喪った後に遺るもの

沢木 京(さわき みやこ)

石橋 花菜(いしばし かな)

 貴女は赤い花が好きだった。花屋、福祉施設の花壇、河川敷。それ等で赤い花を見つけては花の様に顔を綻ばせた。私も赤い花が好きだった。だって貴女が愛おしい表情を見せるもの。

 でも、ある秋の日に私は赤い花が嫌いになった。

 貴女はDTMを車外にまで響かせる軽に轢かれた。貴女から幾つもの、赤い花が飛び出た。私はそれ以来赤い花は嫌いになった。

 そして、私は死ななくてはいけない。貴女は私の片割れだった。私は不完全になった。不安定になった。

 否、私は元々片方がなかったのかもしれない。

 片脚がない人は杖をつき歩く。私が片脚がなく、花菜が杖だったのかもしれない。花菜が片脚がなく、杖が私だったのかもしれない。

 私は花菜がいないと歩けない。前すら向けない。花菜だって同じだったでしょ。

 人生には意味若しくは意義がなくてはならない。証明済み。

 私の人生にとっての意義はただ一つ。花菜の存在。

 花菜が居なくなってからは意義がなくなった。なら死ななければならない。

 私は今から摩天楼に摩耗された空から飛び降りる。悲しいのか嬉しいのか分からないけど、貴女とお揃いの死に様だね。

 ねぇ、花菜。教えて。私は今泣けばいいの?笑えばいいの?

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宝石の朽ちる夕(百合短編集) 篤藤 @for1203

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