第24話 ランクアップへ向けて
ギルバードの家の玄関扉代わりにはリストから奪った盾が仮で取り付けられた
「いくらお腹が空いてたからって、ギルドマスターの家の襲撃はどうかと思うぞ」
「……うるさいな」
呆れ混じりにリストを見やると、リストはプイッと顔を背けた。玄関扉を大破されても許すなんてギルバードは寛大すぎるだろう。甘すぎだ。
「ったく、こっちは死ぬかと思ったっつうの……」
「何?」
ボソリと愚痴ったリストの顔を見上げるが、それ以上答える気はないらしく、唇を不満そうにぎゅっと結んだままこちらを見返してくることはなかった。
扉以外にも壁や床に傷がついていたので、後でお掃除ロボット2号を派遣しよう。ギルバードは他の人には内緒と言ったが、それは裏を返せばギルバードに対してならなんでも見せてOKということだろう。
「カズキ、今日の依頼は絶対俺がついていくからな!!」
「え、やだ。そんなに暇なの?」
冒険者といえば常に依頼なりで外を駆け回っていて街にはあまり腰を落ち着かせていないイメージがあるのだが、リストはGランクの依頼にくっついて回りたいほど暇なのだろうか。他のメンバーは依頼に出ているのかあの肉祭りから姿を見ていない。
「別にリストにサポートしてもらわなくても昨日の様子だったら余裕だよ」
強がりでも自惚でもなく本当に余裕だった。
4つ依頼をこなしても昼前には街に戻れたからもっと数をこなそうと思ったけどギルバードに止められて買い物と魔導具作りに没頭していたんだっけ。
「Fランクに上がるにはあと3つこなせば審査に通してもらえるから」
リストに気を使わずにサッと終わらせてしまいたいんだよね。
「だったら尚更俺がいた方が楽だぞ。Aランク冒険者のお墨付きなんだからその場で審査に通るはずだ」
「え……審査ってそんなガバガバなのかよ?」
もっと厳密にチェック項目とかあるのかと思ったら……もしかしてその時の担当者のご機嫌によっても左右される感じか?
「ガバガバってお前……普通Aランク冒険者が新人育成に手を貸すなんてないことなんだからな?お前の力がそれだけ特別なんだってことを……って、待って、人の話は最後まで聞いていけ!!」
「わかった、わかった。今日はよろしく先輩。でもその前にギルバードさんに届けたい物があるから本部で待っててくれよ」
リストを振り返ることなく後ろ手に手を振って自分の家へと急いだ。
Sランク冒険者であるギルバードの家に盗みに入るような命知らずはいないだろうけれど、ギルバードの家のドアをあのままにしておくなんてとんでもない。
お掃除ロボット2号を腕に抱くとギルバードの家へ急いで戻った。
「ギルバードさん……お掃除用の魔導具ですけど修繕の魔法も使えるので起動させておけば夜には綺麗になってると思いますので、よければ……」
余計なお世話だったろうか?好意を受け入れてもらえるだろうか?
「わざわざ届けてくれたの?午後には大工を呼ぼうと思っていたんだけど、ありがとう。助かるよ」
褒められるように頭を撫で撫でされ、リストにやられたらその腕をひねり上げるところだが、素直に嬉しくて自ら頭を差し出している。子供扱いされるのいつもはあんなにむかつくのになぁ……。
起動させると早速掃除を始めた魔導具の後ろをギルバードは興味深そうについて回っていた。気持ちはわかる。魔導具が通った場所だけ線を引いたように色も輝きも変わる様は、俺も最初に作った時に暫く無心で眺めていたもん。
「すごいねこれは……こんな魔導具が作れるなんてカズキ君は本当にすごいよ」
手放しにギルバードに褒められてむず痒いんだけど、とても満ち足りた気持ちになる。嬉しい、喜んでもらえたことがこんなに嬉しい。
リストが美味しそうにご飯を食べてくれると嬉しくなるのだが、それとは出どころの違う喜びが体を占める。
「今日はリストと一緒に依頼でしょ?リストは何を見ても他人に吹聴したりする人間ではないけれど……なるべく能力は隠して行動するんだよ?他の誰かと行動する時の為にもなるべく抑えて行動することを覚えてね」
「はい」
「いってらっしゃい」
何かのおまじないの様にぎゅっと抱きしめてもらってから、ギルバードに頑張ってと送り出され、意気揚々と協会へ向かいかけたが、リストに本部で待ってろと言った事を思い出して慌てて拠点へと引き返した。
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