第14話 場違いな正論

 ワープしたところは昼下がりの公園だった。外は快晴で、暑くもなく寒くもなくちょうど良い気候だった。広場では子供たちが遊んでいる。遠くに子供達のはしゃぎ声を聞きながら、ムラカミは木陰でぐったりと横たわっていた。そんなムラカミを、ヤマガミは心配そうな、でも少し呆れたような表情で見下ろしていた。


「おおい、大丈夫かよぉムラカミくん。仕事行けそうですかあ」

 ヤマガミが声を掛けると、ムラカミはうめき声まじりにこう言った。


「どうして…。俺は何も間違ってないのに…」

 ムラカミの悲痛な言葉に、ヤマガミは同情を滲ませつつこう諭した。


「いやあ、俺もムラカミの意見が正しいと思うよ?でも正しいからって何言っても大丈夫な訳じゃない。俺たちはカルマを背負った罪人で、すごく弱い立場だってことを忘れるな。それで仕事は行けそうか?」

「すみません…。ちょっと無理そうです…」


 完全にグロッキーなムラカミを見て、ヤマガミも仕事に同行させるのは諦めた様子だった。ヤマガミはため息を付きながら頭をかき、


「しょうがねえな。じゃあ俺1人で行ってくるから、お前はそこで寝とけ」


 そういうと、ヤマガミは電信柱に止まっているカラスに手招きした。カラスはよく訓練された犬のようにさっと飛んでヤマガミの元へやってきた。ヤマガミはズボンのポケットから容器を取り出し、そこから何かを出してカラスに食べさせた。


「見張りを頼む。こいつが回復したら教えてくれ」


 そう言われ、カラスはてんてんと跳ねながらムラカミの側に行き、顔を覗き込んだ。


「なんですか、このカラス」


 間近で見るカラスの迫力に驚きながら、ムラカミは尋ねた。ヤマガミはホール・ジェネレーターをいじりながら手短に答えた。


「猫とカラスは死神と協力関係にある。うまく使えよ。なんかあったらそのカラスに言って俺に知らせろ。じゃあ行ってくる」


 そういうと、ヤマガミはワームホールを使ってどこかへ行ってしまった。具合が悪いのに1人取り残されたムラカミは心細くなったが、身体中が痛くて指一本動かせなかった。今はここで寝ているしかなさそうだった。ムラカミは目を閉じた。そして今までの出来事を思い出し、頭の中で反芻した。


 最初迷っていた煉瓦造りの迷路のようなトンネル、その先に広がっていた豊かな自然と三途の川、はめ殺しの窓のある部屋とカンザキ、不気味な花畑と極楽鳥の群れ、指導役のヤマガミの言動、そして召させてきた人々や動物たち─それらの記憶に、自分がなぜ死神などしなくてはならないのかという疑問の答えを探したが、その答えは見つからなかった。


 ムラカミが回復したのはそれから4時間後のことだった。辺りはまだ明るさはあるものの、太陽は西の方角に傾き、そろそろ日が暮れることを示していた。


 ムラカミは肘をついて身体を起こし、見張りのカラスを探した。辺りをキョロキョロすると、カラスは暇を持て余し、近くの草むらでボール遊びをしていた。ムラカミが「おーい」といって手招きすると、カラスは遊びを中断し、てんてんと跳ねながらムラカミの側にやってきた。


 カラスは何か用かと言いたげに首を傾げてムラカミを見た。ムラカミは戸惑いつつカラスに指示を出した。


「あの…見張り役ありがとう。ヤマガミさん呼んでもらえるかな?」


 そう言われ、カラスはカアと一声鳴いてどこかへ飛び去っていった。カラスがどうやってヤマガミの居場所を特定するのか気になったが、あいにくムラカミはカラスの言葉は分からなかった。


 ヤマガミさんが来たら、また死神の仕事をしなくちゃいけないのか。


 そう考えると、ムラカミの心は重かった。しかしあの電撃の激痛を思い出すと身体が震えた。あれを避けるためには仕事をするしかないと自分に言い聞かせ、無理に納得する他なかった。



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