第13話 湖の街エイムレイク


 オオーギルから乗り合い馬車に揺られる事12時間程、途中に何度か休憩を挟みようやく目的地のエイムレイクが見えてきた。


「わぁ! 見て! 大きな湖ですね! 大き過ぎてまるで海かと思ってしまいます!」


「そうですね。 俺もこんなに大きな湖は初めて見ました」


 ルーも私と一緒に馬車から身を乗り出して陽光を反射してキラキラと光る湖面を眺めている。


「嬢ちゃん達、妙な格好してるけどお貴族様じゃあないのかい?」


 途中から乗り合い馬車に乗ってきた中年の男性に声をかけられる。


「あはは、これは彼の格好は趣味なんですよ。私達はただの冒険者ですよ」


 そう言って私は首から下げていた金属製の冒険者タグを見せる。

 あんまり可愛くないデザインだから普段は服の中に隠しているのだ。


「そうなのかい、そんな格好してるてっきりお貴族様かと思ってよ。 それにしちゃあこんな乗り合い馬車なんて乗ってるからおかしいなってよ」


「うふふふふ。 本当に、もうスーツなんてやめて普通の格好にしたらって私も言ってるんですけどね」


「お嬢様、何度も言いますがこれが俺の正装です。 たとえ冒険者になろうとお館様からお嬢様のお世話を頼まれていますので」


 そう、そんな動きづらそうな服装はやめて普通の格好をしたらと今までも何度も言っているのだが、ルーはこの通りアガレス様から頼まれたからと譲らないのだ。

 アガレス様もずっとスーツで居ろなんて言ってないと思うのだけれど。


「ほら……ね。 この大きな荷物の中も大半はスーツの予備なんですよ。 正直言ってどうかと思いますわ」


「わははははっ! まぁ兄ちゃんには兄ちゃんの矜持ってもんがあるんだろうなぁ」


 私が肩を竦ませて愚痴を溢すとおじさんは大きく笑ってくれた。


「汚れなどはお嬢様の『浄化ピュリフィケーション』で綺麗に出来ても破れたりしたら直せないですからね。 予備は大事です」


「おお!? なんだい、お嬢ちゃんは神官さんなのか? 良かったら俺にも『浄化』をかけてくれねぇか?」


「お安い御用ですよ。 【浄化】」


 私が『浄化』を使うとおじさんの身なりが心なしか綺麗になった気がする。

 そんな目に見えて汚かった訳じゃないのでなんとなくだ。


「おお! スッキリしたなぁ! これはほんの気持ちだよ」


 そう言っておじさんが金貨を1枚渡してくる。


「まぁ、こんなに頂けないわ」


「なぁに、俺たち商人の間じゃあ旅の神官に魔法をかけてもらうのは幸運の験担げんかつぎなんだよ。 本当は『幸運ラック』が1番なんだがお嬢ちゃんの歳じゃあまだ難しいだろう?」


 まだ難しいと言うか神聖系魔法のなかでも特殊信仰系魔法で特定の神を信仰してなければ使えない。

 たしか『幸運』は幸運の神、フォル・チャザを信仰している神官が使える魔法だ。


「すいません、私の主はフォル・チャザ様とは違うのです」


「わははは、気にしないでくれ。 『浄化』ありがとうよ! お嬢ちゃん達の旅に幸運がある事を祈ってるよ」


 ちょうど乗り合い馬車がエイムレイクの停留所に着いたのでおじさんと手を振って別れた。

 結構一般の人は信仰する神によって使える魔法が違う事を知らなかったりする。 神官なら皆同じ魔法が使えると思っていたりする。


「さて、ルー。 お腹が空いたと思わない? やっぱり湖があるからお魚が美味しいのかしら?」


「着いて早々に食べる事ですか。 っと、まぁ確かにお腹が空きましたね。 良さそうな食事処を探しましょう」




☆★☆★☆★☆★☆★


 食事処を探すにも先ずは情報を集めた方がいいと冒険者ギルドに行ってみると、エイムレイクの冒険者ギルドも大きく賑わっていて、酒場も併設されていた為、そこで少し遅めの昼食を頂くことにした。


「結構賑わっているわね、霊園があるからアンデット系の魔物が多いのかしら? 神官も何人かいるわね」


 2人でこの酒場の名物であるらしい、ギルフィッシュを使った定食を食べていると、隣の席に座っている老人のテーブルに数人の冒険者達がやってきた。


「こんにちは〜、私達この依頼を請けようと思っているのだけれど、アナタが依頼人で間違いないかしら?」


 女性にしては大柄な背丈の独特な衣装を纏った女性が話しかける。


「珍しいですね。 あの服装はずっと東にある島国の服ですね。 着物とか言ったはず」


 珍しいものを見たとルーがその独特な衣装について教えてくれる。

 東の方にそういった国があるのは聞いていたけれど見るのは初めてだ。


「そうだ。 お前さん達ランクは何だ? 見たところ神官が居ない様だが?」


「あぁ、たしかに依頼書には神官が居た方が良いって書いてあったけど必須じゃないだろ? 俺たちはランク6の『鳳翼ほうよく』だ。 言っとくがエイムレイクじゃあ上位のパーティだぜ」


 老人がぶっきらぼうに問うと、冒険者達のリーダーらしき暗青髪の男が強気に答える。


「ふむ…… アンデットが多数出る事が予想されるが大丈夫か?」


「ああ、問題ない。 詳細はアンタに直接聞けってなっていたが依頼内容を教えてくれるか?」


「ふむ、いいだろう。 最近水上霊園でのアンデットの発生件数が増えているのは知っているか? 儂はその原因を調査している中央教会の者だが漸くその原因を特定できたのだ」


「へぇ〜、俺も聞いた事あるよ。 最近アンデットが出まくって教会の神官達は大忙しだってさ」

 背の小さな金髪の少年が明るい声で話す。

 隣の同じく金髪の少女はとても似ているけれど双子だろうか。


「この街の湖には水上霊園の更に奥に英雄を祀った島があるのを知っているかね? どうやらあの場所が何者かによって呪いをかけられた様なのじゃ。 一度調査に赴いたのじゃが大量のアンデット系の魔物により行く手を阻まれての。 なので腕の立つ冒険者にこの水晶を英雄の墓に供えてきてもらいたいのじゃ」


 そう言って老人は懐から直径20センチほどの紫色の水晶を取り出す。


「へぇ、これは?」


「呪いを中和するマジックアイテムじゃ。 これを英雄の墓に供えておけば徐々に呪いは消えていく事だろう」


「なるほどね。 それじゃあその島まで行って死霊どもを叩っ斬って英雄の墓にその玉を置いてくれば良いわけね。 簡単だわ!」


 着物を着た女性は豪胆な性格らしく話を纏めるとそんな依頼は簡単だと締めくくる。

 そんな女性の腰には珍しい細くて反りのついた武器が鞘に納められている。

 東の国の武器で刀と言う武器があると聞いた事があるがきっとこれの事なのだろう。


「では、お前たちにこれを託そう。 高価な品物だが決して売ったりするなよ! 壊したりもするな! この街の命運はお前たちにかかっているのだぞ!」


 老人は鋭い眼光でギロリと冒険者の面々を睨むと必ず墓に水晶を置いてこいと念を押す。


「はいはい、俺たちを信じてま……」


「はーい! その依頼、私も混ぜていただけませんか!」


 その依頼に興味の湧いた私は冒険者のリーダーらしき男性の言葉を遮る形で話に割って入ってしまう。


 うー、ちょっとタイミングが悪かったかな?


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