第19話 作戦会議
森の出てすぐの所に、駐車場があった。ボロボロの立て看板に『大御山 駐車場』と書かれている。ヤマガミ達はその看板の下で集まって何か話し合っている様子だった。無事合流出来てホッとしつつ、ムラカミは小走りで3人に近寄った。
「お、ムラカミ。なんか遅かったな」
ムラカミに気づいて、ヤマガミがそう声をかけた。
「すみません。ちょっとボーッとしてました。皆さん何の話してるんですか」
「作戦会議をしようと思ってたんだけど、ここじゃちょっとまずいかもって話してたとこ」
「どうしてですか」
ムラカミの疑問に、ヤマガミが両手を広げて背後の木々を示した。
「ここは敵さんのテリトリーだからな。俺らは招かれざる客だし、話を聞かれたくない」
「なるほど」
ムラカミは納得して頷いた。イケガミが少し困った顔で全員を見渡しながら
「誰かこの辺土地勘ある人いませんか」
と、問いかけた。全員が困った顔で押し黙った。残念ながら、イケガミも含めてこの辺りに詳しい者はいないようだった。しばし沈黙が場を征したが、ミカミが何かを思い付き、こう提案した。
「そうだ、空から探しませんか」
そう言われ、ヤマガミが訝しげにミカミの方を見やり、
「空から?どうやって?」
と尋ねた。
ミカミは胸の内ポケットから鏡を取り出した。大きさは手の平くらいで丸い形をしており、裏に凝った紋様が施されていた。ミカミはそれを空に向かってチカチカと光を反射させた。
遥か遠くの雲にゴマ粒ほどの黒い点が現れた。その黒い点はどんどん大きくなり、猛スピードでこちらへ接近しているようだった。そばまで来たとき、そのゴマ粒の正体を知ってミカミを除く3人は驚きで目を見張った。ヤマガミは思わずこう言った。
「なんだこのバカでかいカラスは」
それは馬より大きな3本足の巨大なカラスだった。首と目の辺りに金色の模様が入っている。目は真っ青で、明らかに動物以上の知性を宿していた。ミカミは漆黒の羽根にそっと手を触れながら説明した。
「八咫烏です。これに乗って空からいい感じの場所を探しましょう」
説明を聞いてさらに驚いたヤマガミは前のめりになってカラスを見た。
「えっあの神話のカラス?本当にいたのか」
「私も実物は初めて見ました。神々しいですね」
物静かなイケガミも興奮した様子でカラスを見上げていた。ムラカミは何がなんだかわからず、ただ口をあんぐり開けて八咫烏を見つめた。イケガミの足元の三毛猫は興味がないのか、退屈そうに欠伸をしていた。
ミカミは慣れた様子で八咫烏の背に乗り、他の3人の腕を引っ張って背に乗る手助けをした。大人が4人(と猫一匹)乗ってもそこそこ余裕があった。
全員が乗り終わると、ミカミは八咫烏の首をポンポンと叩いて指示を出した。
「よし、飛んでくれ。ここから離れたところで、話せる場所を探したいんだ」
そう言われ、八咫烏は巨大な両翼を広げ、ゆっくりと羽ばたいた。その巨体からは信じられないような軽やかさで、八咫烏はぐんぐん上空へ登っていった。
「おーすごい。もうこんな高くまで来ちゃった。揺れないし快適だな。流石は神の使いだ」
ヤマガミが子供のようにはしゃぎながらいった。それを受けてミカミはちょっと自慢気だった。
「そうでしょう。でも高すぎて下が見えませんね。もうちょっと低く飛んでくれ」
ミカミに言われ、八咫烏は羽ばたきを止めた。そのまま滑らかに下降して、何百mか下がったところでまた羽ばたき出した。
「どこにします?」
ミカミに聞かれ、風の音に負けないよう大声でヤマガミが叫んだ。
「どこでもいいー!なんか公園とか広場みたいなところない?」
ミカミは八咫烏の首の横から顔を出して下を眺めた。
「うーん…あっ、あそこ良さそうだな。よし、あの大きい杉の木と池がある広場に降りてくれ」
八咫烏はひと声啼くと身体を微妙に傾けて緩やかに下降していった。風を斬る音が巨大な両翼から聞こえた。ムラカミは顔を強張らせながら飛ばされないよう八咫烏にしがみついた。それ以外の三人(と猫)は居間のソファにいるかのような平然とした様子で座っていた。
こんなにあり得ないことばかり起こっているのに、なんで皆こんな落ち着いてるんだ?ベテランになると驚くって感情がなくなるのか?!
ムラカミは心の中でそう叫んだ。まだ特に何もしていないのにも関わらず、精神的にヘトヘトだった。これから先これで大丈夫なのか、ムラカミは心の底から不安に思うのだった。
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