第7話 インギン兄弟が現れた!


「うおーい、なんだぁテメーら!?」


「うぃーあ、なんだぁコイツら!?」


 私達が外に出て見ると、数人のゴロツキが家の前で待ち構えていた。

 特に先頭の2人は背格好が似ている。

 共にスキンヘッドだけれど微妙に頭髪が残っている部分がある。

 私から向かって右側にいるスキンヘッドは前頭部に丸く、左側のスキンヘッドは左右の耳の横辺りに丸く頭髪が残っている。


「えっと……芸人さんですか?」


「うぉーい! お兄ちゃん、コイツ等ナメてるよぉ! どうするぅ!?」


「うぃーあー! おとうとよぉ、ナメてんなぁコイツ等! どうするぅ!?」


 えっとぉ…… 無駄に個性を主張してくるなこの人達……


「俺の名前はイン!」


「俺の名前はギン!」


「「2人合わせてインギン兄弟たぁ俺らの事よ!!」」


「インキン兄弟だと!?」


 ルーが焦った顔をしている。 もしかして凄く有名な兄弟なのかも……


「お嬢様、奴等病気を持ってます。 『浄化』を掛けて下さい」


「インキンじゃねーよ!! インギン!」


「お嬢様、決して触らないようにして下さい。 伝染りますよ!」


「だからインキンじゃねーって! うぉい!」


「はぁ、そうですかお大事に。 次の方ー?」


「うぃー!! 話を聞け! インギンだ! インギン! ここオオギールを中心に金融以外にも手広く商売をやってるインギン兄弟を知らねーのか!?」


 ルー曰く、何か病気を持ってるらしいけれど、反応をみるにただ単に揶揄われているだけなのかな?


「まぁ、おふざけはこの辺にして…… ここのお家の方……えっと?」


「ミルマです……」


「そう、ミルマさんは今まで具合が悪くて仕事が出来なかったんです。 ですが、ついさっきお元気になられましたので、これからはバリバリ働いて借金を返していけると思いますよ!」


「うぉーい! 何言ってやがる? 俺たちは今すぐ返せって言ってんだよ! わかるか? このクソガキがぁ」


「ですからそれを少し待ってあげて下さいと言っているんです」


「うぃーあー!? 待たねーよ! こちとら慈善事業じゃあねぇーつーの!!」


 どっちがインでどっちがギンだかもう分からなくなってしまったけれど、それはもうどうでもいいかな。


「慈善事業! おお! 良いじゃないですか! 慈善事業! 素晴らしいですね!」


「だから慈善事業じゃねーって言ってんだよ!」


 痺れを切らしたのか前頭部にだけ髪が残っている方が殴りかかってくる。

 アガルタではいつもルーやジョゼさんを相手にしていたからまるでスローモーションみたいだ。

 軽く躱してから顎にパンチを叩き込むと、糸が切れた操り人形の様に力無く崩れ落ちる。


「何も私は借金を踏み倒そうなんて思っている訳じゃないんですよ? ちゃんとお仕事をして返せるようになるまで待ってあげて下さいとお願いしているんですよ。 お願い・・・です」


「お、おいテメー!? 何しやが……」


 もう1人の変な髪型の人が向かって来そうだったけれど、そっちはルーが大人しくしてくれとみたいだ。


 私は倒れている方の前頭部の髪を掴み顔を上げると、意識をハッキリさせる為に回復魔法をかけてあげる。

 その上で頬を叩く。 所謂ビンタだ。


 バッシィィィィンッ!!


 大きな音が響き渡り周りのゴロツキ達の視線が集まってくる。


「ミルマさんを含め、ここら辺にいる住人達にお仕事を斡旋してあげたら良いんじゃないですか? たしか手広くご商売をなさっているのでしょう? そうすればミルマさんはお金を稼げるし、返す事もできる。 インキンさん達は労働力を得られる。 Win Winではないですか?」


「ば…… なんで俺等が面倒見なきゃ……ぶっ!?」


 バッシィィィィン!!


「ああ、それとお利息はおいくらですか? ちゃんと常識的な範囲内でお願いしますよ? ここの住人の方たちを働ける様に健康にするのは私が致しますので、食糧や身だしなみを整える為の支度金も貸し出してあげて下さいね」


「いや……だから……がっ!?」


 バッシィィィィン!!!


「ここの方たちがちゃんと働ける様になって環境も改善される。 そうすればあなた方にもお金が返ってくる。 まぁ素晴らしい!! インキンさん達が慈善事業とは言わなくても低金利で融資してあげるだけでこの場所は生まれ変わる事が出来るのです! うふふ。 神の御心がお分かりになりましたか?」


「な……ん……で……ぶっ!? がはっ!?」


 バッシィィィィン! バッシィィィィン!!


「返事は頷くかハイでお願いします。 分かりましたか?」


 ビンタで意識が飛ばない様にギリギリを調節して回復魔法もかけてあげる。

 神の深い御心を知るには時には痛みも必要なのだ。 


 仕方ない…… 本当に仕方ないのだ、神の御心を知るのはとても大変なのだから。

 だから私は何度でもこの方に愛を教えて差し上げよう。


 そう…… 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……



 私は心を鬼にして神の愛を叩き込んでいるとコクコクと凄い速さで頷く様になった。

 どうやら神の御心に寄り添う事が出来たみたい。


「まぁ、うふふ。 快く引き受けて頂けて嬉しいですわ。 ここの方たちは大丈夫だと思いますが、もし……元気になったのにも関わらず、インキンさん達のご厚意を裏切ってお金を返さない様な事があったら、その方にもちゃ〜んと神の愛を教えて差し上げますわ。 ねぇ? うふふ」


 そう言って辺りを見渡すと、ミルマさんはアントンとチコと抱き合ってブルブルと震えていた。 まぁこんな変な髪型の人達に絡まれたら誰でも震えてしまうでしょう。 でも、もう大丈夫ですからね!




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