影道仙女、変若水(おちみず)を語るの事(その三)
「
「この時代風に言えば『
遠い昔、まだ神と人とが隔たる事なく共にあった時代、神々のさらに上位に位置する
千年という時間をかけてようやく不死の薬を完成させた神々は無事賢者の怒りと呪いを解き、以降不死の霊薬である「
「おい」
「はい?」
「今の話のどこがツクヨミと『
「えー。まだお話の半分も行ってませんよう」
「まだあんのか続きが!?なげーよ話!!」
「そうは言ってもなんせ相手はあのインドですからねえ。『
影道の言葉に金平はウンザリした。こうしている間にも
「まあ、無事に『
このように、古くから不老不死の仙薬は月と深い関係を持って世界各地に伝えられるようになったのです。これはまあ、月の満ち欠けが『死と再生』の象徴として信仰されてきた事の名残とも言えまして、我が国でも『たけ……」
そこまで長広舌を続けていた影道仙が急に
「え……?まさか、そういう事?月……不死……富士?
影道仙がものすごい勢いでグルグルと回りながら考え事をし始めた。こうなると取りつく島もない。
「つながりました!!」
目が回りそうな勢いで周囲を旋回していた影道がピタリと歩みを止めると、金平に向かって大声で叫んだ。
「金ちゃん、急ぎ筑波山へ向かいましょう、あそこの頂上に行けばこの子を助けることができる!!」
影道仙が断言した。
「かもしんない!!」
断言と言うほどでもなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
金平は影道仙を引っ張って石岡から一路筑波山へ向かって馬を駆った。馬に乗り慣れない影道仙を引き連れるのももどかしかった金平は頼義を乗せる時の要領で鞍上に乗せ、その後ろに自分も乗って彼女を抱きかかえるようにして手綱を取った。
「はわ、はにゃわわわ……」
いかに無遠慮で男女の距離感の無い影道でも、
そんな彼女を意にも介さず、金平は全速力で鞭を振るった。背中で眠る
その日のうちに
「おい、確かなんだろうな、ここに来れば
金平が血走った眼で影道仙を睨みつける。
「そんなに睨まないでくださいよう、絶対に大丈夫とは保証できませんが、少なくとも今の姿を維持することぐらいならできるはずです。多分」
「本当か!?」
「だから可能性の問題ですってばあ。お世辞にも高くはありませんが」
「だが全くないってわけじゃあねえんだろ?ならそれで十分だ」
金平は山頂へ至る道を探そうと必死になって周囲を掻き分けた。再び山道を開こうとあれこれ手を尽くしたが、あの時開いたけもの道は二度と姿を現さなかった。影道仙もあらゆる手を尽くしてなんとかこの結界を解こうと試すが、深い樹々に覆われた緑の迷宮は一向に金平たちに道を示すことはなかった。
「くそ、くそクソクソおっ!!」
がむしゃらになって金平は素手で行く手を塞ぐ灌木を引きちぎり、むしり取る。
「くそっ……くそおおおおお!!!開け、開け、開けよおっ!!
「金ちゃん落ち着いて、手が、手が……」
その手が血まみれになるまで樹々を取り払い尽くす。それでも金平は一向に奥へ進むことは叶わなかった。
「金ちゃん、これ以上はどうしようもないです、いったん国府に戻って頼義サマに指示を仰ぎましょう……」
「〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
「金ちゃん!!」
「くっそおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
絶望に苛まれた金平の悲痛な叫び声が、筑波の男体山の空に響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます