忍び寄る危険(6)


 降り続く雨が、次第に強さを増していく。

 竹やぶに覆われたそこは、外の明かりを追い出すように暗くなっている。そこに被害者の遺体いたいがあるかもしれないと思うと、余計に暗く見えてきた。


「ここか……」

「はい。……行きましょう」


 紡生は先を行く。歩くたび、落ちた枝葉が湿った音を上げ、靴を汚していった。

 そして目的の場所、竹やぶの開けた先、物置きの前に出る。雨に打たれ、軋んだ音をたてる物置きは、以前より確実に崩れていた。


「前に来たとき、ミケさんは『ここには害のあるやつはいない』と言っていました。それって、怨霊おんりょうはここにはいないってことですよね」

「そうだね。怨霊は人にく。恨みの元がまだ生きているのなら、そっちに憑いているんだろう。だから、ここに遺体があっても、ミケ君からしたら。危険はないってことになる」

「……そうですか。じゃあやっぱり、調べてみるしかないですね」


 紡生は物置を一瞥いちべつすると、記憶を思い起こすように視線を彷徨さまよわせる。


「確か……。ここだ」


 物置からから見て左側。その先にあるガラクタの山。その、すぐ下。そこに、首輪は落ちていた。植物の中に、紛れる様に。

 あるとすれば、その周辺だろう。ガラクタの山を一周してみる。


「おかしいねぇ」


 ふいに神余かなまるがつぶやいた。


 彼はガラクタの山の少し左の地面を、じっと見つめていた。

 そこには竹の落ち葉が散乱している。近くに竹やぶがあるから、落ち葉があることはおかしくないと思う。けれど神余の視線は鋭くなっていくばかりだ。


「何がおかしいんですか?」

「うん。こっちの方は、比較的空も見えるし、普段は日光が入ってきているんだろう」


 上を見れば、確かに。ぶ厚い雲が広がっているのが見える。

 となれば、晴れの日は日光が差し込んでいるだろう。前に訪れたときも、陽光が差し込んでいたはずだ。


「それがどうかしたんですか?」

「他の神社にあるから知っているんだけど、竹ってね、成長速度が早いんだよね。それにすごく長いでしょ? だから成長すると、日光を遮るようになる。日光を遮られたら、他の植物は生きていけないよね。それなのに、ココはまだ他の植物が生い茂っている。それなのに、なぜ、ここにこんなに竹の葉が落ちているんだろう?」

「……言われてみれば」


 よく見れば、竹の葉が落ちているのは、物置のあるエリアだと、このガラクタの下だけである。

 まるで何かを隠すために、すぐ近くにあった草をたくさん散りばめたかのような……。


「……まさか」

「埋めた。って考えられるよね。ちょっと、葉っぱをどかしてみよう」


 二人掛かりで散っていた葉をどかしていく。すると、一か所だけ、掘り起こされた跡が見て取れた。

 ふいに、噂を思いだす。


『打ち捨てられた死体が埋まっている』

『夜中に不気味な音が聞こえる』


 そして、偶然ここを通った友人は、何と言っていたか。『何かを、掘るような音』。そう言っていなかったか。

 ハチを見つけたときはいつだったか。今から一月ほど前ではなかっただろうか。


 紡生の中で、バラバラだったピースが重なり合った。


 膝をつけ、地面を掘る。手が、服が、汚れるのも気にしない。

 掘りだすとすぐに、かさりと音がした。異臭が立ち込め、思わず鼻を覆い、後ずさる。


「……――神余さん」


 そこには、何重にも重ねたゴミ袋が埋まっていた。


「警察に、連絡をお願いします」


 そしてその中に――猫の死体が、見て取れた。


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