第28話 目指すはDランク!!

Fランクになり依頼内容も多少変わるのかと思ったけれど、目立った違いはなく、納品アイテムの個数が増えたりとかその程度だった。Eランクへ上がるための依頼達成数は10回。


リストはDランクを急かすが、依頼数は一日二枚までと限定してきた。

他の初心者は一枚の依頼に一日かける物だとかなんとか……そんなわけでEランクへ上がるまでは最短でも5日はかかる。


別にリストの言葉に従わなくてもいいのだが、急ぐ必要もないのなら家でのんびりするのもいいだろう。

小銭を稼げたし作ってみたい魔導具もあるんだよね。


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「『鉱山から鉱石の運搬』と『リューン草の採取』か……いいんじゃないか」


ただし、マジックバッグは使うなよと釘を刺された。

つまり、採取にアイテムボックスを使うのもなしか。


街を出て北へある鉱山へ向かいながらリストからしつこく注意を受けている。


Fランクになったが監視の目がなくなることはなく、ゴレンもサーラも怠がりなメルとナルさえ、数日依頼で会えないねと言って出かけていったというのに、リストは依頼に出かけなくていいのだろうか?


「俺は一人でもやれるって、いざとなれば拠点にはギルバードさんだっているんだろ?」


ギルバードは他のメンバーよりも拠点に残り、ギルドの資金の管理とか依頼主との取り引きだとかを請け負っているらしい。困ったら相談に行けるからリストは俺のことは気にせずに依頼なり食材集めに勤しんでくれていい。


「ただでさえうちのギルドは敬遠されてんのにお前が暴れ回ったらさらに依頼が遠のくわ」


「失敬な、暴れないよ」


あの自由なメンバーに比べたら俺はかなり優等生だろうが。

昨夜も交流を深めてみようかと気構えていたのに誰もまともに話を聞ける状態じゃなかった、ギルバードすらだ。

食事一つで大袈裟な……と思うが魔物肉探求ギルドの本質だけは見えた、全員ガチだ。


「協会からの依頼でやってきました」


鉱山の入り口にいた男に依頼書を見せて、運ぶ予定の鉱石まで案内してもらう。台車は借りられるとのことなので手ぶらできているが……。


「坊主みたいな細っこいので大丈夫か?怪我させるわけに行かないからな、何度往復してくれてもいい、ここに積んでいる箱から鉄鉱石を5箱、石炭を10箱をフルジラール鍛治組合まで納品を頼むぞ」


鉱石の集積所には沢山の箱が積み重ねられていたが

鉱山から各街の鍛治組合まで運ばれるらしいが、俺が依頼を受けたのはフルジラールへの運搬だけなので15箱でいいらしい。


鉄鉱石……はこの辺のか……。


「重てぇからな、ゆっくり運べ……よ……え、片手?」


「……カズキ」


台車にちゃんと指定された箱を積んでいるのだがリストに止められる。


「何?鉄鉱石5に石炭10だろ?間違えてないはずだけど」


「いや、そういう問題じゃねぇんだ……もう少しゆっくりでいいんだよ」


最後は耳打ちするようのそう告げられた。

普通は1日かけて往復しつつやる仕事だからとも……この街は王宮と違ってのんびりしているんだな。


早く早くと数をこなす事を要求されることに慣れすぎて『のんびりまったりスローライフ』とは案外難しいものだと感じた。


スローライフかぁ……。

台車を引きながら太陽?こっちではマシャルとかいう女神の名で呼ばれていたかな?その暖かな光を浴びながらのんびり山を下っている今も割とのんびりしていると思うんだけどな。


フルジラール鍛治組合まで台車ごと納品を終えて、リューン草の採取へ向かう前に一旦拠点へと戻ることにした。


うるさいリストに俺の本気のスローライフを見せてやろう。


------


リューン草の自生地域はレーデル高原だ。

高原はいいね、俺の目標にもぴったり。


根は残すということなので、丁寧に刈り取った大量のリューン草を高原に敷いた布の上に座ってゆっくりと十本を一束にまとめて縛っていく。これを30束。


単純作業に暇そうにしているリストからも文句はなく、順調に30束は集まった。残りはの追加で買い取ってくれるそうなので束ねていく。


「眠そうだな……そろそろ昼ごはんにするか?」


60束ほどできたところで手を止めてリストに声をかけると嬉しそうに顔を上げた。ご飯に反応する大型犬。

作業を中断させてリューン草をマジックバッグにしまうと、代わりに先ほど用意してきた昼ごはんをマジックバッグから出すふりをしてアイテムボックスから取り出した。どうよ、俺だって頭を回せるんだよ。


アイテムボックスの方が時間経過がなく、出来立ての味を楽しめる。

穏やかな天気に高原でランチ!!これぞスローライフだろ!!


「俺の特製弁当様だ!!泣いて跪け」


ネットで見てたSNS映え弁当を意識した俺の渾身の作品を見るがいい。


料理の痛みを抑えるために浄化と時間経過無効を付与したお弁当箱を開けるとリストの瞳は少女漫画の乙女のように星を瞬かせた。


自作のマヨネーズで作った卵サンドにジャムとクリームのサンド、そして昨日好評だったカツサンド。おかずは卵焼きとポテトサラダと唐揚げに野菜の肉巻……おうぇっ!?


リストは食べる前からもう男泣きを始めていた。いや、泣いて跪けとは言ったけれども……。


「な……なんだその『弁当様』?そんなすげぇもんがこの世に存在していいのか?」


あぁ……弁当の文化ってないんだっけ。

そもそも品数を多く食べる習慣がないみたいだな。


弁当箱を動かすとリストも顔を動かす。右、左、上、右……やべぇ楽しい。その反応は初めて魔導具を渡した時以上の反応だ。


「あ〜……一緒に食べよ?」


十分遊ばせてもらったので、弁当箱を差し出すと思い切り抱きつかれた。

あっぶねぇ!!俺じゃなかったら弁当ひっくり返してたとこだ。


「カズキっ!!カズキィィっ!!お前に出会えて良かった!!心からそう思う!!」


「わかった、わかったから食べ「本当に……お前に出会えたことにマシャルへ感謝する……」


ゆっくりと近づいてくるリストの顔。


「うっ……くぅぅぅん……」


覆いかぶさってきたリストの体から逃れようと、弁当箱に注意しながら押し返す。


「お前は食欲と性欲が直結してんのか?いつまでもうずくまってないで飯食うぞ」


下半身を押さえてうずくまるリストの背中をゲシゲシと踏みつけてやる。


「ひ……でぇ……急所を躊躇いなく狙いやがって……」


「おイタをするペットには躾が必要だろ」


「誰が……ペット……」


手加減したつもりだがやりすぎただろうか?仕方ないのでリストの腰に手を当てて回復魔法をかけてやった。


さぁ、ピクニックの再開だ。

めいっぱい楽しむぞ、スローライフ!!

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