第5話 初仕事
ワープしている時間は永遠にも思われたが、実は1秒にも満たない一瞬の出来事だった。
空に光の輪が広がり、ヤマガミがその中から現れ、地面に着地した。
ムラカミもワームホールを無事通り抜け、そして顔面を道路に強打した。
先に着いたヤマガミがムラカミをチラッと見ながら、こうアドバイスした。
「飛び込むとき、足からじゃないと頭打つぞ」
「先に言ってくださいよ」
痛む顔を押さえながらムラカミは怒りをあらわにしたが、ヤマガミはどこ吹く風といった態度でまた懐から紙の束を取り出し、捲り始めた。
「仕事の説明がまだだったな。死神の仕事は、簡単にいうと生き物を死なせて魂を回収することだ。どんな死に方をするかを決めるのは俺らじゃなくて上の奴等なんだけど、実際に手を下すのは死神なんだ。どうやって死なせるかの指示書が上から来るからその指示通りに死なせる。これが指示書だ」
ヤマガミが紙の束をムラカミに差し出した。ムラカミは顔をさすりながらそれを受け取った。
「その折り目がついてるところ見てくれ。それが次のターゲットだ」
ムラカミが折り目のついたページを捲ると、そこにはこう記されていた。
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❴202×/5/10 13:58❵
東京都台東区○○3丁目交差点
座標 x■■■■,y△△△△
死者名:小坂 東吾(31)男
小坂 優(5)女
死因: 居眠り運転による交通事故
企画者より:死者からみて右側から来たイエローの軽自動車に衝突され死亡の予定。同地区3-15番地のわかばスーパーに駐車している東京ナンバー56の車に同乗してください。
以上
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「えっと…どういうことですか」
ムラカミが怪訝な表情でヤマガミに尋ねた。ヤマガミは初心者のムラカミにもわかりやすいように解説してみせた。
「今日の13:58に小坂東吾と小坂優─多分親子だな。こいつらをこの交差点で指定された車を使って轢き殺せってこと」
「えっどうしてですか」
人を殺せと言われ驚くムラカミに、ヤマガミは当たり前だろうと言いたげにこう答えた。
「どうしてって、そう上が決めたからだよ。生きとし生けるものいつかは死ななきゃならん。じゃないと地球が生き物で溢れかえって足の踏み場もなくなっちまうだろう」
「それはそうだけど…。だってこの優って子まだ5歳ですよ!?」
冗談じゃない、人殺しなんて。しかも子供もなんてあり得ない。
ムラカミはヤマガミの良心に訴えたつもりだったが、ヤマガミは腕時計を見ながらしれっとした態度でこう言った。
「それがどうした?ほら、もう13:40だ。時間厳守だからな。早くわかばスーパーに行くぞ」
絶句するムラカミを気にも留めず、ヤマガミはポケットから携帯用の地図帳を取り出し、それを見ながら歩きだした。地図帳はずいぶん使い込んでいるらしく、表紙や角の部分が擦り切れていた。
この人は一体どれぐらい長い間こんな仕事をしているのだろうと思いながら、ムラカミは後に従った。
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