第21話 僕のすべてを……
「なぁんてね、ギルドマスターとしてなんて偉そうな事を言ったけど、単純に俺自身が君の力に興味があるだけ」
次の言葉を、身を固くして待っていた俺にギルバードはふわっと微笑みを向けた。
「僕の?」
「ノートン程ではないにしろ、冒険者なんてやってるぐらいだからね。見たことない物、知らない物には胸が高鳴るものなんだよ。君は俺が生きてきた中でも群を抜いて不思議な存在だ」
マップを浮かび上がらせていた左手を包み込むようにギルバードの手が添えられた。
「君の力を見せて?君は自分の特異性に気付いていないでしょ?その力が常識かどうかも教えてあげるよ」
「はい……」
ーーーーーー
ひと通り依頼をこなした俺を前に、ギルバードさんは頭を抱えている。
俺が自分でやろうとしていた方法をギルバードさんの目は気にせず見せてと言われたので、一人ならこうしていただろうと思う方法で依頼をこなした。
「ある程度常識からハズレているだろうと予想していたけど……予想外過ぎだったね」
ギルバードはそう苦笑いを浮かべる。俺だってもしリストが同行していたら抑えただろうが、ギルバードの願い通り全力でこなした。
「えっと……説明してもらっても良いかな?まずロモギ草は……」
ギルバードに見えない事は解っているが、マップを呼び出す。
「依頼を受ける時にロモギ草の見本は見せて貰いましたので、マップでロモギ草の位置を特定し、回収はアイテムボックスへ収納で済ませました」
「アイテムボックスなんて古代の文献にしか出てこない魔法だよ……」
そうなのか……転生者特典?
生きている動物は無理だけど、植物とかなら摘まなくても収納と念じれば収納できる事がわかったので一気に収穫してしまいました。
「ボアロフは……まぁ見てたからわかるけど……その体で一撃とはね……」
突進してくる魔物がいたから蹴っただけ、それだけで倒れる魔物が弱い。リストはピンピンしていたんだから。
ボアロフの討伐証明である角は切り落としたから、胴体はアイテムボックスへしまってある。家に帰ったら解体魔導具を大き目に作り直して解体してしまおう。肉は食えばいいし、素材は魔導具に必要なければお小遣いになる。
「コールゲンは光を目で追う習性を教えて貰ったので……」
群れの上空に光球を飛ばして、全て上を向いた所で、風の刃で首の部分を一網打尽?
コールゲンは頭にスライムの様なぷにぷにした大きな鶏冠を持つ鳥のような魔物だった。長い尾の先には茸……これは疑似餌らしくこれで他の魔物をおびき寄せるのだとか。
部位によって味も食感も違うのも納得出来る姿だった。
「うん。その後の魔導具も素晴らしい物だったね。初めて見たよ」
「はい。僕が作りました」
絶対に言ってはいけないと決めていた一言。
「ああ、だから聞いた事が無かっ……作った!?君が!?」
ああ……だから言っちゃ駄目だったんだって。ギルバードの視線が痛い……のに目を逸らせない。
「君はいったい……」
「僕は異世界からの転生者です。転生者の特殊能力として魔導具の作りの力を得ました」
真っすぐにギルバードを見つめたまま、俺は素直に自分の正体を打ち明ける。
そして……ただ不安を覚えながらギルバードの反応を待った。
「君が、転生者?魔導具……カズキ……いやまさか……だとしても彼は……」
暫し考え込んだあと、ギルバードは大きく腕を開く。
「カズキ君、おいで……魔法を使って疲れただろ」
「いえ……まだ余裕です」
そう答えながらも俺は、ギルバードに誘われるまま、ギルバードの腕の中に抱きしめられる。
ギルバードの腕の中は暖かかった。
「カズキ君……君の身の上は誰にも話してはいけない。リストも……そうだね。彼は素直すぎる。隠しておいた方が良いだろう」
うん。リストはバカ正直だ。
「ごめんね、俺は汚いね」
「ギルバードさんはとても良い方です」
悪い人……ではないと思う。思うけれど、俺はなんでこんなにギルバードに何の疑いも抱かずに全てを明かしているのか?
自分にも理解できなかった。
ーーーーーー
ほくほく顔。
協会から支払われた依頼達成の報酬。
しめて1銀貨と50銅貨。
まるまる俺の財産にして良いとの許しを得た。
「欲しい物があったのかい?言ってくれたら何でも揃えたのに」
「自分で稼いだお金で買いたかったんです」
この世界で初めての自分自身での買い物。楽しみでない筈がない。
昨日目星をつけていた果物や野菜を買って……そうだ、パンを作る材料も買っておきたい。酵母とかの作り方は異世界漫画でよく描かれていたから、俺の記憶を読み取ってくれる鑑定能力が学習済みだろうから、適当な知識でもいけるはず。
ホームベーカリーを作りたいな。
釜部分の為に鉄も欲しい。
リストから奪った盾はミスリル製だったんだよね……釜にも鍋にも使えない。
Sランク冒険者とお供をつけて……周りの驚きの目は気にしないようにしながら、俺は初めてのお買い物に勤しんだ。
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