第35話 結局肉祭り
せっかくなので、双子に全ての肉をミンチにしてもらう。結構面倒な作業で、魔導具を作ってやってもいいかと思っていた作業だが、どちらが速いか競い合う双子は楽しそうなのでいいだろう。
その間に玉ねぎに似た野菜を細かく切っていると大きな器を抱えたゴレンが帰ってきた。
「カズキ、こんな感じでいいか?」
「ありがとうございます。完璧です」
ゴレンはこう見えて細かい作業が得意らしいので大きなボウルのような器を用意してもらっていた。俺が用意するとなると魔導具にする必要があるので、みんなの前では使いづらい。
どこから見つけてきたのかデカい木をくり抜いた大きなボウル。ちゃんと表面の滑らかに仕上げられている……本当に細かな作業ができるんだ。
ボウルの中に刻んだ野菜と双子が挽いた肉たちと香辛料を……量は分からないので、ここは適当にだ。
みんなで捏ねて、丸く平べったい形を作り上げていくのだが……。
「ゴレンさん、器用ですね」
大きく不器用そうなゴツい手なのに、俺が作った見本と同じ大きさに均一されて表面も美しい。それに比べて双子……大きさはバラバラだし形もいびつ。
「カズキくん。気配だけでバカにするのやめてくれる……?」
「食べたら一緒だにゃー!!」
個々の焼き加減で大分味は変わってくると思うが?
「こいつら不器用だろ?こんなのに罠解除とか任せにゃならん俺たちの気苦労わかってくれよ」
罠解除?この不器用さで?
疑いの目を向けられた双子はバツが悪そうに俺から目を逸らし、二人で競うように肉を丸めていった。
均等に焼くのはなかなか難しそうだけど……
楽しいかも。いいな、こうして一緒にみんなで何かをやるのって。
ーーーーーー
「「どう!?僕たちの作ったハンバーグは!!」」
ドヤ顔の双子の話など誰も聞いておらず、みんな無言で網焼きハンバーグを食べている。
ハンバークから滴る脂の焼ける匂いに釣られて集まった面々に「待て」と言うには視線が痛すぎて……俺がハンバーグを焼いている側で、食事という戦いが開始された。
「パンにハンバーグと野菜を挟んで、ソースかけて食べても美味しいですよ」
焼けた物をパンに挟み、簡単なサンドイッチを作りギルバードの席まで届けると一斉にみんなの目がこちらを見て、そして一斉に真似をし始める。
もう少し感想とかも欲しいところだけど、この間のようなミュージカルが始まっても面倒なので。みんなの事は放っておいてギルバードへとお皿を渡した。
「ありがとう。肉を潰し切り刻むなんて聞いた時は驚いたけど、柔らかく、噛むと肉汁が中から洪水みたいに溢れてくる。これが『ハンバーグ』なんだね。野菜はほとんど食べる事ないけど、甘味とシャキシャキした歯応えがいいね」
「ありがとうございます。焦がすといけないんで戻ります、まだまだたくさんあるんで、いっぱい食べてください」
急いで焼き場に戻る。
焼けた金網の上でジュウジュウと音を立てながら焼けるハンバーグ。
顔が熱い。
にこっと心底嬉しそうな笑顔を向けられただけで幸せですなんて言えねぇ!!
ハンバーグを焼きながら、自分用のサンドイッチを作って食べる。さすが俺だな、香辛料の塩梅も焼き加減もちょうどいい。
みんなの顔も、無言だけど真剣に俺の料理に向き合ってくれている顔だ。
同じ労働だけど、王宮なんかよりこちらの方が断然いい。
ーーーーーー
「Dランクから上にランクアップするには、指定されている魔物の討伐と実技試験で合格すればランクアップになるからね。Dランク昇格おめでとう」
そう言ってギルバードは俺の腕に腕輪をはめてくれた。
所属を明らかにするため、ギルド毎に冒険者の証明プレートをオリジナルの装飾品に加工するのが普通らしい。この腕輪は『ドラゴンステーキ』ギルドが共通で使用している物。
「ありがとうございます。無くさないように気をつけます」
「……おい、俺が言った時と随分態度が違わないか?」
当然前に見せてもらったリストの腕輪と同じ物だ。
「これでようやく一緒に依頼へ行けるな。改めてよろしく
先輩」
拗ねるリストの顔を覗き込むと、不機嫌そうに視線だけをこちらに向けてくるがその顔は少し照れたように赤くなっている。
リストは頼られると嬉しそうだよな。
アイテムボックスからリスト用に作ったマジックバッグを取り出し、リスト似て渡すと不思議そうな顔をしたが、すぐ答えに思い至ったのか赤かった顔がさらに赤くなった。
「これ、もしかして……この前言ってた俺用の……」
「そ、リスト用のマジックバッグ。俺が作ったとか他の人には言うなよ」
マジックバッグを持ってワナワナと震えるリストは、本当に良い反応をしてくれるよなと微笑ましく感じる。
そんなわけで、晴れてDランク!!
これで米を探しに堂々と旅に出られるのだ。
「そんなに『米』っていうのは魅力的な物なんだね。フォイト湿地に関係する依頼はないけど、フォイト湿地から少し東に進んだダンジョンに住むゾーラシュピンの糸の採取依頼が来てるから受けておいたよ。普段ならやりたがるメンバーがいないから断るんだけど……」
「え……いきなりゾーラシュピンの糸採取ですか……」
マジックバッグを持って震えていたリストの顔が瞬時に暗く青ざめた。
そんなに嫌な依頼なのか?
「心配しなくても大丈夫だよ。カズキ君なら多分……」
珍しく歯切れの悪いギルバードの言い方に不安を覚える初ギルド依頼に、『米』入手が目の前に見えた俺は最強だと言い聞かせるのだった。
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