第19話 俺の城

疲れた。

歓迎される側の俺がどうしてここまで気を使わなければいけなかったんだ。どいつもこいつも個性的すぎて自由すぎる。


テーブルに積み重ねられた肉の山に誰がこんなに食べるんだと思っていたが、あれだけ大騒ぎをしながらも、みないつの間にか食べていっているらしく肉の乗った皿は空になっていた。いつまで続ける気かと思っていた歓迎会だが、肉がなくなると皆あっさりと自分の家へと戻っていった。


ドサッとベッドに体を投げ出して天井を見上げてから……部屋の中を見渡した。

誰の気配も視線も感じない。俺だけの空間……。


家賃なんかはギルド依頼なんかの報酬から天引くから大丈夫といっていた。まだギルド依頼を受けられない俺は、これから地道に協会依頼をこなして冒険者ランクを上げてかなければならない。


思っていた『悠々自適』とは少し違うけど、ワクワクしてる自分。自分の力で何がやれるか、どこまでできるか?これからの新たな生活へ胸を高まらせつつゴロゴロとベッドの上を転がり……。


体を反転させて、木材と毛皮といくつかの石をベッドの上に並べた。


「風で吸い込み……汚れは水……ああ、浄化魔法で良いのか」


完成形を想像しながら、石を必要そうな魔石へと変化させていく。そうしてベッドの上に出来上がったのは平べったい円形の……。


「お掃除ロボット!!」


正しくはロボットではないけれど。自動でお掃除をしてくれる魔導具。

俺が暮らせるように急いで掃除をして用意してくれたのだろうけれど、部屋の中まで靴で生活する文化のためか、床には汚れや傷みがチラホラ……。


床の傷とか直せる魔法……直す、修繕?修復?なんかそんな魔法と願いつつ床の傷に手をかざしていると上手く修繕する事に成功したので、この魔法も魔石に込めて魔導具に組み込んでおいた。

お掃除ロボット2号の完成。


出来上がった魔導具を床に下ろし、動けと念じると音もなく動き始めた。お掃除ロボット2号が通った後は線を引いたかのように綺麗に輝いて、色すら変わって気持ちがいい。

底部分は床を傷つけないように毛皮を張ったし、想像した通りの静音性だ。クルクルとゴミや汚れを感知して自ら……自ら!?


「これは予想外……」


新種の生き物のように動くお掃除ロボット2号は、床だけでは気が済まなかったのか壁に張り付き、しまいには天井までお掃除を始めてくれた。


「さ、さすが俺……」


ピカピカのキラキラになっていくのは気持ちいいけれど、この部屋を見られたらまた説明が厄介だな……ま、尋ねてくる人なんていないだろうから大丈夫か。


特にやることもなく部屋の掃除は魔導具に任せて、今日はもう寝ようと布団に入り込んだ。藁とかでないだけマシだが、地球のものとは比べるまでもなく、王宮で使わせてもらっていたものとは違う。


飾り気のない部屋を薄闇の中で見つめながら、報酬を手にしたら何を買おうか、何を作ろうかなんて、想像しながらこの日は眠りについた。


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朝日の中で目覚め大きく伸びをして体の覚醒を促す。


カーテンの隙間から差し込む朝日に、新築の様に磨きあげられた床が輝いて見える。功労者のお掃除ロボット2号は仕事を終え、部屋の隅で眠っていた。


爽やかな朝という言葉がぴったりだ。


気を失うように床で寝ているところを叩き起こされる朝ではない。

暗闇の洞窟で記憶も朧げに目覚める朝ではない。

無人島で見ず知らずの男の横、聞いたこともない獣の鳴き声で目覚める朝ではない。


「今までで最高の目覚めだな」


朝食を用意しようとキッチンに向かうと、有り難いことにひと通りの食器類も揃えられていた。前の住人の物かもしれないが、すぐに生活できるのはありがたい。

しかも木の器ではなく、ちゃんと陶器。

陶器は粘土か……粘土を手に入れれば作れる魔導具の質も変わるだろうが、地理もわからず粘土を探すのは大変……皿を買ってストックしておけば素材として使えるか。


朝食の食材を取り出そうと、アイテムボックスを確認するが果実と草と肉と燻製魚。

肉は昨日、嫌と言うほど食べさせられた。草は香草類であってメインにはならない。朝から燻製魚を丸かじり……はちょっと……。


果物を切り分けてコップに水を注いでテーブルへ向かった。


質素だがのんびりとした優雅な朝。

目覚めの一発に栄養ドリンクを一気飲みじゃない、気を失うように寝ていた口にマジックポーションを突っ込まれる朝じゃない。


これだよ、これ!!

この余裕ある生活がしたかったんだ。


水で喉を潤し、果物を口にしてひと息つく。


「茶葉ぐらいは買っておこうかな……」


久々にコーヒーの香りで頭を目覚めさせたいと思ったけど、この世界でコーヒーは見ていない。だがお茶なら王宮で飲まれていたので流通しているはずだ。


「欲しい物がどんどん増えるな」


その欲求すら楽しいと思える。


欲しい物を手に入れる為には金を稼がねば……金を稼ぐには依頼をこなす事だよな。


協会の受付で貰った規約に目を通す、リストが言っていた通りGランクのうちは、所属ギルドが決まっていても協会の管理下にあり協会の依頼をこなす事とある。


「低ランクって事は報酬も低いって事だよな……まだ金の価値がつかめてないんだよな」


ランクを上げるには一定数の依頼をこなしていく必要があるらしい。数をこなし、依頼の成功率と信頼性から協会が合格と判断すればランクアップ成功。


「ひとまず協会に行って、どんな依頼があるのかを見てみないとな……」


初めはやはり定番に薬草採取とかかな?それなら鑑定の力で楽勝。討伐系だって低ランクに依頼するぐらいなら角兎レベルだろう。

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