第27話 激しい晩餐

揚げて、揚げて、揚げて……揚げたものは冷めないようにアイテムボックスへ収納し、途中からフライパンを二つに増やしてカツを揚げまくった。ゴレンたちが戻ってきた気配も感じたのでさらに揚げて……シープトン3頭分ぐらいは揚げたのではないだろうか。


「「いただきますっ!!」」


こういう行儀だけはいいメンバー達は手を合わせていただきますが終わった瞬間全員のフォークが狩りかというぐらい勢いよく動き、そしてみんな大きな口で目の前に用意されたカツにかぶりついて……あれ?もっと大きな反応が来るかと思ったが皆無言で、手も止まってしまっている。

そんなに不味かっただろうか?味見した時はいい感じだと思ったんだけど……不安になって自分の皿の分を食べてみるが、うんサクッと揚がっているし、お肉の脂も溢れ塩胡椒の塩梅もいい……よね?


「美味しくないですか?」


異世界漫画とかだとこういう時『うおぉぉぉぉっ!!うめぇぇぇっ!!』みたいな反応で、それを想像していたんだけど、なんかみんな通夜っぽいんだけど……隣に座り俯き加減のギルバードの表情を恐る恐る覗き込んだ。


え……?ええっ!?泣いてる?あのギルバードが!?

周りを見ると皆カツを咥えたまま泣いている。所作だけは上品なサーラさんすら……。


ずっと固まっていたギルバードが突然顔を上げて両手を握り締めてきて……その表情は、いつもの余裕のある笑顔ではなく、まるで宝物を見つけた少年のようなキラキラとした笑顔。


「美味しくないなんてことあるわけないでしょ。カズキ君……君は天才だよ。この……『カツ』と言ったかな?こんな料理は初めてだ!!ありがとうカズキ君!!」


「この衣?のサクサクサックリとした心地よい歯ごたえ!!」


「肉は簡単に噛み切れるほど柔らかく、そしてこの溢れる肉汁!!」


「脂の甘みに刺激を足してくれる香辛料が食欲をそそる!!」


「付け合わせの野菜が一度口の中をリセットしてくれるから何枚でも食べ続けることができるわ!!」


「ああ!!喋ってこの味の余韻が逃げてしまうのすら惜しい!!」


「美味しい!!美味しいです!!俺の分までちゃんと用意してくれてありがとう!!」


「「何このパン!!外はパリッと中はすんごくふんわりー!!」」


通夜のように黙り込んでサメザメと涙を流していたメンバーが、ギルバードの言葉を皮切りに、立ち上がりまるでミュージカルでも演じるかのように次々と手振り身振りをつけて語り出した。


美味シイッテ言ッテモラエテ良カッタァ!!


……うん、やっぱ変だわ、この人たち。


え?まさか仲間って、俺もいずれこの中に加わらなきゃならないのか?それは本気で脱退を考える。


一人一人のプレートの他に、真ん中には大きな皿で5枚分山盛りにおかわりのカツを用意していたのだが、ものすごい勢いで減っていく。


無駄な会話など何もない。

メンバーの動きを読みながらフォークを伸ばす姿、真剣な眼差しは殺気すら感じる研ぎ澄まされたもの。


その姿、この光景は『戦闘』だった。

そこにあるご馳走との戦闘、奪い合う仲間との戦闘。


それはいつも、あれだけ敬愛しているギルバードに対するリストの姿も同じだった。


食卓という戦場では尊敬や愛情も関係ないということか……

ドラゴンステーキ……おそるべし。


流石に人の皿のものにまでは手を出してこないらしく、俺は目の前の光景を無視してのんびり食事を楽しめている。


うん、さすが俺だよね。

シープトンカツの揚げ具合もバッチリだ。

酸味の強い果汁とキャベツに似た野菜とで作った即席漬けもさっぱりとしていて美味しい。

食パンでカツとキャベツ漬けを挟んで……ソースがあれば満点だったな。


隣を見ると、同じ様に真剣な眼差しで食べてくれるギルバードの姿があった。良かった、ちゃんと美味しくできていて。




『ありがとうだって……マスターにありがとうって……マスター、僕は幸せです』

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