第34話 あなたのためなら
一針、一針に心を込めて……なんてことはないけれど、一応リストの事を考えながら作っている。ギルバードがリストのを作って良いと言うのなら……俺の凄さをリストに存分に見せつけてやりたい。あいつ俺の事バカにしてるからな。
俺の使っているのはオーソドックスな肩掛けタイプだけれど、激しく動き回るリストはベルトに取り付けるポーチ型の方が便利かもしれない。魔物を狩ることが多いし、容量は大きめで時間経過無しの方が都合がいいな。
リストからの希望のあったキングシャドーシャークの皮をギルバードから預かっている。自分が死にかけた原因の魔物の皮をわざわざ使うとか悪趣味だ。
いくつかの魔石、皮に魔力を通して組み合わせ完成形を想像し……ああ、そうだ。リストは脳筋で魔法の素質が全くないからな。
ついでにもしもの時は結界魔法が発動するようにしてやろう、ついでに浄化魔法も掛かるようにしておけば、汗まみれの体を押し付けられることもなくなるだろう。
俺の迷いと共にぐにゃりぐにゃりと形を変えるキングシャドーシャークの皮は次第にその形を具体的な物へと変えていく。
パッと一瞬眩しい光を放ったその後には、想像通りのポーチが出来上がっていた。リストの瞳の色の様な紫色のポーチ……あれ?
出来上がったポーチを早速リストに持って行こうかと思って椅子から立ち上がろうとして逆に机に突っ伏してしまった。
「力入んない……」
魔力を込めすぎただろうか?しばらく休んでおけば元に戻るけど、もうすぐ夕飯の時間である。こんなになってるの見られたらまあたギルバードに怒られてしまうな。
依頼中も一度倒れて……注意されたばかりだ。
ギルバードがずっと抱きしめてくれていたっけ?ギルバードに抱きしめられていると守られている安心感を感じる、そしてとても暖かい。
一人でぼんやり回復を待つよりも……あの温もりに包まれていたいなんて考えてしまう。
ギルバードは……ギルバードへのマジックバッグも作ったら喜んでもらえるだろうか?ギルバードに作るならどんな物かな……髪の色に合わせたミルクティー色かな?瞳に合わせるなら金色だけど、金色のバッグのイメージではないな。黒だろうか……俺の……僕の……マスターの黒い……髪の色。
僕のベルト、ココドルナの皮を使おうかな溶岩の中に住んでいたデカいワニ……マスターが僕を守るために作ってくれたベルト。今度はマスターを守れるように……リストのものよりももっともっと容量は大きく無制限で、時間経過はなく、そしてとっておきの機能を……マスターを守れるように、もう二度とマスターを離れないように……。
ゴロンと石が転がる音が遠くに聞こえた。
ーーーーーー
あったかいなぁ。
まるで縁側で日向ぼっこでもしている気分。
「……自分の限界をちゃんと覚えてと言ったばかりでしょ」
突然響いた声に驚いて目を開くと、ギルバードがこちらを見下ろしていた
その顔は呆れでも怒りでもなく、仕方ないなと子供を見守る親のような目。
あの温もりに包まれていたいなんて考えが見せる幻だろうか?
前髪をかきあげるように撫でられた手はとても暖かい。
「すみません。マジックバッグを作っていて……気がついたら……」
「俺があんなお願いをしちゃったからか、そんないますぐにって話じゃなかったんだけどね。今日は依頼でも魔法を使っていたでしょ」
そんなに魔力を使った気は無かったんだけど、やっぱりマジックバッグ作りかなぁ。前は一日に何個だって作ってたはずなのに。
「リストのだけじゃなくギルバードさんのも作っておきたかったんですけど……」
「俺の?」
「一緒に冒険……行くなら必要」
温もりを求めてギルバードの体に頬を擦り寄せる、これはギルバードの特殊能力のせい……。
ーーーーーー
気を失いつつも俺はギルバード用のマジックバッグを作り上げていたらしい。
これぞ職人魂か。染みついた社畜魂かもしれない。
黒く独特な鱗の模様の小さなポーチ……とベルト。少し細くなった気もするが、素材としてつもりだったベルトを締め直した。防具屋の店主によるとかなり良い物らしいから無くならなかったのは助かる。
「本当に俺が貰っていいのか?多分……国宝級の物だと思うけど」
出来上がったポーチをギルバードは引き攣った笑顔で眺めている。
「ギルバードさんの為に作ったのにギルバードさんが使ってくれないと困りますよ」
リスト用に作った紫のポーチを自分のマジックバッグへと仕舞い込み、夕飯の支度でもとアイテムボックスから食材を選ぶ。遅くなっちゃたし簡単に出来るものがいいなぁ。
アイテムボックスの中には肉、肉、肉。今日の依頼は毛皮の採取が多かったから肉が余っている。全部ステーキにしてもいいけど、どうせなら……。
「ギルバードさん、広場の焼き場を借りてもいいですか?ゴレンさん達皆さんも帰ってきてますよね?」
どうせ匂いでみんな集まってきてたかられるなら、最初からみんなの分を作っておくほうが楽だ。
ホームベーカリーにパンの材料をセットして焼いておく……なんて事はしなくていいので材料を入れて数秒で出来上がるパンを10斤分用意してから広場の簡易厨房へと向かった。みんなで解体して、肉を焼くために用意された場所なので、個人の家のキッチンよりかなり広い。
「「あ〜!!カズキくんにゃ!!」」
コスプレ成人男子の語尾「にゃ」はなかなか痛いが見た目のおかげでギリセーフ……セーフか?と苦笑いしつつ、双子の猫獣人もどきに軽く手を上げ挨拶をした。
双子の前には大きな肉塊が3つ。
これから切り分けて焼いていくところだったらしい。
「サーラとノートンは報告書をまとめてるから」
「僕とナルとゴレンが食事番だったんだけど……」
双子はフクフクと顔を見合わせて笑っている。
「「カズキくんがきてくれたなら全部お任せできるにゃー!!」」
……でしょうね。ここの人達食べるの専門、みたいな人達の集まりですもんね。
もとより期待していなかったので、特に嫌なわけではなかったが、嬉しそうに両手を上げた双子の頭に大きな拳骨が落ちる。
「「イダッ!!!!」」
「おい双子!!自分の役割を人に押し付けようとすんじゃねぇ。悪りぃなあ、カズキ」
体格の全く違うゴレンの拳骨を受けても「痛い」で済むのは双子のそれなりの強さなのだろう。
「だって僕らが作るよりカズキくんが作る方が美味しいじゃんかぁぁ」
「そうだよ、サボりじゃなくて適材適所だよぅ」
真っ当な事を言っているようだが、二人で「頭の硬い親父は嫌だよねぇ」とかニヤニヤ言い合ってるところが人の神経を逆撫でするのだろう、ゴレンにもう一度拳骨を食らっている。もしかしてわざとなのだろうか。
「カズキ、こいつらコキ使ってもらっていいからな」
双子の首根っこを掴んで差し出すゴレン、そういうゴレンの中でも俺が飯を作るのは決定しているってことね。
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