第11話 ゴブリン退治 2


「フトロス!! てめぇ!」


 巨大なゴブリンの一撃で潰されたフトロスを見てハルトールが激昂して斬り掛かる。

 けれど分厚い筋肉に阻まれてハルトールのショートソードは巨大ゴブリンの背中から脇腹にかけて浅い切り傷をつけただけだ。


 単純に力が足りて無い。 身長はハルトールの倍ぐらい、体重に至っては3倍近いんじゃないかと思える巨体だ、生半可な力じゃ碌にダメージも与えられない。


「ち、ちくしょー!! よくもフトロスをっ!!」


 あまり効果が無いにも関わらずめちゃくちゃにショートソードを振り回している。

 あら? もしかしてフトロスさん死んでる? いやいや、なんか盾と地面に挟まれてピクピクしているけどまだ息はあるはず。 無いと困る。 誰も死なせないつもりが一撃で即死されては回復のしようもない。


癒しの聖光セイントヒール


 巨大ゴブリンは力はあるけど動きは機敏では無い様で素早いハルトールをなかなか捉える事が出来ないでいる。

 その間にピーニャが呪文の詠唱を始めている。 ピーニャの火力が巨大ゴブリンの防御を上回っていれば勝てるかも知れない……


 敵が巨大ゴブリンだけなら。


「らあ゛ぁびどにぃぃんぎゅう」


 酷く聴き取りづらい発音で紡がれた魔法が発動する。 動物の頭蓋骨を被ったゴブリンの持つ杖から激しい稲妻が発生しハルトールに直撃する。


「ぐあっ!?」


 ──雷系統魔術、位階レベル2魔術。ライトニング


 まさかゴブリンシャーマン如きが雷系統魔術を使えるとは思わなかった。

 しかもまともに詠唱出来るとは思えないから、詠唱を破棄した? 


 いや、あの杖……ゴブリンが持つには上等過ぎる気がする。 たまたま冒険者から奪ったものか、もしくは……


「【氷雪の王フェンリルよ、我がマナをしるべに眷属の牙を遣わしたまへ…… 氷狼牙アイスウルフ】!」


 ピーニャの詠唱が終わると、集まった冷気が白い狼を形造り巨大ゴブリンに向かっていく。


 氷狼が飛び掛かり巨大ゴブリンの太腿に牙を突き立てるとその場所から氷が脚を覆って行く。


 どうやらあの魔法はダメージと行動阻害の効果があるみたいだ。


癒しの聖光セイントヒール


 ゴブリンシャーマンにライトニングを受けたハルトールにも回復魔法をかけていく。

 それにしても……


「フトロスさん、いつまで呆けているんですか? 傷は治っていますよ、ほら盾を構えて? ファイトファイト!」


 その後も前衛2人が何度か瀕死になるもその都度回復させて、ピーニャが魔法で少しずつダメージを与えて行く。


「お嬢様、そろそろ限界じゃないですかね?」


「何を言っているの? ルー、これからよ、これから。 私がどうやって強くなったと思う? もちろん我がしゅの大いなる愛による世界の救済の為って言う大願の為に努力したってのはあるわ。 それでもね、私は死ななかった・・・・・・から強くなれたと思うの。 つまり今、フォックスネイルの皆さんは丁度いい強敵がいて私の回復もあって、死なずに・・・・戦い続ける事が出来るのよ? これ程修行に適した環境はないわ! 彼らはもっともっと強くなれるのよ!」


「お嬢様、熱弁を奮っている所申し訳ありませんが、フトロスさんの内臓が飛び出していますよ」


「あっ! いけない、癒しの聖光セイントヒール


 

☆★☆★☆★☆★☆★


「おりゃあっ!!」


 暫くしてハルトールのエストックがゴブリンシャーマンのクビに深々と突き刺さると、赤黒い血をゴボゴボと吹き出して動かなくなった。


 フトロスの盾は何度も巨大ゴブリンの棍棒による打撃を受けてボコボコに変形しているが辛うじて鉄の板の形は残している。


「まったく、冒険者如きに何を手こずっているのだ。 雷撃連鎖チェインライトニング


 突如、しわがれた声が聞こえる。

 いつの間にか現れていた痩せぎすな老人が枯れ木の様な指でハルトールを指さすと雷撃が迸る。


「あがっ!?」


「ぐぅっ!」


「きゃあっ!」


 ペシっ!


 ハルトールを貫いた雷撃はまるで生き物の様にフトロス、ピーニャへと次々に襲いかかる。

 私の所まで来たのではたき落としておいた。


「ん? なんだ? 雷撃がはたき落とされた様に見えたが…… 何かマジックアイテムでも持っているのか?」


 ゴブリンシャーマンよりも魔力が高いのかハルトールがライトニングを受けた時よりもダメージが酷そうだ。


 単体回復だと面倒くさいな……


神性領域レルムオブゴッド


 神聖魔法、位階レベル9 神性領域レルムオブゴッド


 この魔法により展開される領域内にいる味方は魔法耐性、物理耐性、即死耐性、毒、麻痺、眠り、混乱、呪い、石化耐性、持続回復(大)を付与する。


「なんだそれは!? 聖域サンクチュアリか!?」


 残念。 聖域サンクチュアリ位階レベル6の神聖魔法。

 効果は物魔耐性(小)と持続回復(小)を付与する神性領域の下位互換だね。


「ちぃ! まさかゴブリンの集落如きに高位の神官を連れて来るとは! 更なる火力で消し炭にしてやるわっ! バーサーカーよワシを守れ! 【煉獄より出し魔炎の主よ、6つの扉、6つの鍵を持ち、6つの世界を渡る炎……くっ!?」


 流石に今のフォックスネイルにはこの巨大ゴブリンだけで精一杯。 更に強力な魔術師が来られても正直手に余る。


 なのでフォックスネイルと巨大ゴブリンの戦闘が終わるまで手出しされない様にルーに牽制しといてもらう事にした。


 巨大ゴブリンは老魔術師を守りに行こうとするがフォックスネイルの3人がそれをさせない。


「失礼します。 貴方にはあちらの決着がつくまで蚊帳の外にいてもらいます」


「ちぃっ! 執事バトラー風情が! 【炎蛇よ出でよ】!」


 魔術師の老人が右手の指輪を向けるとそこから炎の蛇がルーへ襲いかかる。

 詠唱が短いのは事前にマジックアイテムに込められている魔法を発動するだけだからだろう。

 接近戦に弱い魔術師はこういった即時発動できるマジックアイテムを良く使ったりする。


 飛び掛かってくる数匹の炎蛇をルーは先程、見張りのゴブリンに突き立てた銀食器のナイフで纏めて斬り払う。


 まぁ、アッチはルーに任せておけば大丈夫かな。


 問題はコッチだ……


「ハァハァハァ…… どんだけ頑丈なのよコイツ…… もう魔力があんまりないわ……」


「くっ…… 怪我をしても直ぐに回復してくれるからなんとかなってるが……体力がもたないぜ」


「………………」


 もう3人とも気力、体力、魔力の限界みたい。 さっきから何度も巨大ゴブリンにミンチにされかかっては復活を繰り返しているフトロスは言葉も出ないみたい。


「仕方ない、【聖戦ジハード】!」


 神聖魔法、位階レベル7 聖戦ジハード

 この魔法は範囲内の味方に各種ステータス上昇、高揚、不屈、疲労回復、ペイン耐性、恐怖耐性を付与する。


 神性領域と合わせて死なず疲れず戦い続ける狂気の戦士の誕生だ。


「な、なんだか力が湧いてくるぞ! いける! 俺たちは勝てる!」


「あぁん! 魔力が回復してる気がする! 最大の魔法を使うわ! 援護して!」


「うごおオォォォォオオオオ!!」


 うふふ、皆さんしっかりきっかり目がイッちゃってますね。

 さぁ、これで巨大ゴブリンに勝てるかしら。




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