第22話 【ギルバード視点1】

参ったね、こんなにワクワクしたのはいつぶりだろうか。


キングシャドーシャークの狩りの途中で消息を絶ったリストが連れ帰ってきた少年。彼はとても不思議な子だった。


ーーーーーー


「ギル様、お疲れ様でした。わざわざギル様が動かなくても俺に指示をくれればいくらでも……」


新メンバーのカズキ君の初依頼、リストが着いていく、着いて来るなと揉めている所に乱入して、俺が無理やりカズキ君の依頼に同行する事になったのだが……。


「彼は凄いね。常人とは比べ物にならないだろうと予想はしていたけれど、それを軽く超えてきてくれたよ」


カズキ君から打ち明けられた秘密。

それは……彼は『転生者』という重大なものだった。


「ギル様から見てもやはりそうですか……」


不安そうなリストの顔、彼がカズキ君をとても気に入っているのはわかるが、それ以上に彼の未知数の能力について不安もあるのだろう。カズキ君もリストには心をゆ許そうとしているのはわかる……があればという話だけれど。


カズキ君にはリストにも秘密と言っておいたが、これから無意識にその能力を表に出してしまうこともあるだろう、リストにはちゃんと話しておかないとな……カズキ君自信がわかってない事も含めて……。


「リスト、俺は君をとても信用している」


「は、はい!!ありがとうございます!!」


沈んでいた顔をパッと持ち上げて満面の笑顔を見せるリストの

こういうところをカズキ君も気に入っているんだろうな。


「カズキ君はね、俺に自分は魔導具が作れると教えてくれたよ」


「は……?」


一瞬にしてリストの笑顔がこわばる。


「そして……自分は転生者だと」


リストの顔から徐々に表情と血の気がひいていく。それはそうだろう。

冒険者としてAランクまで上り詰めた彼が知らないわけがない。


この世界に伝わる物語。

『災厄の転生者、魔導具師カズキ』の伝説を……。


「あ……あの、ギル様はその話を信じたのですか?だって彼は……」


◆◆◆◆◆◆


この世界が今の発展をみせる前に、一つの文明が滅んでいる。

その世界は魔導具が発達し豊な生活をしていたらしいと遺跡から発掘された魔導具に記録が残されていた。


魔導具がダンジョンから産出されるものという理は変わらなかったようだが、とある国が魔王討伐を理由に異世界から勇者を転生させるという秘術を成功させた事で世界は大きく変わった。


その秘術で転生させられた異世界人は3人。

勇者・聖女……そしてこの世界で唯一魔導具を作り出す能力を持った魔導具師。


世界の望み通り勇者と聖女は見事、その世界を脅かしていた魔王を討ち滅ぼした……が、魔導具師により強大な力を手にした王国は、周りの国を侵略し己が世界を牛耳ろうと不穏な動きを始め、魔導具を大量に生産し侵攻と虐殺を繰り返す王国は、いつしか勇者や聖女と敵対し合うようになった。


そしてついに聖女が凶悪な魔導具の前にその命を散らした。

転生者という人智を超えた力を持つ者を倒したことで士気の上がった王国の兵士たちの前で勇者は……闇へと堕ちた。


もう敵も味方もなかった。怒りのままに魔法を無差別に放ち、その力は大地を削る。


そうして殺戮の魔導具を排出し続けていた魔導具師も堕ちた勇者の手によってその命を奪われることとなった。滅びる王国、それでも勇者の怒りが収まることはなく……一つの文明は幕を閉じる事となった。


◆◆◆◆◆◆


そのが生きていて、長い刻を生き続けているなんてことはまさか俺の信じてはいない……だって彼は……。


「そうだな……俺にわかっている事は、彼は生きてはいない。彼は『魔導具』だ」


リストの体がグラっと揺れ、側にあったソファーに崩れるように座り込んだ。


「申し訳ありません。ギル様の事を疑うわけではないのですが……あまりにも……」


「そうだね。突拍子も無さすぎる話だ。でもね初めて彼と会った日、彼は呼吸をしていなかった全ての機能を停止させていた……それはおそらく魔力切れを起こしていたんだろう。彼に微かに残っていた魔力を注いだことで、彼は何事も無かったように活動を再開したよ」


申し訳なくなるぐらいリストの顔からは色が抜け落ちてしまっている。

微かに震えているのは……恐らく想像できた『恐怖の未来』


「よく出来ているよね。肌に触れた感触も温もりも人間そのものだ。傷をつければ血も流れるし呼吸をしているようにも。ただ……魔力の流れは人とは全く異なる」


普通の人間は大気中の魔素を取り込み、自らのうちから個々の魔力を作り出すのだが、彼にはその機能はない。彼は魔素を一切受け入れず、ただ一つの魔力しか受け入れなかった。魔力は人それぞれ微妙に異なり同じ魔力を持つものはいない……俺の特殊能力『魔力変化』でもない限り。


カズキ君は俺の言葉に背かない。


主人の魔力を受け、主人の命にのみを守り、忠実に動く。

それは古代の書物に残る『魔導人形』の特徴そのもの。


これが俺の所有する魔導具が見せたカズキ君の秘密だ。


「ギル様……彼は……」


不安に揺れる瞳が俺を見上げる。

怖いか、リスト。

それはそうだろう。かつて世界を滅ぼすきっかけとなった兵器を作り続けてきた魔導具師の使役する魔導人形だ。その力の強大さ、そして読めない目的。


彼が何を主人に命じられて、主人なき今、この世界に姿を現した目的とは。


「大丈夫だよ。彼が言う『自由に生きたい』と言うのは嘘ではないと思う。彼は彼の主人に似せた魔力を与える俺に嘘はつけないはずだからね。こちらが聞いていないことは答えていないかもしれないが……」


それは魔導人形の悲しい性とも言えるな。


「目的はわからない……ただ今わかるのは彼は主人である『カズキ』になりきり、『自由に生きよう』としていることだけだな」


「彼をそのままにしておいて平気なのでしょうか?」


何かのきっかけで暴走するかもしれない。何かのきっかけで主人の『命令』を遂行し始めるかもしれない。もしかしたらそれはこの世への『復讐』の可能性だってある。


「さあね、それは俺にもわからないな。カズキ君自身だってわかっていないと思うよ」


押し黙ったリストの肩に手を乗せ、自分の魔力の質をリストの魔力に寄せていく。人は自分と同じ魔力に無意識に警戒心を弱める……我ながらいやらしい能力だな。


「リストはカズキ君の事をどう思った?歴史に残るように残虐な魔導具を作り出す『災厄』だと思うか?」


「いえ……数日ともにいただけですが、他人を思うことも出来て、喜びも不快も同じように持つ人間らしい人間と思いました……フリをしていただけなのかもしれませんが……」


「そうだね。フリかもしれないが……恐らくあれが彼の主人、転生者カズキの本当の姿なんじゃないかと俺は思うんだ。歴史に記されていた中でしか知らなかった『災厄』の本当の姿」


歴史の中で『カズキ』こそ諸悪の根源とされていたが……本当は彼も『被害者』なのではないだろうか?


今日ともに過ごし、嬉しそうに自分の稼いだ金で買い物をして、パンを焼くなんて些細な魔導具を作って無邪気に喜ぶ姿こそ……魔導人形が見てきた本当の主人の姿なのではないだろうか。


「兵器となる魔導具の生産なんてやめて、自由に生きたい。それが悲しい魔導具師が魔導人形に託した『夢』だったんじゃないかな」


それは楽天的な願望かもしれない。

それでも……そんな気がしてならなかった。


「それなら俺たちがすべきことは……」


俺の伝えたい事を察してくれたのか、顔を上げたリストの表情には、もう迷いはなかった。

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