第37話 夢の実現
ミラー良し!!シートベルト良し!!
いざ出発!!
深呼吸をして息を整えるが、心臓はかなりバクバクしている。
憧れのキャンピングカーだが、実は俺ってペーパードライバーなんだよね。
免許取った直後、親の車を借りて練習した事はあったけど、車を買う余裕などなく、毎日毎日寝不足で車の運転など怖くて出来ず……。
しかも何故こんな事になったのか謎だが、運転席がベンチシートのセンターにあるのだ。ただでさえ慣れてない運転で視界すら慣れない。
その緊張が伝わっているのか、左右に座るギルバードとリストの顔もこわばっている。
大丈夫、仮にもAランクとSランクの冒険者だ。多少の運転の荒さなど体幹で乗り越えてくれるはずだ。
え〜……ギアをドライブに入れて……エンジンボタン、動かない。
あ、パーキングのまま先にエンジンか、いや動かないな……そっか、ブレーキか!!
戸惑いながら記憶を辿ってエンジンをかけるとアクセルを……。
「うわぁぁぁぁぁっ!!!!」
急発進、猛スピードで走る車体に、慌ててブレーキを踏むと、身体を大きく揺らしたリストがあちこちに頭をぶつけている。ギルバードはさすがというか、浮いてるんじゃないかと思うような安定感。
「悪い。久々で、アクセル踏み込みすぎた」
馬車みたいな魔導具と伝えてはいたんだが、スピードまでは教えてなかったからな。リストの顔は真っ青で冷や汗が浮き出ていた。
「ま……まるでサングボーの突進みたいだね」
サングボーはわからないけれど、ちょっと引いてしまっていたギルバードにも心の中で謝った。次は安全運転で行きます。
異世界の街道は信号なんてない、曲がりくねった高低差のあるじゃり道だけど、揺れは最小限に抑えるように作っているし、対向車は極たまに馬車が通る程度。歩行者の冒険者や商人たちもいるが、
道が広いので問題なく走行できている。もちろん隠蔽魔法で冒険者達から見られる心配はない。
アクセルの感覚も掴めてきたな。
「すごいな……ウースタンの街がもう見えてきた」
すっかり俺の運転にも慣れたリストとギルバードまで窓を開けて周りの景色を見てはしゃいでいる。あの本を見せてもらった時もそうだけど、ギルバードは結構子供っぽいところがあるなと感じる。
ギルバード不在の間のギルドのいろいろはノートンやサーラが回してくれるらしく、最近は外に出ていなかったと言っていたから久々の遠征で余計に楽しいのかもな。
残念ながらウースタンの街に立ち寄る予定はなかったので手前で大きく迂回して走り続け、草原に伸びていた道は次第に森の中へ。徐々に道幅が狭くなるが人も少なくなってきたので今のところ問題はない。
少し薄暗かったのでヘッドライトをつけながら走っていると光の中に巨体が浮かび上がり、慌ててブレーキを踏んだ。
「カロヴァッカか、夕飯にちょうどいいですね狩ってきます」
大きな大きな牛のような魔物。この車の2倍はありそうだがリストが負けるような脅威は感じないけどこのデカさの魔物相手に、ちょっと散歩に行ってくるみたいなノリで車を降りていくのはさすがだな。
運転席から様子を見守っていると、俺の渡したマジックバッグから身の丈以上の大剣を取り出した。
あれがリストの本来愛用している剣か。でかいな。
軽々と持ち上げた剣をスッと下げると、こちらに気がついたカロヴァッカがその巨体を振り返らせる前に、胴体と頭は切り離されていた。
澄ました横顔がちょっとカッコつけているようでムカついたのでハイビームにしてささやかな嫌がらせをしてみた。
あの巨体を解体するのは……やっぱり魔導具だよな。大型魔物用に改造しておいて良かったが、俺も車から降りなければ。
「デカいな」
「食べ甲斐があるだろ?」
デカさゆえの流血の量、車外に漂う血の匂いに少し眉を顰める。慣れはしない匂いだな。倒してくれたんだし、血が出ないように倒せなんてわがまま言うのも悪いか。
「とりあえず解体しちゃうぞ?大丈夫か?」
「ああ、カズキの解体の方が丁寧だろ」
リストが解体の仕方がとか、素材が足りないとか文句を言ってくるとは思っていないが、一応声をかけてから解体くん2号を取り出した。
「解体も魔導具だったのか……」
解体しているところを見せた事ないから手作業かと思っていたらしい。
解体くん2号を不思議そうに見るが、2号もパッと見はただの木箱なんだよな。
蓋を開けてカロヴァッカの胴体と頭を掴むとスッと箱の中に吸い込まれて蓋が閉まった。
「マジックバッグもそうだが、不思議なもんだよなぁ。そんな大きさのどんな魔物でも入るのか?」
「虫タイプでも植物タイプでも多分?人間は解体できないように設定してあるから安心しろ」
チーンと音を立てて蓋が開く、わざわざ金属を追加した仕上がり音は俺のこだわり。あとはマジックバッグと同じように仕上がった素材を取り出せばいいのだが、人間は解体不可の設定をしておかないとこの時に事故が起こって解体されてしまわないとも限らない。魔導具に細心の安全の配慮ができる男なのだ。
「暗くなってきたし、この辺で今日は休む?」
素材をリストに返しながら、肉は俺が管理してくれとの事なので俺のアイテムボックスへと振り分ける。
「そうだな、あっちの奥の空き地なら焚き火もできるだろう」
リストの指差した方角には土が剥き出しの空き地がある。数カ所焚き火をしたような跡が残っているからみんなこの辺で休んでいるんだろうな。
カロヴァッカみたいな大型の魔物がいる側で野営とは、この森はもうすでに初心者向けではないようだ。
俺がDランクな事は二人の頭にはないようだな。
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