は円になって作戦会議を始めた。杉の木のてっぺんに八咫烏が待機しており、その姿を見た近隣のカラスたちが次々に挨拶をしに来て、空は大層賑やかな様子だった。


 特に話し合って決めたわけではないが、1番年上で(見た目の話だが)全員共通の顔見知りであるヤマガミがリーダーシップを取っている。遥か向こうに聳える大御山を見ながら、ヤマガミが話を切り出した。


「1番の課題は大御山の女神にどうやって接触するかだな」


 ヤマガミの発言を受けて、イケガミはカンザキから貰った紙の束をパラパラとめくり、

「大御山の麓にその女神を祀っている神社があるみたいですよ」


 と資料を読みながら言った。それを聞いてヤマガミは顔を綻ばせた。


「おお、丁度良いじゃん。そこまず行ってみようか。神主が話の通じるヤツだといいな」


 何だか当然のように話しているが、ムラカミは人間と会話したことはない。気になって思わずヤマガミに尋ねた。


「人間って、俺たちと話せるんですか」


 その問いに、ヤマガミはウンと頷いてムラカミに説明した。


「たまーにいるんだよな、そういう人間。まあ遺伝子上のバグみたいなものなんだけど。霊能者とか宗教関係の仕事してる人間はやっぱ見えるヤツ多いよ。もちろん全員じゃないけどな」


「へえー」


 新たな知識を得てムラカミは感心してそういった。ここまで腕を組んで聞き役に回っていたミカミが、端正な眉を若干顰めて疑問を投げかけた。


「でもその神社も山の女神のテリトリーでしょう。我々がいきなり行ったら女神に警戒されませんか?」


 ミカミに指摘され、ヤマガミは顎を擦りながら目を細めて虚空を見つめた。


「あー確かに…。怪しまれないように神主だけ呼び出せないかな」


「アタシが行って呼んできてやろうか」


 そう言ったのはイケガミの横にずっといる三毛猫だった。ムラカミは驚きのあまりのけ反った。


「ね、猫が喋った…!?」


 ムラカミの率直すぎる感想に、三毛猫はなんだこいつはとばかりに目を細めてムラカミを睨みつけた。


「なんだいその口の聞き方は。年上には敬語だろう。これだから最近の若者は」


 猫の年齢はムラカミにはよくわからなかったが、見た目の割に妙に年寄り臭い喋りだった。イケガミは笑って二人の間に割って入った。


「黙っててすみません。巴御前は齢300年の猫又なんです。人間に化けるのが得意なので情報収集のときよく協力してもらってるんです」


「そうだったんですか…。失礼しました」


 ムラカミは色々言いたいことを堪えて、なんとかそういった。巴御前はフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。ヤマガミはそんな険悪な空気などお構い無しで話を進めた。


「そしたら御前に人間に化けて呼び出してもらうか。誰に化ける?神主の知り合いが良いかな」


 そういって、ヤマガミは意見がほしそうに他の3人を見回した。イケガミは頬に手を当て、何か考えている様子だった。ミカミは腕を組んで目を閉じていた。己の思考に集中しているらしい。ムラカミはただ沈黙していた。


 先に口を開いたのはミカミだった。


「でもそういう人間に化けて、万が一ご本人に鉢合わせたりすると厄介ですよ」


「じゃあ他所からの客ってことでいいか。山だし登山客とかが良いな。何て言って呼び出す?」


「山の近くだと女神が話を聞いている可能性があるので、テリトリーの外まで出てきて貰う必要がありますね」


 イケガミが予定外の死者たちのリストを読みながら言った。どうやらイケガミは貰った資料には全て目を通して頭に入れたいタイプのようだ。


 ベテラン3人は作戦会議も慣れた様子で、様々なアイディアが飛び交った。ムラカミはただそれを聞いてることしか出来なかった。何か自分も、と思ったが碌なアイディアが浮かばなかったので黙っていることにした。沈黙は金だ。巴御前は話が決まったら教えてくれとばかりに欠伸をしていた。



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