悪路王、剛咆一閃するの事
「なんと、一度は一騎打ちでの勝負に応じると言ったのに、卑怯ですう」
「怯むな!かく相成っては致し方なし、決して陣を後ろへ下げるな、下がれば両翼からの包囲を受けてジリ貧となる!我らの生きる道は前進あるのみ、死中に活を見出すにはそれしかない、決して遅れをとるなよ!!」
頼信の檄に兵士たちも歓声で答える。しかし自軍に倍する敵に加え、得体の知れない巨人を相手に戦わねばならぬという現状に兵士たちの意気も中々上がらなかった。
「臆するな!あのデカブツはお前たちに危害は加えん、お前たちは目の前にいる敵軍だけに集中しろ!」
動きの鈍い友軍を叱咤するように「
「今度は
そう叫びながら「八幡神」は神弓「
敵が怯んだ一瞬の隙をついて少数である常陸軍の方が先に戦端を開いた。分厚い中央の陣へ向かってねじ込むように味方の歩兵が長槍でもって突き進んで行く。一対一ではなく、兵士全員で腕を組み、肩を密着させながら一つの巨大な塊となってジリジリと押し合いに持ち込む。
一方の
「だからお前は術を使うなーっ!!」
遠くで「八幡神」が怒号を挙げている。そんな言葉も耳に入らず、陰陽師はひたすらに呪符を撒き、印呪を組んで術を行使した。
「おのれ、この私の華麗なる術式をもってしても足止めが叶わぬとは、なんという奴……!」
大真面目にそう言う影道仙だが、いくら魔術秘術を駆使しても一向に悪路王の歩みを止めることはできない。そもそも一つも当たっていないのだから当然といえば当然ではあるのだが。
「ふぎゃっ!」
悪路王ばかりに目が行き過ぎて足元がおろそかになった影道仙が間抜けな声を出して盛大にすっ転んだ。その拍子に装着していた「眼鏡」を落としてしまったらしく、彼女は慌ててそれを探して地面をまさぐる。その頭上に悪路王の足が今まさに彼女を踏み潰さんと降りおろされた。
「!!」
影道仙が思わず目をつぶる。次に目を開けた時、彼女はすでにこの世ではなく、一面に花の咲く冥界へとその意識を移していた。
(ああ、死んだ。私死んだわー)
薄ぼんやりとそう思って再び目を閉じた彼女はどこからともなく現れた何者かに抱え込まれて、ふわりとその身が持ち上がった。
後ろで衝撃音と地響きが轟く。どうやら間一髪命拾いをしたようで、先ほど見たあの世の光景は見る事になるのはまだ先ですみそうだった。
「なにボケッとしてやがんだテメエは、危ねえからさっさと逃げろ!」
影道仙を抱きかかえた坂田金平が吠える。金平は彼女を荷物のように雑に放り投げると、急旋回して剣鉾を巨人の脛に向かって叩きつけた。
「くそ、やっぱりダメかよ!!」
岩をも砕く金平の一撃だが、やはり悪路王には通じずその刀身は悪路王の身体を形成する溶岩に飲み込まれるだけだった。
「悪路王、テメエの目的はなんだ!?なんで
金平が声を張り上げて悪路王に向かって叫ぶ。すると巨人はまるで今の金平の言葉に反応したかのように突然立ち止まり、動きを止めた。
「Ni……Nii……Rah……」
悪路王が何かを言おうとしているように音を漏らす。またあの単眼がクルクルと動き、一点に向けて焦点を合わせた。
「どこを見てる……の?まさか……山頂!?」
影道仙が悪路王の「視線」の先を見て焦りの声を上げる。悪路王の単眼の先には筑波山の山頂、ちょうどあの隠し洞窟のある……彼女の眠っている……筑波山の頂があった。
ゆっくりと悪路王が両腕を地面に着地させる。両手足でしっかりと身体を支えた巨人から何やら不気味な駆動音が聞こえてくる。よく見ると巨人の胴の中央から白い光の塊がゆっくりと頭頂に向けて動いているように見えた。
「何アレ……・?まさか、まさかそんな!?」
光は悪路王の胸を通り過ぎ、喉を通り過ぎ、口元にまで近づいていく。
「いけない!止めなきゃ、金ちゃん、なんとかしてアレを止めなきゃ!!」
影道が金平の袖を掴んですがりついた。
「落ち着け、なんだよ、何が起こるってえんだ!?」
「わからない!わからないけど……アレはどう見たってヤバい!!金ちゃん、止めないと、あそこには、あそこには……
「なにぃ!?」
金平が
「!!??」
光は一直線に筑波山の山頂へ到達し、一瞬のうちにその山頂を業火と白光で包み込んでいった。
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