腐る前に

吉野 睦美(よしの むつみ)

鈴木 侑菜(すずき ゆうな)

 

 貴女は生きようと、少しでも永く生きようと抗うように荒い息をしている。でも貴女は死ぬんだ。

 貴女は天才だと言われて、周りは貴女に期待した。多種多様の期待を、賞賛を貴女は浴びた。

 私は嫉妬しなかった。才能を支えるのが私の役目だと信じていたから。どんな綺麗な薔薇だって薔薇だけでは咲けない。土や水、日光がないと咲けない。

 貴女と言う薔薇の日光になれたから幸せだった。この世には人それぞれ役割がある。全員が薔薇である必要はない。私には日光という役割があっただけだ。私がいるから貴女は薔薇であり続けられる。

 でも、貴女の才能は枯れた。瀟洒で傲慢が許される才能。今の貴女はドライフラワーなんだ。

 一度綺麗だったから枯れたとしてもドライフラワーの様に美化され周りは貴女を認める。

 でも、私は許さない。才能の枯れた貴女を受け入れられない。だから終わりにするんだ。

 そして私の手には貴女の血潮に濡れた包丁が握られている。栄えたのなら散り際を弁えないと。

 ねぇ、侑菜。貴女の枯れた才能が腐ることはないね。綺麗なままで終わらせてあげる。これは貴女への愛情表現なんだ。

 抗わないで。受け入れて眠って。一度美しかった者は枯れてもいいが腐ってはいけない。

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