第4話 ワームホール
大量の紙の束を捲りながら、ヤマガミはぶつぶつ呟いた。
「次は台東区か…。ここからちょっと距離があるな」
ヤマガミは後ろを振り返り、ムラカミに指示を出した。
「おいムラカミ。鞄の中に赤いボタンのついた機械あるだろう。それ出して」
そういわれ、ムラカミは鞄を探った。それらしきものがあったので取り出し、ヤマガミに確認した。
「これですか」
「そうそれ。それめっちゃ仕事で使うから使い方覚えとけよ」
「なんですか、これ」
ムラカミは手に持った機械をしげしげと眺めた。大きさは手のひらに乗るくらいで、四角い形をしており、無機質なステンレスのような素材で出来ている。上部に数字が表示される枠が2つあり、その横に赤いボタン。下部には数字が刻まれたつまみがある。見ただけでは何に使うのかさっぱりわからなかった。
「ホール・ジェネレーターだ。遠距離を移動するときに使う。ワームホールを発生させて目的地まで一瞬でワープできるんだ。便利だろう?」
「ワームホール…?」
いまいちピンときてないムラカミを見て、ヤマガミはため息をついた。
「ワームホール知らない?本とか読まなさそうだもんなお前。まあいい。側面にスイッチあるからオンにして」
馬鹿にされてムッとしながらも、ムラカミは側面の「ON/OFF」と書かれたボタンを押した。ピピっと音がして数字の横の緑のボタンが点滅した。
「その数字は緯度と経度を表してる。上の枠が現在地で下が目的地だ。現在地は自動で入力されるから下のつまみで目的地の緯度と経度を選択しろ」
ヤマガミが紙の束をムラカミに差し出し、目的地の緯度と経度が書かれている部分を指し示した。ムラカミは慣れない手つきでつまみを調節した。表示された数字を確認し、ヤマガミは肯定的に頷いた。
「よし。そしたら次に赤いボタンを押す。そうするとワームホールが出来る。ワームホールは不安定ですぐ消えるから、ワームホールが出来たら即飛び込め。絶対荷物から手を離すなよ。いいな?」
「ワームホールってなんなんですか」
まだ納得していないムラカミに、ヤマガミは丁寧に説明をした。
「ある離れた2点を結ぶ時空の穴だ。この穴を使えば光より早く離れた場所へ移動できる。この機械は出発地にブラックホール、目的地にホワイトホールを発生させて人為的にワームホールを作り出すことができる。俺たち死神の重要な交通手段の一つだ」
「なんか怖いですね」
緊張するムラカミに、ヤマガミは耳をほじりながら答えた。
「怖いことはねえよ。失敗しても死んだりはしないし。やり直すのが面倒ってだけ」
「そうですか。じゃあ…ボタン押しますよ」
「よし、やれ」
ムラカミが赤いボタンを押した。するとピピピピッという音と共に地面に白い十字が現れ、ボンッ!という爆発音の後、真っ黒な穴が開いた。
「飛び込め!!」
そう叫ぶとヤマガミはジャンプして穴に飛び込んだ。ムラカミも慌ててその後を追った。2人が飛び込んだ直後、真っ黒な穴はすぐに消え、元の固いアスファルトに戻った。
「うわああああああおおお!」
ムラカミは叫んでいた。身体がちぎれるのではないかというほど物凄い引力でどこかへ引き寄せられるのを感じた。掃除機に吸われたほこりはこんな感じかもしれないとムラカミは思った。鞄とホール・ジェネレーターを必死で握りしめながら、ムラカミは光より速く時空を旅することとなった。
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