第25話 Fランク昇格を目指して

Gランクの依頼というのは、冒険者というよりは街の何でも屋のような依頼ばかりだった。昨日のお婆さんの荷物運びもそうだし今日のこの依頼達もそうだ。

『薪を20束納品』『ゴミの焼却処理』『迷子のペットの捜索』『シープトンの素材の確保5頭分』。


他にも街中の水路の掃除だったり、農園の収穫の手伝いとか……。

人前に出る仕事はなるべく避けて選んだ結果がこの4枚だった。この依頼を達成できればランクアップの為の審査を受けることが出来る予定。


一番手間取りそうなのは……ペットの捜索だろうな。


「ペットって言ってもどんなペットなんだと思う?」


依頼書に書かれている場所へ向かいながらそれとなくリストに訪ねてみた。俺の感覚では犬や猫なんだけど、この世界も同じなのだろうか?


「さぁな、でも協会がGランクに指定したってことはそんなに凶暴な魔物じゃないだろな」


「魔物をペットとして飼うのか?それって大丈夫?」


「一応冒険者協会と自警団への届出は必要だ。許可が降りたらだな。結構いるぞ?冒険者で捕まえた魔物を連れ回してるのは……うちはすぐなんでも食料になってしまうからペットを連れている奴はいないけどな」


食い意地張りすぎ……情より食欲ですか……らしいといえばらしいが。


------


「これがにゅうちゃんの特徴です……」


依頼主から渡されたペットの『にゅうちゃん』の特徴が記されたメモを見て、俺だけじゃなくリストも絶句した。


難易度高すぎないだろうか……。

・種族…スライム

・体色…少し薄めの水色

・特徴…真正面から見て核の右側が少しだけ大きい


スライム真正面ってどこ!?

せめて写真なんかがあればと嘆くが……あるわけもなし。


依頼者と別れてマップを起動させて『スライム』を探すと街の中だけで50匹以上のスライムの反応があった。スライムはペットとして飼いやすいのもあるが、街の中にいたところで脅威にはならないので放置しているのだとか……。


試しにマップで『にゅうちゃん』を探してみたけれど反応はなかった。やはり俺が『にゅうちゃん』を認識してないからだろう……仕方ない、面倒だが1匹1匹当たってみるしかないか。せめて街の中にいてくれたら助かる。


1匹目、色は……薄いのか濃いのかもよくわからん。わからないので捕まえて2匹目の元へ。見比べてみると1匹目の方が薄そうな気がしなくもない……こともない……ので2匹とも捕まえて3匹目は他の人のペットだったので4匹目の元へ……。

そんなこんなで50匹全てを巡り、なるべく特徴に合致すると思う子を6匹連れて依頼主の元へ戻った。


「どうでしょうか?にゅうちゃんはこの中にいますか?」


「ちょっと待って……う〜ん……『にゅうちゃん』」


飼い主の名を呼ぶ声に6匹ともがポヨンポヨンと反応を示す。所詮スライムだからな……っていうか飼い主だってこれ、自分の子をわかってなくないか?


「この子!!この子な気がす…この子がにゅうちゃんよ!!」


絶対適当だろうと思ったが、依頼達成のサインはもらえたのでよしとしよう。


「想定より時間かかっちゃたな」


「ああ、まさかスライムとはな、あれ絶対飼い主も見分けついてなかったよな」


リストから見た印象も俺と同意見だったようだ。


「まあおかげで街の隅々まで知ることができたけどさ」


路地裏に、ちょっと気になるお店もあったので今度よってみようかな。

少しでも時間を短縮したいので次の依頼場所、街から少し離れた岩山へと走った。そこには大穴があって街のゴミが集められているので魔法で焼却するのが仕事らしい。


「えっと……俺が受けたのは第3から第6だな」


穴ごとに番号が振り分けられていて、今稼働しているの第7の穴がゴミで埋まると次の穴へと移動して埋まった穴のゴミはこうして焼却の依頼が出されるのだとか。

これは出来高制らしく、一回の依頼で何%燃やせたかを職員に確認してもらうことになるらしい。目視、アバウト、もう慣れた。


「しかし、匂いがきついな。たくさん雇って一気に燃やした方がいいんじゃないか?不衛生だし」


「ランクの高い魔法使いなら1日で燃やし尽くせるが……そんな高ランクの魔法使いがゴミ処理なんて請け負ってはくれないんだよ。新人の中でも不人気の依頼だし……ゴミは溜まる一方らしい」


なるほど……か?

高い報酬を払ってでもすぐに焼却した方がいいと思うんだがな。


第3の穴へ向かうと穴の半分くらいの量のゴミが溜まっていた。燃やし終わったらここの職員を呼びに行けば確認してくれるとのことらしいので、魔法を使う姿を見られる心配はなさそうだ。


「カズキ、張り切りすぎるなよ」


「わかってるよ……」


大体1時間で10%燃やせたら上出来らしい、ただ1時間も魔法を使い続けるなんて新人に対してなかなか過酷な依頼じゃないだろうか。1時間もこんなとこで魔法を使うのか?え〜……面倒。


そんな思いが魔法に乗ってしまったのか、俺の手から放たれた火の球はゴミへふれた瞬間に巨大な火柱となって穴から噴き上がった。


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「俺は加減しろって言ったよな……」


非難まじりのリストの視線が痛い。


「加減はしたんだけどな、めんどくさいが全面に出てしまった。これはもうあれだ、事故だよ不意の事故」


「何が事故だよ……職員がちょうど席を外しててみてなかったから良かったようなものの……」


俺の起こした火柱は一瞬で穴の中のゴミを消し炭に変えてしまった。


「いいじゃん……なんとか誤魔化せたんだし。ゴミを片付けられた事は良いことだろ?」


自分に分が悪過ぎるので、逃げるように次の依頼場所へと走り出した。


シープトンの情報は協会の依頼書にも書いてあるので場所を特定するのは楽だった。

トラニ平原をマップで検索して、後は魔物の反応のある場所へ向かえば良いだけだが……トラニ平原は魔物が多いな。


「お前は平原の魔物を狩り尽くす気か?」


「シープトンの気配をまだ認識出来てないんだから仕方ないだろ?」


手当たり次第に出会う魔物を殴ってはマジックバッグに詰めていく。一度覚えた魔物は名前がマップに表示されるようになるのでけして無駄ではないぞ。


ちゃんと倒した魔物は素材として使わせてもらうつもりだからな。


「……程々にしとけよ。ったく、早くDランクに上がってもらわなきゃ庇いようがない……」


「あ、あれがシープトンか」


丸々とした羊の様な毛を持つ魔物だった。依頼は5頭分だが……あの毛で毛布を作ればそれはもう最高の寝心地なのではなかろうか。


俺のただならぬ物欲を察知したのか、ビクッとシープトン達は体をはねさせると一目散に逃げ始めた。


「待て!!俺の布団!!」


手を翳すと地面から突き出した岩のトゲが逃げ出した十数頭のシープトンの体を突き刺した。

うん、イメージ通りだ。名付けるならストーンエッジとかそのあたりかな。


「走ってる魔物に向けて心臓一突きかよ……エグ……」


「なるべく苦しませ無いようにって優しさだろ?」


リストと共にシープトン達の死体へと近づいた。狙い通りに急所へ攻撃出来てる。

魔法で作り出した岩を消し、ドサドサと地に重なるシープトン達をマジックバッグへ詰め込んでいく。


協会へはこのまま渡せば解体もしてくれるらしいが、マジックバッグから取り出すのはまずいよな……一度拠点に戻って台車を……いや素材にしてしまってからなら手持ちで運んでいても怪しまれないか?いや、このあと薪を納品する依頼もあるからやっぱり台車だな。


リストがシープトンを見ながら腹を鳴らしている。


やれやれと呆れながら、適当に木を切り倒し拠点へ戻る事にした。


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