第31話 【リスト視点 2】

ベッドに横たえられた姿はただ眠っているようの見えるが、ギル様に聞かされた通り息をしていない。


いや、通常時から元々息はしていないのだと教えられた。

人間にしか見えないは魔力で動く魔導人形なのだとか……。


見せつけられた凶悪な力も、今は魔力切れを起こして静かに停止している。彼の魔力の源だとかいうペンダント型の魔導具をギル様が取り外したので魔力を回復こともできずに数日間、眠り続けている。


目覚めさせるかどうかギル様も悩んでいるようだ。


「カズキ……お前は……」


一体何者なんだ?何をしようとしているんだ?

ギル様に相談をされたが……俺もカズキを目覚めさせていいものか悩んでいる。


------


【お気楽冒険者と行く魔物グルメ旅】


遺跡より発見された魔導具に残されていた、ある冒険者と従者の記録を本へと書き写され、その内容から子供向けとして広まった物語である。


『チート』と呼ばれる完全無比な能力で軽快に凶悪な魔物たちを退治していくのが主なストーリーなのだが、魔物を使った聞いたこともない料理名と食事風景は想像するだけでも口の中に唾液がたまる物だった。

そしてかつてのこの世界を思い起こさせる風景の描写は、多くの子供たちを冒険の旅へと誘ったものだ。


実際に今の冒険者たちの中にもこの本を読んで冒険者を目指したものも少なくない。俺もギル様もその内の一人、冒険者と従者の作り上げる料理に憧れて、いつか彼たちが食べていた料理を食べてみたいと一緒に夢見ていた。彼らが『最高』と評価をつけた『ドラゴンの肉』をいつかこの手でと、語り合ったっけ。


主人公の名前はなんだったか……書き写した人間によって微妙に異なっていたんだよな。


「リストッ!!」


勢いよく扉が開かれ、慌てた様子のギル様が俺のすぐ目の前、顔がつかんという距離まで詰め寄ってきた。珍しくとても興奮しているように見える……出会ってお互い【お気楽冒険者と行く魔物グルメ旅】に憧れて冒険者になったと夢を下当たりあった時、一緒にギルドを立ち上げようと誘われた時のようだ。


「メイビがっ!!国が管理する図書館に忍び込んだ時、立ち入り禁止区域でお気楽冒険者と行く魔物グルメ旅の原作を見つけたらしい!!」


「お気楽冒険者と行く魔物グルメ旅の原作!?本当ですか!?それだってもう数百年も前の物だと、どの国が所属しているかなんて情報は……大体立ち入り禁止区域って……」


メイビだったら可能かもしれない……なんせ彼の能力は『隠密』。自分でどうとかできる物でないらしく、いつも周りから気づいてもらえず泣いていた。

彼の気配を察知できるのはギル様だけだったので、カズキが普通に彼を認識していたのには皆驚かされたが。


「メイビが書き写してくれてきたんだが……これを見てくれ」


テーブルの上に広げられたたくさんの紙。


「これが原作?」


読んでみるとそれは原作というよりも……。


「覚書?」


大切な事を忘れないように雑多に書き記しただけの文字の羅列に見えるが……でもところどころで書かれている魔物の名前や料理名には確かに覚えがある。


「恐らくこれは、お気楽冒険者と行く魔物グルメ旅を書く為に、都度記していた記録なんじゃないかと思う……どこにもタイトルがないから結び付けられなかったのかもしれないが……メイビが気になって記してきてくれた部分はここだ」


ギル様が興奮したように指差したところには……。


『あ〜カツ食いたい、トンカツ……チキンカツもいいな。ああ、エビフライにアジフライ……海鮮系書いてないしエビフライにするか。パン粉、揚げ油とあとなんだっけ?』


「カツ?」


「そうだよ!!『カツ』だ!!物語には出てこなかった料理、『カツ』をカズキ君は作ってくれたんだよ」


ああ、ギル様のこの子供のような表情も懐かしいな。

興奮するギル様に気を取られてしまうせいか頭がうまく回らないぞ?


物語では語られることのなかった、メモ書きに書かれていた料理をカズキが作った……つまり?


「そしてね……」


紙の束から嬉しそうにその一枚を探し出し、差し出されたそこに書かれていた言葉は……

『カズキ…カズー、カズ?』

『アル…アルフ、アレフ、アレキサンドリア×』


「主人公と従者の名前……あの話を残したのは『魔導具師カズキ』だったんじゃないかな。あの物語を書いたのは異世界人……それなら他のどんな歴史書にも書かれない料理も納得がいくし、、名前も当てはまる」


「カズキがあの物語の登場人物だと?」


カズキが主人公……いや、カズキはカズキで、カズキはアルで……。


「『災厄の転生者、魔導具師カズキ』の印象と『お気楽冒険者と行く魔物グルメ旅』の印象が違いすぎて繋げて考える人がいなかったんだろうけど……」


二人で並んで眠り続ける小さな災厄を見下ろした。


「リスト、もしこの子の主人が魔導具師カズキであり魔物グルメ旅のカズーであるなら、この子が遂行しようとしている『マスターの願い』とは……」


ギル様が口にしようとしている言葉の予想はつく。


何度も何度も親にせがんで読んできてもらっていた。

文字が読めなくても口にできるほどに……。


「「ずっと二人で、一緒にこの世界の全てを旅しよう」」


ずっと二人で……

ずっと一緒に……

どこまでも……

いつまでも……




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