第8話 冒険者ギルドへ行こう
「大変だわ!! ルー! お金が無いわ!」
「お嬢様、そんなお金を無くしたみたいに言わなくても…… 元からそのサイフには何も入ってなかったでしょう」
私がおサイフをひっくり返してお金が無いアピールをしていると、ルーが呆れたように返してくる。
まぁ、確かに最初からほとんど入っていなかったのだけれど。
私は継承権が無いけれど一応は王族だったのだけれど、自らお買い物をする機会などなかったので現金など持ち合わせていなかったのだ。
今使っているおサイフも何かあった時の為に念のため持たされていたもので、1万ルプスしか無い。
1万ルプスがどれくらいの価値かと言うと、大体食事が1食500〜1000ルプスぐらい、宿に泊まるとするなら6000〜15000ルプスぐらいらしい。
私もミルマさんに相場を教えてもらうまで良くわかっていなかった。
勿論、食事にしろ宿泊にしろ高級な所はもっとも〜っと高いらしい。
「アガレス様が用立ててくれた現金を預かっています。 なので当面は大丈夫ですが、金銭を稼ぐ手段があった方がいいですね」
「わぁ、流石アガレス様ですね! ありがとうございます! 金銭を稼ぐ手段……ですか」
早くルルイエール王国へと帰りたい私としては何処かで働いて定期収入を得るというのは選択肢にない……とすると……
「やはり冒険者ですかね。 魔物の素材の買取りなども冒険者ギルドでやっているようなので、移動しながらでも収入が得られるのがいいですね」
「まぁ、いま私もそれを考えていたわ! 冒険者! 一度やってみたかったの!」
「それではこの街の冒険者ギルドにでも行ってみましょうか」
☆★☆★☆★☆★☆★
「わぁ、なかなか立派な建物ですね! さぁ参りましょう」
貧民窟から離れるとここオオギールはそれなりの規模の街のようで建物が建ち並び大勢の人々が行き交っていた。
その中でも一際目を引く立派な3階建ての建物が冒険者ギルドのようだ。
「ちょっとお待ち下さい、お嬢様。 まさか本名で登録するおつもりですか?」
「えっ? そうだけど?」
「一応、数年前の事とはいえ隣国の王族の失踪、もしくは死亡のニュースはこちらにも伝わっていると思います。 何があるか分からないので一応偽名を使っては如何でしょうか?」
そうね、アルメリア帝国に私の事がどの様に伝わっているかは分からないけれど、もし王族だとバレたらエスカお姉様に伝わってしまうかも知れない。 下手に警戒されたら面倒だしここはルーの意見に従ったほうが良さそうね。
「わかったわ! ちゃんと本名は隠して登録するわね」
私の背丈の2倍以上はありそうな大きな扉を押し開いて中に入ると、幾つものテーブルと椅子があり大勢の冒険者風の人々が食事や歓談を楽しんでいた。
店内はガヤガヤと喧騒に包まれており、入り口から入って来た私達に対しても一瞥しただけでさして興味も持たれないみたいだった。
奥にはいくつかのカウンターが並んでおり、カウンターの上に書かれた案内によると、依頼者用、冒険者用、新規登録、パーティ申請用に別れているみたいだ。
私が1番左端にある新規登録用のカウンターへと向かうと、カウンターのお姉さんが優しく微笑んでくれる。
「こんにちは、冒険者へのご依頼は1番右のカウンターになりますよ」
「あ、いえ、冒険者になりに来たんです。 ここで登録できますか?」
「あら? 冒険者に? お付きの方まで連れて…… どこかのご令嬢かと思ったわ。 そうね新規登録ならこちらで出来ますよ」
「ははっ、彼の格好は…… 趣味みたいなものなんですよ、あはは……」
私はまだチュニックにキュロットスカートで冒険者には見えないかも知れないけど動きやすい格好ではあるけれど、この初夏の陽気に黒いスーツをビシッと着こなして冒険に出るって言うのは誰から見ても不自然だろう。
「あっ、そうなんですね…… こちらにご記入お願いしますね」
出された用紙に2人で必要事項を記入していく。
「えっと、マリー・ゴールド……様とルー様ですね」
「ちょっと…… なんですかその名前は?」
ルーが小声で聞いてくる。
「パッと思いついたのこれだったんだもん……」
「職業が…… 治癒師と、えっ…… 執事、ですか?」
「何か問題が?」
いやいやいや、何か問題が? じゃ無いですよ。 涼しい顔して何言ってるんでしょうこの人は。
「えっ? 問題? いや……問題って言うか……因みに執事ってどうやって戦われるのでしょうか?」
「戦う? いえ執事は戦いませんよ?」
いやいやいや、お姉さんめっちゃ困惑してますよ。 頭の上にハテナが見えますよ。 戦わないのにどうやって冒険者をやる気なのこの人は……
「私はお嬢様の執事です、なので戦うのはもっぱらお嬢様ですね」
おい執事? それで良いのか執事?
「えっ? こんな小さい子に戦わせるのですか? それにこの子治癒師ですよね?」
「ええ、しかしそこら辺のゴリラより強い治癒ゴリラですから大丈夫です」
「治癒ゴリラ!? ルー、ちょっと黙ってなさい。 とりあえず登録だけしに来ただけですので戦うとかまだ考えてないので大丈夫です。 あはは……」
このお姉さん、凄い不審者を見る様な目でルーを見ているけれど大丈夫だろうか?
「……なるほど、記念の冒険者登録ですか。 まぁそういった方も珍しくないので大丈夫ですが。 それでもこの冒険者カードは血液を垂らす事によって生体認証をしますので、今後魔物などを倒したら自動で記録されます。 なので不正に討伐した魔物の水増し等は出来ませんがよろしいですか?」
へぇ、凄い。 どんな技術が使われているのか見当もつかないけれど、お姉さんが厳しい目つきでルーを見てるので聞ける雰囲気じゃあないや……
「マリーさん、本当に治癒魔法が使えるのならパーティに入れて貰いやすいと思います。 治癒師は不足しているので引っ張りだこだと思いますよ」
「ありがとうございます!」
治癒師が不足しているのは知っている。 そもそも魔力を扱える人間が少ないのだ。
人間は誰しも魔力を持ってはいるけれど、術式を起動するに足る魔力量がある人が約3割、その中でも魔術師適正が高い方が約7割、治癒魔法の適正がある人は残りの3割だ。
しかも治癒師は冒険者になるよりも普通に教会や神殿で働く方が安全だし安定した収入も得られるので冒険者になるような治癒師は本当に稀だったりする。
「それじゃあこのカードに血を一滴でいいから垂らしてくれるかしら」
いわれるがままに用意された針を使ってカードに血を垂らすと、淡い光を放ち認証が済んだようだ。
「はい、じゃあ良かったらでいいんだけど、今針でつけた傷を治癒してもらえるかな?」
「わかりました」
私が軽く治癒魔法を発動させると指の傷は直ぐに無くなった。
「おお!? 確かに今、治癒魔法の光を感じました! すいません、疑ってしまって」
「いえ、大丈夫ですよ。 実際に見ないといくらでも嘘とかつけそうですもんね」
「そうなんです。 個人で依頼を受けるだけなら嘘でもなんでもいいんですが、ここはパーティの斡旋もしているので、間違った登録情報だと危険があるんです。 まぁ、パーティを組む場合にはそもそもどれくらいの技量があるのか確認されると思いますが」
「メルメルちゃん! その子治癒師なの? 良かったらウチのパーティに入らないか?」
陽気な声に振り向くと後ろには3人の冒険者風の男女が立っていた。
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