第9話 フォックスネイルとの依頼
「俺達はフォックスネイルって言うんだ。 ちょうど今、
私達が振り向くと3人組の冒険者が居てリーダーらしき青年が話しかけてくる。
硬そうな直毛の髪をツンツンに立たせた爽やかそうな青年でショートソード、エストック、ナイフ、バックラー等、幾つもの装備を携えている。
質の良さそうな革鎧も使い込まれた跡が見て取れ、軽薄そうな見た目と違って真っ当に経験を積んだ前衛なのだろう。
「コラ、ハルト! またそうやって見栄を張って! 誰かさんがしょうもない博打でパーティのお金使い果たしちゃったから待ってる余裕なんてないんでしょ! 一緒にゴブリン退治して下さい、お願いします! って頭下げて言いなさいよね!」
魔術師風の女の子が腰に手を当ててリーダーらしき青年に詰め寄ると青年はバツが悪そうな顔をして苦笑いをしている。
2人の会話から察するに
「ええっと、私達は構いませんけれど、ゴブリン退治? ですか? たしかゴブリンといえば最下級の魔物でしたよね? 特別治癒師が必要とも思わないのですが……」
「あー、君達は今日冒険者になったばかりだろう? 良くいるんだ、ゴブリンなんて最弱なモンスター俺でも楽勝! とか言ってる新人がね。 確かにゴブリンは強いモンスターじゃないけれど、奴らはとても残虐で繁殖力が高い。 何処かに集落を作ったらあっという間に数が増えて周辺の村を壊滅させたりする事だってあるんだぜ。 まぁ本来なら街の周辺にゴブリンの集落が出来たなんて報告がありゃあ軍隊が出張るんだが、最近は近隣の国々がきな臭いらしくて国防に目を光らせてなきゃならないってんで、ギルドに依頼が来たって話だ」
「なるほど。 すると今回のゴブリン退治というのはその集落の殲滅ですか? そして其処には相当数のゴブリンがいると? なら、それこそ1パーティで攻略する規模をこえているのでは?」
「あー、それはなぁあんまり人数が増えると分け前が減るじゃねーか? それにギルドに報告が上がって直ぐに押さえたからまだそんなに増えちゃいない筈さ。 それで報酬はなんと60万ルプス!! どうだ? 割りが良いだろ?」
なるほど、この青年の話が本当なら確かに割りが良い。 1人頭12万ルプスも貰えるなら美味しい依頼だと思う。
「なぁに、治癒師なんてのは保険だからさ、もしも怪我した時は回復してくれたらいい。 まぁ怪我なんてしないと思うけどな」
「あっ、でもウチのルーは
さっきこの青年は治癒師と斥候が足りて無いと言っていた。 ルーに斥候の技能を求めているならちゃんと説明しておかないと。
「まぁ、そこはなんとかなるでしょ。 ただ、報酬の件だけれどそっちは2人で15万でどうかな? もしお嬢ちゃんの世話になる事があったらその分は上乗せするからさ? 俺たちが怪我しなければついて来るだけで15万! 悪くないだろう?」
ただついて行くだけで15万というのはたしかに破格の条件なんだろう。 それというのも冒険者の治癒師不足が大きいみたいだ。
治癒師は街中で出来る安全な仕事で十分稼げるのだから。
「わかりました! 私はマリー、コッチが執事のルーよ」
「やっぱ執事って聞こえたの間違いじゃなかったのか…… あぁ、いやなんでもない。 俺はハルトール、軽戦士だ。コッチのゴツいのが重戦士のフトロス、でコッチのちっちゃいのが……」
「ピーニャよ。 よろしく、魔術師よ。 でもお嬢ちゃん凄くしっかりしてるのね! 関心しちゃったわ」
重戦士と紹介されたフトロスさんは何も言わずに軽く頭を下げただけだった。
体つきはがっしりしていて、重そうなプレートメイルを着ている。 幅広い盾と武器は無骨なメイスを使っているみたい。
女の子の方はとても明るく話しかけてくれた。 私の事を子供だと思っているみたいだけれど私に負けず劣らず子供に見えるくらいの低身長だ。
魔術師がよく着ているローブに魔石の付いた
「そんじゃあ暗くなるまえにチャチャっと依頼をこなしちゃおうか」
☆★☆★☆★☆★☆★
「あの草むら中に集落を作ってるぽいな、簡素な柵があって入り口に見張りが1匹いる。 まずはアイツをどうにかしないとな」
ハルトールが木に登って双眼鏡を使ってゴブリンの集落を探る。
幸い集落自体は直ぐに発見出来たけれど、場所が問題だった。
ゴブリンは洞窟等を寝ぐらにするケイブゴブリンと草原など開けた場所に集落を作るグラスゴブリンとに別れるらしいけれど、今回は後者のグラスゴブリンみたいだ。
開けた場所に集落を作られると、遮蔽物が少なくて奇襲がしづらい。 ゴブリンの見張りは腰に角笛をぶら下げており、見つかってしまったら角笛を鳴らされて直ぐに他のゴブリンもやってくる事だろう。
反対にゴブリン側も隠れ潜める場所が少ないので思わぬ伏兵に出くわす心配は少ないけれど。
問題はこの場所だ。 ルーの胸ぐらいまである背の高い草が生い茂っているため緑色のゴブリンの絶好の隠れ場所になってしまっている。
「いくつか案があるが、どうする? 斥候程じゃないにしても身軽な俺が草むらに隠れて近づいて処理するか、ピーニャが
そう言ってハルトールはこちらを振り向く。 そこで私は木陰にレジャーシートを広げて紅茶を飲んでいる。
アガルタにいた頃はしょっちゅう皆んなでピクニックに行ったなぁ、懐かしいなぁ。
今もその頃と変わらずにルーが美味しい紅茶を淹れてくれる。
「お茶をしているんですよ? ルーが美味しい紅茶を淹れてくれるのでよろしかったら皆さんもどうぞ」
「わーい! いい匂い〜」
「あぁ、いや…… お茶が飲みたかった訳じゃないんだが…… こらピーニャ真面目にやれ」
「は〜い……」
「大丈夫ですよ、もし怪我をなさったら直ぐに治癒魔法をかけますから。 遠慮なくゴブリンの集落へ突撃しちゃって下さい」
魔物を退治するのは私としても自ら率先して行いたいぐらいなのだけれど、しかもゴブリンなんて種は人間を苗床にするような最悪な種族だ、絶滅させてしまいたいところだけど、冒険者の方々の手柄を横取りする訳にもいかないし、紅茶を飲んで心を安らかにするぐらいしかやる事がない。
「まぁ、そんな大規模な集落じゃないしピーニャの魔法を1発かましてから突入して手っ取り早く終わりにしようか」
まぁ? 1番危なそうな策を選んだみたい。 あの集落の中に、明らかにただのゴブリンじゃない魔力の反応があるのだけれど。
でも大丈夫。 私が絶対に死なせたりしないから…… 存分にゴブリンとの戦闘経験を積んで下さいな。 うふふ。
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