第12話 ゴブリン退治 3


 ガンッ! ガンッ! ガンッ!


 巨大ゴブリンの棍棒がただの鉄の板と成り果てたフトロスの盾を打ちつける。

 しかし、戦闘開始頃と比べると格段に威力の落ちた攻撃だった。

 それもそうだろう、私の目から見ても巨大ゴブリンは満身創痍で多数の傷にいたるところに凍傷も見える。

 途中から獲物をショートソードからエストックに切り替えたハルトールの刺突が小さいながらも深い傷を作っている。

 

 巨大ゴブリンとしては魔術師であるピーニャやチクチクといやらしい攻撃をしてくるハルトールを先に攻撃したいだろうが、凍傷が広がった脚ではもはや素早く動く事は出来ずただがむしゃらに目の前の鉄の塊を叩くしかないようだ。


「ハァハァハァ…… 準備できたよ! フトっち、どいてぇぇ! 【徹甲氷結弾アーマーピアシングフリージングバレット】!!」


 先程から詠唱に集中していたピーニャの魔法が完成したようだ。

 【魔法最大化マキシマイズマジック】をかけた【徹甲氷結弾アーマーピアシングフリージングバレット】はピーニャが良く使っている【氷霜槍アイススピア】に比べ大きく尖った氷塊に見える。

 その重さと射出されたスピードで対象の装甲を貫く殺傷力の高い魔法だ。


 氷属性魔術、位階レベル5 に位置する魔法だ。

 魔術師は位階4以上の魔法を使えれば上級の域になるみたい。

 ピーニャみたいにこの若さで位階5の魔法を使えるのは一部の本当に才能のある人のみ。

 

 火属性魔術と氷属性魔術の相反する属性を使える時点で思っていたけどピーニャって凄い才能かも知れない。


 ピーニャの正面から勢いよく射出された徹甲氷結弾は巨大ゴブリンの胸を易々と貫いて大きな風穴をあける。


 そのままガックリと膝をついた巨大ゴブリンの首をハルトールがショートソード切り落としにかかる。


「かっー! 硬ってーなコイツは!!」


 渾身の力を込めて振り下ろした刃もゴブリンの首を半ばまでで止まってしまった。


「おっ? フトロスやるのか?」


 ハルトールが首からショートソードを引き抜くと、フトロスがゆっくりとゴブリンに近づいて行く。

 ゴブリンの桁外れな膂力による攻撃をずっと耐え忍んでいたフトロスには相当なストレスがあったのか右手に持つ大きなメイスで首に半分まで切れ目の入ったゴブリンの頭を叩き始める。


「うがぁぁあ!!」


 あれ? 聖戦ジハードの効果で高揚が付与されてるせいか興奮度がマックスで目がイッちゃってる……

 戻ってこれるかな……


「やったの? あの化け物みたいなゴブリンを私達が倒せたの……? あはははははははは! ふひひひひ!」


「うおおおおぉ!! やったぜ! やっふぅーー! ざまぁみやがれクソゴブリンが!」


「うがぁぁぁああ! ウガウガぁ!」


 あら?……フォックスネイルの3人がちょっと情緒不安定になっているけれど私のせいじゃないよね?



「お嬢様」


 私がフォックスネイルの心配をしているとルーから声をかけられた。


「あら? あの魔術師は?」


「申し訳ありません。 逃げられました」


「え? ルー、あなたが失敗するなんて珍しいわね?」


「それが…… 何度も攻撃魔法の封じられたマジックアイテムを使ってくるので、全て使い切らせて心を折ろうかと思っていたら、最後に使ったのが転移のマジックアイテムだったのです」


 あぁ……目に浮かぶようだわ。 この人はきっとニヤニヤといやらしい顔をしながら、あの老魔術師の詠唱を阻止して、マジックアイテムの魔法を発動すればそれをいとも容易く対処してみせる……

 

 私も昔やられたなぁ、ボロボロになっている私に涼しい顔をして『他に出来る事は?』って聞いてくる。 あの顔は今思い出しても……


「ふう、まぁいいでしょう。 本当はあの老魔術師で第2ラウンドをしようと思ってたんですが。 何か言っていましたか? 名前とか」


「いえ、捨て台詞に「お前たち覚えておけ!」と言ってましたが」


「まぁ。 お手本のような捨て台詞ですね……」


 その後、私達は残っていたゴブリン達を掃討してオオーギルの街への帰路へつく。





☆★☆★☆★☆★☆★



「しかしよぉ、お嬢ちゃんもルーもやるなぁ! あんな回復魔法初めてだぜ! ルーのナイフ捌きも凄かったし、道中のお茶のスキルも考えようによっちゃあ有用だしな! いっそこのままウチにはいらねぇか?」


「うふふ、お申し出は嬉しいですがフォックスネイルには既に治癒師がいらっしゃるのでは?」


 私達はオオーギルに着いて依頼の報告をした後、酒場にて打ち上げを行っていた。

 

「あぁ…… アイツなぁ。 アイツも腕はいいんだかなぁ、いかんせん硬いというか…… それに教会からの依頼を優先するから今回みたいに抜ける時もあるしな」


「コラ! ネルくんの悪口言わない! まぁ私もマリーちゃんかわいいしぃ、ルーちゃんの紅茶美味しかったし賛成だけどねぇ、7人パーティになっちゃうけどまぁいいんじゃない?」


「取り分が減るんだよなぁ……」


「うふふ、誘ってもらって嬉しいのですが私達は旅をしている途中なんです。 なのでそろそろ次の街に行こうと思っていまして」


「なぁんだぁ…… 残念ー!」


「そうか、まぁ臨時パーティだったからな、しゃーないか」


「次はどこに行くんだ? うが」


 フトロスがまだ少しゴリラが残りつつも訊いてくる。


「そうですね、次はエイムレイクですね。 大きな湖と世界にも類を見ない水上霊園があると聞いています」


「あぁ、エイムレイクか。 確かにあそこの水上霊園は一度は行ったほうがいいな!」


「よーし、じゃあ今日はマリーちゃん達とのお別れも兼ねてパーっとやろうかぁー!! ウェイトレスさぁーん! どんどんエール持ってきてぇ!」


「おい! ピーニャ! お前はいつもパーっとやってるじゃねーか! 今日の死にものぐるいで手にした報酬全部使う気かっ!!」


 うふふ。 たまには皆さんでこうやって騒ぐのもいいものですね。



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