第38話 野宿?そんな事はさせませんよ
リストの誘導で空き地へキャンピングカーを移動させ適当な場所で停車させた。
「俺は薪でも集めて来るかな」
「じゃあ俺は寝床に良さそうな場所を作っておくか」
ふふふふふ……。
それぞれ作業を始めようと動こうとした二人の腕を掴む。
外から見ると軽サイズの小さなキャンピングカーだけれどもな……遂に自慢の内装をお披露目する時が来た。
「寝床なら用意してありますよ」
二人の腕を引いて、後部座席の扉へと連れて行く。
これがギルバードの魔力を奪ってまで作った俺の夢の最高傑作だ!!
スライド扉を開けて中へ二人を押し込んだ。
「「はっ!?」」
目の前の光景に二人して固まっている。
そうだろう、そうだろう。
「ようこそ、俺の夢の城へ」
小さな魔鉄の箱だった中身は、ギルドメンバー全員で乗ってもゆったりと過ごせる広いLDKとトイレ、お風呂、そしてキングサイズのベッド何個分かもわからない広々雑魚寝エリアを確保した大きな空間が広がっていた。
あ、サーラさんは唯一の女性だし雑魚寝じゃなくて個室を用意しておいた方が良かったかも?でも冒険者だし野営時なんてきっとこんなもんで慣れてるよな?
最悪ソファーだって寝るのに十分な程大きめに作ってある。
称賛の声を期待して腰に手を当て胸を張っていた俺だが……期待していた称賛はいつまで経っても上がってこない。
「あの……ギルバードさん?気に入らなかったですか?」
白を基調にした内装が駄目だったか?無垢材のカントリー調とかヴィンテージ……黒を基調に纏めた方が良かったのかな。ゴツゴツしたアンティーク調なのはちょっと想像するのが苦手だ。
「いや……あの……気に入るとかそういう問題じゃなくて……」
そう言ってギルバードは頭を抱えてしまった。
喜んでもらえると思ったんだけどな。
「あっ、凄い、凄いんだよ!!ただ凄すぎて理解が……」
頭を撫でてくれたが、語尾は尻窄み。
夢だった物を詰め込んだのだが、メンバー全員でと言う部分を意識しすぎてやりすぎただろうか?個室をそれぞれ作らなかっただけでも抑えたつもりなのだけど。
「ゆっくり座って依頼内容の確認でもしていてくださいよ。夕飯用意しちゃいます」
残念な反応だったが、気を取り直して夕飯の準備をしよう。
大きめな炊事スペースを取ったゆったりキッチン。
なんとオーブンやフードプロセッサーといった調理器具もついている。詳しい構造はわからなかったから「オーブン風」な魔導具だけど。
最初にホームベーカリーに材料を投入してセットしておく。
アイテムボックスから調理台へカロヴァッカの肉を取り出し、大きめのブロックに切り分け、オーブンを手に入れたし今夜は異世界漫画でも定番なローストビーフに挑戦してみようと思っている。
寝かせる時間もまだあるだろうしな。
牛みたいな見た目だったカロヴァッカ、きっとビーフと言ってしまって大丈夫なはず。
記憶を頼りに、塩胡椒とニンニクもどきな実のすりおろしを肉の表面に擦り込んでいく。この香りだけでももうお腹が空いてくるのだが、これに焼き色をつける為に焼いたりしたらさらに……想像しただけでお腹が空いてきそう。
いくつか用意した塊肉に全て下味をつけ、フライパンですばやく焼き色をつけていくと香ばしい匂いが立ち昇る。
換気扇はちゃんと機能しているが、それでもリストとギルバードの意識がこちらに向いたのがわかった。そうだろう、この匂いだけでご飯いけちゃうよね。まだ『米』は手に入ってないけど。
強火で全面に焼き色をつけたものから、鉄板に並べてオーブンへ。
ローストビーフの出来上がりを想像しながら『スタートボタン』を押すだけで鑑定さんが焼き上がりを調節してくれる便利魔導具、これを褒めてもらえないのがもどかしい!!
「カズキ……」
まだ食べられないのかと不平不満を言いたげなリスト。わかるよ、この匂いは凶器だよね。でもこれをさらに休ませるという工程もあるんだよ。
「しっかり明日の計画をよろしく!!」
見るなと視線を手で追い払い、オーブンにお任せしている間にポテトサラダでも作ろうかな。ハンドミキサーも作ったしマヨネーズだって簡単。
皮ごと茹でた芋を熱いうちに剥いて……熱いが我慢っと戦っているとギルバードが袖を捲りながらキッチンへと移動してきた。
「手伝っていいかな?」
芋の皮を剥くギルバード……想像できねぇ。
「大丈夫ですよ、三人分だけだし」
「ゴレンさんたちとハンバーグを作ってたでしょ?楽しそうだなって見てたんだ。俺も一緒にやらせてほしいな」
リストも俺も手伝うと立ち上がった。
確かにみんなで作るの楽しかったけど……いいのかな?ギルマスにそんな事やらせて……。
「はい、じゃあまず手を洗ってもらって……」
流石にギルバードは器用だ、ツルツルと剥いていくのに対してリストは……力の加減ってものを知らないのか?まあ結局潰すからいいんだけどね。
芋の皮を剥いてもらっている間に一緒に茹でていた卵を細かく刻んで、先日取っておいたカリカリのベーコンも小さく切っていく。
「あとはこれを潰せばいい?」
「任せとけ!!潰すのは得意だ!!」
「力任せに潰せばいいってもんじゃないよ。ギルバードさん、ゴロゴロと少し粒が残るぐらいで……」
リストに任せていたら芋もちみたいに潰されそうなのでギルバードに任せて、リストにはナッツを砕いてもらうことにした。粉にはするなとよく言い聞かせてから。
ギルバードが混ぜ合わせてくれているところへベーコンと茹で卵と茹でている間に作ったマヨネーズを投入して、塩胡椒で味を整えて……楽しい。一緒なのが、とても楽しい。
「ギルバードさん、あーん……」
味見用にスプーンで掬ったポテトサラダを差し出すと、疑いなく口にしてくれたギルバードが嬉しそうに笑ってくれる。
「美味しい、完璧だね」
その笑顔には『満足感』も含まれている気がして、ギルバードも楽しんで料理をしてくれたんだと……
「カズキ、俺も食べていいか!!」
「……はい」
人が感慨に浸っている時に、仕方ないので別のスプーンで一口分掬ってリストに差し出してやった。
「お前、あからさますぎんだろ」
スプーンを口で受け取ったリストは不満そうに唇を尖らせた。
「何が?ちゃんと味見させてやったじゃん。そろそろ肉汁も落ち着いてきた頃かな?食事にするか」
オーブンを開けると肉とニンニクの焼けた香ばしい香りが辺りに広がった。冷たく冷やしたローストビーフもいいけど、ほんのり暖かいうちが美味しい。
「リスト、これぐらいの厚さに切っておいてよ」
刃物の扱いならお手のものだろう、リストに任せてお皿にポテトサラダを盛り付けトッピングにナッツを上から……粉にしやがったなあの野郎。
9人で囲めるように用意したテーブルの端に三人分のお皿を並べていく。
籠に積んだパン。
大きな皿に盛ったポテトサラダ。
そして……大量のローストビーフ
焼けてないが大丈夫か?と不安そうなリストに大丈夫、大丈夫と適当に返事をして、天板に溜まっていた肉汁と、味が醤油に似ていた木の実を潰して作ったソースを添えて出来上がり。
「さぁ食べましょう、ギルバードさん。一緒に作った初めての料理です」
ギルバードを席につかせて、パン、サラダ、肉を取り分け……。
「控えなくていいから……一緒に作ったんだから一緒に食べよう。リストも早く」
リストの分も取り分け用意してから自分の分。
三人で席について、いただきますと幸せな気持ちで手を合わせた。
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