第33話 ランクアップを急ぐ理由
早く……早くDランクへと昇格せねば。
そんな気持ちが込み上げてきて居ても立っても居られない。
「リスト締め上げて、1日2枚の制約を取り消させてきます」
「え!?カズキ君!?ちょっと待って!!」
リストは……家にはいない、敷地内にはいるみたいだ。鍛錬所か。
敷地の端にある鍛錬所、壁が物理強度と魔法耐性の強い素材で作られた道場のような場所。軽く紹介されただけで俺はまだ使用した事ないけれど、そこにリストはいた。
大剣をひたすら素振りしている所に、邪魔をしては悪いな……という気持ちも無くはないが、こちらも急ぎの用なので割って入る。
「リスト、昨日の約束だけどやっぱり破るわ」
背後から声を掛けると剣を振るうのを止めてリストが振り返る。全身から汗を流す姿、さすが正義感あふるる熱血漢。ひたすら汗を流すなんて、俺には真似できない。
「昨日の約束?」
「依頼は1日2枚迄ってやつ。急いでDランクになる必要が出来た」
米が俺を呼んでいる。
「あ?ああ……昨日、そうか昨日か」
頭をかきながら近づいてくるリストに、俺は一歩後退する。だって髪から汗が飛んでんだもん……風呂に……いいや、浄化魔法かけちまえ。
こっそり浄化したのに当然気付いたらしく、不思議そうに自分の身体を確認している……汚いと無言で言っている様なもんだけど、いつもの勢いで抱きつかれでもしたら堪ったもんじゃないからすまん。
「ありがとな!!さっぱりする、便利な魔法だな」
「どういたしまして……」
素直にお礼を言われると、少し良心が痛むな。
「どうした?昨日は納得してたじゃないか」
「どうしても急いでDランクになる必要が出来たからさ……早くフォイト湿地へ行きたくなった」
「……あの本に刺激されたか!!わかるよ、俺だってあの本のおかげでこうして冒険者としての人生を手に入れたからな」
嬉しそうな笑顔に、リストにとってもあの物語が特別な物だと言うことがわかる。
「しかし意外だな。お前なら俺の話なんて無視して決行すると思った。こうしてわざわざ伝えに来てくれるなんてな」
「もし協会の人らから面倒なツッコミをされたら、言い訳をするのはお前だからな。ちゃんと誠意は見せないと……」
協会の反応など無視しても良いが、いろいろ怪しまれてランクアップに支障が出るのは困る。
「それの何処か誠意だよ……あ〜……マジかよ。そういうのは苦手なんだよ。だから制限を付けたってのに……」
「そういう事なら俺が同行しようか」
「ギルバードさんが?」
飛び出してきた俺を追い掛けて来てくれたギルバードからの申し出。確かにリストよりもギルドマスター直々の方が協会もあまり突っ込まないか?
リストと一緒の時よりもギルバードと一緒に依頼をやった時の方が協会からの話はすんなり通った気がする。
「俺の魔力操作でね、魔力をその相手に合わせると多少心を操作出来るんだよ。操作って言っても……多少心を許すってレベルのものだけど」
やっぱりギルバードは人の心を操作出来るのか!!道理でね、納得、納得。
「魔力を合わせると無意識に味方認識っていうのかな……相手の懐に入りやすくなる。逆に相性の悪い魔力へ変えると頭に血を上らせて正確な判断を鈍らせる事も出来る。人も魔物もね」
そんな力のおかげだけでSランクなんて大層なもんだよねとギルバードは笑うが……そうだろうか?
「純粋な強さならリストの方が強いだろうね」
「そんな!!滅相もない!!」
恐縮して否定するリストの言葉に俺も賛成だ。自分の考えがおかしくなるっていうのを差し引いても……ギルバードには底の見えなさがあって、どちらかと戦う事になれば、断然リストと戦うことを選ぶと思う。
「ギルバードさんはその能力が無くても十分強いと思いますし、人を惹きつける力もあると思います」
リストがこれだけ傾倒しているのだから、きっとそれだけでは無いと……この二人は『食いしん坊』という共通点での強い絆もありそうだけど……。
「ありがとう……君は……君が君であった時……どういう判断をするんだろうね」
そう言って俺の頭を撫でながら笑った顔は、少し戸惑うような、寂し気な……いつもとは違う笑顔だった気がした。
ーーーーーー
「どうよ、リスト!!」
小さなプレートにはしっかりと『E』と刻印されている。
一気に8つ依頼を達成してランクアップの審査を受けたが、特に協会から何かを問われることもなかった。ギルバードは心を好意的な方へ向けさせられると言っていたが、側から見ていると無言の圧力としか感じなかったけども、何はともあれ無事にランクアップできたのでよしとしよう。
リストに対しては何とかして彼女の座をと狙って見える受付嬢達もギルバードに対しては恐れの方が強そうに見える。そこがAランクとSランクの威厳の違いか、性格によるものなのかは分からないけれど。
「ギル様に迷惑かけてないだろうな?」
褒めるより先に呆れ顔でリストは深い息を吐き出す。
「失敬な。褒められこそすれ迷惑なんてかけてないよ」
大型の魔物用に解体機を大きく新しく作ったのは絶賛されたし、石から魔石を作るのだってギルバードから直直に魔石の調達をお願いされちゃったもんね。
「あ、そうだ。マジックバッグ……リスト用にってギルバードさんからお願いされたんだった。好みの革とかある?」
「は?え?俺の??」
「リストの武器……本当は大剣が得意なんだろ?移動に向かないからって、本当のリストの実力ならSだって狙えるってギルバードさんが言ってたよ」
リストの訓練の様子を話題にした時にギルバードに説明をされたんだけど、確かにあの大剣を持って道なき道を長距離移動するのは邪魔になるだえろう。荷物は武器だけではないだろうし。
「マジックバッグを持てるのか?俺が?」
「ああ、それで一緒に冒険しような。楽しみだな」
「っ!!」
カツ丼とか牛丼とか可能ならカレーライスなんかを食べさせたら、リストはさぞ良い反応を返してくれることだろう。ああ、楽しみだ。早く、早く米を手に入れたい。
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