第21話

「いえいえ。それに関しても、こちらがお礼を言わなくちゃいけないんですから。気にしないで下さい。人的被害を考えずに戦えば白鹿君一人で余裕だったはずです。しかし、白鹿君はそうしなかった。だからこそ多くの人を救うことができたんです」


「そうですね。多くの人を救うことが出来たのは本当に良かったです」


これに関しては嘘偽りない本心だ。

助ける為に戦ったんだから一人でも多く助かった方が良いのは当然だ。


「そう言えば、三國さんって到達者じゃないですよね」


「ええ。到達者どころか覚醒者でもないです」


「なのに、あの威力ですか…」


スナイパーライフルで頭ぶち抜かれたら、

ああなるのは当然じゃね?

と思うかもしれないが、相手はイレギュラーだからな。


ミスリルのゴーレム程固くはないだろうが。

普通のスナイパーライフルじゃ当たった場所に痣が出来る程度のダメージしか通らないレベルには防御力があった筈だ。


コウモリ時計に関しては能力がチートだったからバランス調整で紙防御だったけど。


今回のイレギュラーは対策できてなきゃ厄介ではあるがコウモリ時計程チートな能力を持っていたわけじゃ無いし。そういった極端な調整はされてない筈だ。


なのに、三國さんのスナイパーライフルから発射された弾丸はイレギュラーの頭部を貫通していた。

なんなら魔弾も消滅させていたな。


本人が何かスキル等を使用して弾丸の威力を上げたわけでも無いとなると銃本体か弾丸が特別製って事か。


「私が使ったスナイパーライフルと弾丸はダンジョンで手に入る素材で作られた特別製なんです。バリバリの国家機密だからこれ以上は詳しく話せませんが」


デスパレードが発生した時に覚醒者じゃない軍人も戦えるように作られてる武器か。


ちょっと気になるけど、国家機密なら仕方ない。聞くのは諦めよう。


手に入るのなら。母さんと妹の護身用としていいと思ったんだけどな……


まぁ、そんな凶悪な武器が一般にも流通してる方が怖いか。


「ところで突然ですが白鹿君。軍に入るつもりは有りませんか?」


「申し訳ありませんが。俺が軍でやっていけるイメージがわかないので……」


軍のきっちりとした規律を守るとか俺には絶対無理。

完全に自由と言うわけではないが軍よりは自由な探索者でいたい。


「そうですか。一応連絡先を渡しておくから。気が変わったらいつでも連絡して下さい」


軍に入るつもりはないけど。そこそこの地位にいるであろう軍人の電話番号は目茶苦茶欲しいので有り難く受け取る。


受け取るだけじゃなくてこちらからも電話番号を渡しておいた。


「それじゃ、俺はそろそろ帰りますね」


救助作業もほぼ終わってもう俺が此処にいる必要無いからな。8


「今日は本当に助かりました、有り難う。

それと最後に一つだけ。人間というものは良かった事より嫌だった事のほうが記憶に残ってしまう事がある。白鹿君は助けた人から罵声を浴びせられた事しか記憶に残ってないかも知れないけど。それ以上に君に感謝してくれてた人の方が多かった。それだけ伝えておくよ」


最初に助けた人から罵声を浴びせられてから

これ、まともに聞いてたら俺の心が持たないと思って全て聞き流していたけど……


そっか……俺に感謝してくれてる人もいたのか……


結果的に感謝の言葉を無視しちゃったわけか。

凄い申し訳無いことをしてしまった……


「すいません三國さん。もうちょっとこのテントに居ても良いですか」


泣くつもりなんてなかったんだけどな………


自然と涙が溢れてきて止まらなくなってしまった。


「当然です」


それだけ言って三國さんは静かにテントを出ていった。



「恥ずかしいところを見せてしまった」


テントの外にも聞こえてたろうしな……目茶苦茶恥ずかしい。


いつの間にか用意してあった、水桶とタオルで顔を拭く。


「まぁでも少しスッキリした」


泣いたおかげか気分が少しスッキリした。


「家に帰ろう。お腹すいたし」


そう言えば、空港で別れたっきり鬼童さんと連絡を取っていない。


まぁ、鬼童さんなら軍か探索者協会経由で今回の件の報告を受けてるだろうけど。

だからと言って俺から報告しないのもなんか違う気がする。


鬼童さんに連絡を取って軽く話をする。

また今度会う約束をして電話を切ろうとした瞬間。

あることに気がつく。


「俺、どうやって帰ろう……」


ここまでスキルで飛んで来ちゃったからな。

今回は緊急事態だったから許されているけど。

帰りも飛んで帰るとなると話が変わってくる。

バレなきゃ犯罪じゃないとは言うがバレた時のリスクが高すぎる。


パッと思いつくのは新幹線なんだけど……

今、新幹線止まってんだよな~


恵太達が乗っていた在来線の近くに新幹線の線路が通っているせいで、線路や電線が目茶苦茶になってしまったのだ。


「今から車で迎えに行って上げても良いけど。

高速使ってノンストップで6時間……

流石にそれは無理だから8時間ぐらいかかるかしら」


「いや。流石にそこまでしてもらうのは申し訳無いのでなんとかして自力で帰りますよ」


パッと思いつくのが新幹線なだけで、調べれば2〜3通りぐらい直ぐに出てくるだろ。


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読んでいただき有り難うございます。

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